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ポルシェのレストモッド始祖、シンガーはポルシェとこれまでにも何度も訴訟沙汰となっていた。なぜ両者は度重なる「訴訟と仲直り」を繰り返してきたのか

ポルシェのレストモッド始祖、シンガーはポルシェとこれまでにも何度も訴訟沙汰となっていた。なぜ両者は度重なる「訴訟と仲直り」を繰り返してきたのか

Image:Singer Vehicle Design

| 簡単に言えば、両者は「お互いを必要としている」からである |

それでもシンガー・ヴィークル・デザインはときに「行き過ぎて」しまうことも

さて、「ポルシェとシンガー・ヴィークル・デザインとの間の、幾度にも渡る訴訟と和解」に関する事実がカーメディアによってはじめて公開されることに。

なお、一般的に報じられた「ポルシェとシンガー・ヴィークル・デザインとの法的問題」というと2021年に発表された「シンガーACS(All-Terrain Competition Study)」を思い起こしますが、このシンガーACSのエンジンカバーには「PORECHE」の文字が描かれ、カーボン製シルパネルにもドイツの自動車メーカーの名前がエンボス加工されており、ポルシェがこれについて「このクルマがポルシェの製造したものだと受け止められると困る」という理由にて、車体からPORSCHEの文字を外すこと、そしてそれまでに公開したすべての画像を取り下げ、PORSCHE文字の入っていない車体を写したものと差し替えるようにという要求を行ったわけですね(もちろんシンガー・ヴィークル・デザインはこれに従っている)。

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ただ、実際にシンガー・ヴィークル・デザインとポルシェとの法的な争いはこの一件のみではなく、この前にも、そして直近では2024年2月にも発生していたことが明らかになっています。

シンガー・ヴィークル・デザインとポルシェはいった何を争っていたのか

そこでまず最初の法的な問題が生じた2012年4月の案件から話をすると、2009年に誕生したシンガー・ヴィークル・デザインはポルシェのレストモッドを開始し、その数年後には大きな話題を呼ぶことに。

そしてポルシェはこの時点でシンガー・ヴィークル・デザインがポルシェの事業に及ぼす影響を十分に「懸念」し、(シンガーの拠点である)カリフォルニア州で定められた「拘束力と強制力のある契約」をシンガーに締結させたのだそう。

この内容については全容が公開されているわけではないものの、「シンガーによるポルシェの商標(エンブレムおよびPORSCHE文字)の使用に境界を設定するもの」であるとされ、簡単に言えば「ポルシェのエンブレムや文字を使用しても構わないが、それらを使用する場合、それらを付与するクルマはポルシェがこれまでに製造してきたクルマの範囲に留まるものでなければならない」というもので、つまり独自の(ポルシェらしくない)デザインや仕様を付加してはならぬ、という内容です。

これは、「もしシンガーがポルシェのエンブレムや文字を付与した、しかしポルシェとは似ても似つかないようなクルマを販売したとしたら、それを見た消費者が”ポルシェ純正だと”混同してしまい、そのクルマのデザインや品質がポルシェのブランディングに反するものであれば、ポルシェのブランドイメージを損なってしまう」から。

シンガー・ヴィークル・デザインはポルシェのレストモッドを一つのビジネスとして拡大する意向を持っていたため、ポルシェが用意した契約書におよび合意書に全面的に従ったとされますが、こういった背景もあって、964世代のポルシェをレストモッドしつつも「初代911のルックス」「現代の911のブレーキやトランスミッション」「フックスホイールなど過去のデザイン」「ボアアップしたといえど水平対向6気筒」というポルシェの持つ視覚的・物理的遺産に準拠した仕様を(時代を飛び越えて)採用せざるを得なかったのだと解釈できます(シンガー・ヴィークル・デザインは創業当初、テールランプに「サークル」を仕込んだコンセプトカーを作った事があるが、レトロラインの車両にこれを用いていないのはポルシェのデザインを逸脱してしまうからだと思われる)。

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しかしその後、ポルシェとシンガーとの間に新たな火種が生じる

ただしその後に問題となったのが2021年に登場した「DLS」。

これは964世代の911の車体をベースに大幅な軽量化を行い、ウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングの設計によるエンジンを搭載した上、本来のモノコックを大幅に変更してまったく新しいサスペンションレイアウトを搭載したクルマです。

見た目こそはたしかに「911」ではあったものの、車体構造としてはもはや911の面影を残しておらず、ポルシェによれば「ポルシェの車台番号を持ちながらも、ポルシェではない車両」。

たしかにこのシンガーDLSは「シンガーが考えた、新しい構造を持つスポーツカー」だと解釈することも可能ですが、シンガーが「ゼロベースで」このDLSを作らなかったのは、シンガー自身が車体製造業者として認可されていないために新規登録可能な車体を作ることが(法的に)許されず、よってポルシェの車体を活用(あるいは流用)しているわけですね。※むろん、ポルシェの車体を使用することでビジネスが有利に運ぶという判断もある

そしてこのシンガーDLSは2022年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで一般デビューを飾り、その際にもポルシェのエンブレム、さらにはサイドとリアに「PORSCHE」文字を掲示していたことがポルシェにとっての「問題」であったと言われ、その後に発表された(930ターボの再解釈モデルである)DLSターボが火に油を注ぐ形に。

これはポルシェとシンガー・ヴィークル・デザインとがエンジン供給契約に合意して間もない時期のできごとであり、これに腹を立てたポルシェは45ページにもおよぶ文書をシンガー・ヴィークル・デザインに送りつけることになったと報じられているわけですが、その内容は「2012年になされた合意の範囲を逸脱して違法にポルシェのエンブレムと文字を使用しており、DLSそしてDLSターボをポルシェの製品であるかのように見せることで不当な利益を得ている」。

同時にポルシェはシンガー・ヴィークル・デザインに対する訴訟も起こし、ここで主張したのが「DLSおよび DLSターボの今後の生産を直ちに中止し(DLSターボ以外のすべての受注は実際にすでに終了している)、ポルシェの文字やエンブレムが確認できる広告、パンフレット、販促資料を破棄し、ポルシェのエンブレムや文字の使用を中止するように」。

加えてポルシェはシンガー・ヴィークル・デザインが車両の販売によって得た利益の一部をポルシェに渡すようにという要求も行ったそうですが、この訴訟は2024年2月に取り下げられており、つまりは何らかの和解が両者の間でなされたということになりそうです。

そしてその後もシンガー・ヴィークル・デザインは安定してポルシェのレストモッドを提供し続けていて、よってシンガー・ヴィークル・デザインはポルシェの出した条件を飲んで生産を継続しているのだとも考えられますが、おそらくポルシェがシンガー・ヴィークル・デザイン製のクルマから「ポルシェとの関連性を示すものをすべて外すように」と要求したのは「脅し」だったのでは、と考えています。

というのも、シンガー・ヴィークル・デザインはポルシェファンからも高く評価されており、シンガー・ヴィークル・デザインを追い詰めることはポルシェ自身の評価を落とすことにもなりかねないためで、むしろポルシェが望むのは「シンガー・ヴィークル・デザインとの共存の道」なのかもしれません。

参考までに、シンガー・ヴィークル・デザインはつい最近、自身のサイトに「ポルシェへの敬意と、ポルシェの商標権を尊重するため、我々の素晴らしいマシンはいかなる状況においても、”シンガー 911”、”シンガー ポルシェ 911”、”ポルシェ シンガー 911”などと呼ばれたり、説明されたりしてはなりません 」という文言を追加しており、これはポルシェの指示によるものと捉えて良さそうですね。

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参照:CARSCOOPS

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