>テスラ(TESLA) >フェラーリ

フェラーリはなぜ新CEOを自動車業界ではなく電子業界から抜擢したのか?新CEOが「テスラは自動車業界を揺るがし、プロセスや決定を加速させた」と発言、自身の存在意義を語る

フェラーリ

| ベネデット・ビーニャCEO「テスラが誕生する以前の自動車業界では、ものごとの進む速度が遅すぎた」 |

加えて「テスラが自動車業界の目を覚まさせたのだ」とも

さて、新CEO、ベネデット・ビーニャ氏を迎えた後にかつてないほどの速さで変革を迎えるフェラーリ。

ベネデット・ビーニャCEOは自動車業界ではなく、主に(iphoneなどに使用される)センサーを開発するエレクトロニクス企業からの転身という変わり種です。

もちろんフェラーリが「スカウト」してきた人材ではありますが、フェラーリはCEOはじめ重役を”自動車業界以外からの”出身者で固め、その一方で旧来の役員たちを重責から外すという思い切った人事を行ったことも報じられています。

フェラーリ
フェラーリが「経営陣の刷新」を図り、これまでに多大な功績を残した3名の上級経営者をクビに。ガソリン時代の役員は各社でどんどん「用済み」に・・・

| 思った以上に、自動車メーカーの内部では大きな変化が起きているようだ | 自動車メーカーの重役に求められる能力もこれまでとは全く変わりそう さて、フェラーリは9月1日に新CEO、ベネデット・ビーニャ ...

続きを見る

なぜフェラーリは取締役の刷新を?

なお、CEOはじめ取締役を刷新したきっかけとなったのは、前フェラーリCEOであるセルジオ・マルキオンネ氏が急死したためで、同氏のかわりとしてグッチ等のハイブランド、そしてエレクトロニクス業界から、さらにはiMacをデザインしたジョナサン・アイブなど様々な候補者が検討されたといい、しかし共通するのは「新CEOの候補者は自動車業界以外の人物であること」。

フェラーリCEOがビーニャ氏に決定
これまで空席だった「フェラーリCEO」がベネデット・ビーニャに決定!アップルのデザイナーでもグッチCEOでもなくエレクトロニクス業界から

| ついに自動車とは全く関係のない人物が自動車メーカーのCEOを務める時代に | フェラーリがもっとも重視するのはつまり「エレクトロニクス」ということに さて、フェラーリの前CEO、ルイス・カミッレー ...

続きを見る

その理由としては、フェラーリが自動車メーカーからラグジュアリーブランドへと変革を遂げるためであったと考えられていて、実際にフェラーリは新CEOであるベネデット・ビーニャ氏着任以降にラグジュアリー色を強めてゆくことになりますが、これはベネデット・ビーニャ氏の意向というよりは、(時系列的に見て)フェラーリの株式の多くを所有するフィアット創業者一族の意向であったと考えられます。

そしておそらく、フィアット創業者一族は「未来の富裕層は、より洗練された製品、そしてエレクトリックカーを好むであろう」と考えたのだと思われ、そこで白羽の矢が立ったのがベネデット・ビーニャ氏ということになるのかも。

なお、自動車メーカーのCEOが「自動車業界以外から」という例は非常に珍しく、しかし同氏はすでにフェラーリにていくつかの改革をもたらしていて、中でも大きなものは「様々な流れに適応するスピードを極限にまで早めたこと」。

フェラーリ

そして今回注目されているのが、ベネデット・ビーニャ氏がテスラについて語ったコメントなのですが、同氏はテスラそしてイーロン・マスクCEOを高く評価し、テスラが自動車業界を「目を覚まさせるきっかけになった」とまで語っています。

ベネデット・ビーニャ氏によると「テスラは業界を揺るがし、プロセスや決定を加速させた。彼らはより速く、より機敏に動いている。 自動車業界は元来、意思決定がかなり遅く、変化に対して常にオープンではないという評判がある。テスラはそれを変えたのです」。

イーロン・マスクCEOも自動車メーカーでの勤務経験はなく、それまではソフトウエア業界、そして航空宇宙産業に携わっていた人物で、だからこそ「自動車業界の常識にとらわれない」展開が可能となったのかもしれません。

