| フェラーリは独自の理念に基づき、ドライバーが運転に集中できる環境を整えてきた |
そして現代では、同乗者にもエモーショナルな関わりを持たせ、運転していなくとも「特別な体験」ができるように配慮されている
さて、フェラーリが「エンジンやシャシーのみではなく、インテリアにおいても常に業界のリーダーである」というコンテンツを公開。
意外なことかもしれませんが、フェラーリは内装において常に「扱いやすさ」を考慮しており、ドライバーに対して負担をかけないことに高いプライオリティを置いています。
その考え方につき、おそらくは耐久レースや、一瞬の判断が勝敗を分けるF1において「ドライバーが運転に集中し、他のことに気を取られなくてもいい」ようにというところからから来ているのだとぼくは捉えており、これは「レーシングチームがそのルーツである」フェラーリらしいところだと考えています。
フェラーリ・プロサングエのインテリアは現時点で「フェラーリの集大成」である
そこでフェラーリが「もっとも進化したインテリア」として挙げるのがプロサングエ。
プロサングエは見ての通り運転席と助手席の「2つのウイング」から成るデザイン的構成を持っていますが、これは「ドライバー以外の乗員にも、ドライバーが感じるのと尾同じように、エモーショナルな関わりを持って欲しい」というコンセプトに起因するもの。
なお、この「助手席ディスプレイ」は(およそ1世代前くらいにまで遡った)他のフェラーリにも(標準なりオプション装備なりで)備わっており、プロサングエほどサイズは大きくないものの、フェラーリはけっこう前から「助手席の人にも楽しんでもらおう」という考え方をもっていたということがわかります。
ちなみにですが、この助手席ディスプレイについてはほかのスポーツカーメーカーは(フェラーリが導入した後)しばらくは興味を示さなかったものの、ポルシェが「タイカン」にて取り入れ、さらには最新モデルのカイエンにてこれを拡大。
そしてポルシェと同じくフォルクスワーゲングループに属するランボルギーニもまた、最新V12フラッグシップである「レヴエルト」でこれを取り入れ、EVコンセプト「ランザドール(下の画像)」ではこれを拡大して装着しており、こういった傾向を見ると、おそらくはほかの自動車メーカーも今後これを取り入れてくることになると考えてよく、これからの1つのトレンドと成るかもしれません(そして、このトレンドはフェラーリが発信したものということになる)。
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そのほか、フェラーリはHMI(ヒューマンマシンインターフェース)にも非常に高いこだわりを見せ、やはり運転中の(ドライバーの手の)動線を最小限に抑えることを考えていて、同社の設計理念のひとつでもある ”視線は道路上、手はステアリングホイール” をとことん追求。
そのためウインカーレバーは存在せず、(458イタリア以降のフェラーリでは)ウインカー操作はステアリングホイール上のロッカースイッチにて行います。
ちなみにこのウインカー「スイッチ」を最初に見たときこそはちょっと戸惑ったものの、交差点をいくつか曲がってウインガーを数回操作した後にはすっかりこれに慣れてしまい、むしろ他のクルマに乗ると「なんでフェラーリのようなウインカースイッチを採用しないんだろうな」と考えるようになり、ウインカーレバーの操作が面倒くさくなるほど。
そのほかドライブモード(マネッティーノ)の制御スイッチは2004年のフェラーリF430からステアリングホイール上へ。※この”ドライブモード”の導入についてもフェラーリはかなり早い段階で行っている
ステアリングホイールには「頻繁に、かつ運転中に使用する」操作系が集中して配備されていて、これによってドライバーは運転中にステアリングホイールから手を離す必要がなくなり、かつ集中力を削がれることもなくなるわけですね。※これらについては、実際に生体測定テストの結果から配置や操作感が決定されている
加えて、ステアリングホイール上部に埋め込まれるLEDインジケーター(レーシングカー同様にエンジン回転数を直感的にわかるように表示する)もドライバーを運転に集中させるための機能であり、フェラーリの市販車において、様々な機能が「極限の環境下で競われるモータースポーツから」フィードバックを受けていることがわかります。
ちなみに最新のステアリングホイールはこういったデザインで、大きな特徴としてはスポーク上に「タッチ式スイッチ(タッチセンサー式サムパッド)」が設けられていること。
このパッドの操作によって16インチサイズのメーター兼インフォテイメントディスプレイ(かなり大きい。一般的なデジタルメーターは約12インチである)の表示をコントロールでき、様々なサブメニューを呼び出すことが可能となっているわけですね。
なお、操作(サムフリック)の際にはフリック音が発せられてドライバーにフィードバックを与えることになりますが、ローマ・スパイダーではこのフィードバックに「振動」が追加されている、とのこと(このフィードバックは非常に重要で、これがないと操作を受け付けたかどうかわからず、二度押ししてしまうことになる)。
一方で、運転中に操作することがないスイッチ類はこんな感じでセンタートンネルへ(しかしその形状がアート作品のようである)。
最新バージョンだとこう。
これはジェッド機の「スロットルレバー」「かつてのフェラーリのオープンゲートシフト」を模したデザインだとアナウンスされています(ただ、ぼくはこの光沢と質感があまり好きではない。プロサングエでは上品な仕上げに変更されているようだ)。
そのほか、現行のフェラーリでは室内からのドア開閉を「ボタン」で行うことになりますが、この(グリップ付近に設置されている)ボタンを押すと電動でロックが解除されてドアが開くという親切設計(レクサスがNXにて導入した)。
つまりレバーなどを引いてドアを開く必要がなく、「まさかフェラーリにこういった快適装備が備わるとは」といった感じですね。
フェラーリのインテリアは究極のモダニズムを反映している
なお、フェラーリは(モータースポーツ活動がそのブランドのルーツであるといえど)美しさを非常に重要視しており、そのレーシングカーや市販車において「美しさ」を重視しているのは周知の通り。
よって、その美学を汚す存在に対しては容赦なく法的手段を検討し、どんな著名人であっても即座にブラックリストに追加したりすることでも知られていますが、「美しさを重視し」市販車に(別体式)ウイングを装着しないのも意外な事実です(SF90 XXは”XXプログラム直系”ということで今のところ唯一の例外だと捉えている)。
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実際のところ、ぼくは「フェラーリを超える速さを持つクルマを作ることは難しくないだろうが、フェラーリを超える美しさを持つクルマを作ることは容易ではないだろう」とも捉えていて、もちろんこの「美しさ」の基準は人によって異なることも理解しています。
ただ、フェラーリが「速さ」という数字で測ることができる基準のみによって判断されるクルマではないことは間違いないのは間違いないとも認識しており、それがフェラーリをフェラーリたらしめている一つの要因ではないかと考えています(客観的数値によって優位に立とうとしても、それはすぐに抜かれたり、色褪せてしまうことがある)。
それはともかくとして、ぼくがここで言いたいのはフェラーリの内装の美しさ。
フェラーリがそのエクステリアデザイン同様にインテリアに対しても強いこだわりを持っていることは間違いなく、それは上で述べたHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に加え、視覚的な美しさも同様かもしれません。
たとえば、フェラーリは単に機能的であるだけではなく、その造形についても芸術性が感じられ・・・。
エアコン吹き出し口についても「必要性を超えた」範囲での美の追求も見られます。
ダッシュボード上には「レザーストラップ」を意識したと思われるアクセントも(ただ、これはダッシュボードのレザーを二分割しても継ぎ目が目立たないという実利が含まれているものと思われる)。
さらにはステッチの幅も選択できたり・・・。
素材やカラーを「部署単位で」選択可能(ダッシュボードの上下やバルクヘッド上下、ステアリングホイール単体など)。
エレガントにもレーシーにも仕上げることができるのがひとつの魅力だと言えるかもしれません。
シートベルトなどの「パーツ」の選択範囲も非常に広く、文字通り「無限」の選択肢が存在します。
こういったイタリアンカラーの刺繍も追加可能。
これらパーソナリゼーションについても、フェラーリが先鞭を付けた部分だと言えるかもしれません(ただしポルシェはもっと早い段階から顧客の要望を取り入れたカスタムを行っていたように思う)。
こういった美しさ、そしてパーソナリゼーションの高さに加え、プロサングエでは「エアコンの調整ダイヤルがせり上がってくる」などのギミックもあり、フェラーリは「ただ速さや機能性を追求するだけ」ではなく、実際に乗車して運転するときの「体験」までをもデザインしていると言えそうです(さらに言うなれば、オーダーや納車に至るプロセスまでもデザインされていると考えていい)。
加えて、現代のフェラーリのインテリアは「ドライバーだけのもの」ではなく、その体験=エクスペリエンスの対象範囲がほかの乗員にまで拡大してきている、ということも理解できます。
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