自動車業界は閉鎖的であり意思決定の速度が遅い

ちなみにトヨタは過去にテスラと提携するものの、「学ぶものは無い」として提携を解消し、BMWはモデル3の生産がなかなか開始できないテスラを見て「これだから部外者は。やり方を教えてやろうか?」と揶揄したことも。

ただしそこからテスラは独自の手法にて生産を行い、さらにはどんどんコストを引き下げ、頻繁なアップデートによって製品の品質を向上させており(いずれも自動車業界の常識とは全く異なる方法によって、である)、トヨタのEVを「発売する前から時代遅れ」にしてしまったのは記憶にあたらしいところ(これによって、トヨタはそれまで考えていたEV計画を白紙にせざるを得なくなった)。

トヨタ・クラウン
見通しが甘かった?トヨタが「このままEV計画を進めると採算が合わない」として計画の見直しと一部停止。クラウン、コンパクトクルーザーの開発停止も

| ボクは常々、2021年末の「EV新戦略」は株価対策のポーズでしかないと考えていたが | どう考えても、トヨタ含む日本の自動車メーカーのEVに対する姿勢は世界標準からかけ離れていた さて、トヨタが「 ...

続きを見る

そしてBMWも「テスラを追う立場」となり、2025年のノイエクラッセに期待をかけているものの、こちらももしかすると「発売した頃には、テスラに太刀打ち出来ないほど時代遅れ」となっている可能性も考えられます。

テスラ

こういった状況を生んだのは、ひとえに「エレクトロニクス業界と、自動車業界の意思決定と開発速度の差」だとも考えられ、よってフェラーリはそこに目をつけて自動車業界以外からの人材をリクルートし、ベネデット・ビーニャ氏はみごとその期待に応えているとも考えられます(自動車業界での非常識を「常識」にしようとしている)。

現在自動車業界は「100年に一度の変革期」と言われるものの、ここで判断を間違ってしまえば取り返しのつかない損失を被る可能性もあり、しかしここで覇権を取ることができるかどうか、もしくは被害を最小限に留めることができるかどうかは「意思決定の速さ」に左右されるのかもしれません。

そしてベネデット・ビーニャ氏は、「旧態依然としており、変革スピードが遅い自動車業界」の目を覚まさせたのがテスラだと言っているわけですが、おそらくフェラーリはかなり早い段階からテスラを注視しており(フェラーリ会長、ジョン・エルカーンとイーロン・マスクCEOとが対談したこともある)、変革の必要性にいち早く気づいた自動車メーカーなのかもしれません。※その意味では、テスラを理解できないという経営者は無能かもしれない

フェラーリ
フェラーリ会長とテスラCEOとが会談!「フェラーリに自律型自動運転が導入されたら悲しい」と語る同社CEOに対しイーロン・マスクが「まったくだ」と賛同

| フェラーリは数多くの特許を出願しているが、たしかに自動運転に関するものは報じられていないようだ | おそらく今後も、フェラーリが自動運転を追求し、それをコアバリューとして押し出すことはないだろう ...

続きを見る

もしかすると今後、フェラーリのように「目を覚ました」他の自動車メーカーが、より速いスピードが要求される(ソフトウエア業界のような)分野からCEOを引っ張ってくる可能性がないとは言えませんが、今のところそういった例は見受けられず、よってほとんどの自動車メーカーは「まだ目を覚ましていない」のだとも考えられます。

なお、ベネデット・ビーニャCEOは、「テスラ以前」の自動車業界では、ものごとが進む速度が遅すぎたと表現しており、「周囲の環境をいかに早く理解し、いかに早く適応して決断を下せるかが重要です。最終的な決断を下すには、あらゆる要素が揃うまで待つ必要があると考えているならば、それは遅すぎるということです」とも述べていて、つまり電動化技術が発達するまで待つと考えているようでは「もう遅い」ということなのだと思われ、このあたりは自動車業界とエレクトロニクス業界との考え方の差が端的に現れている部分だと言えそうですね。

加えて、現代では先にその製品を発売したものほど(リスクも大きいが)利益が大きいという「先行者利益最大化」的な状況となっており、後発が得られる利益が少なくなる傾向も。

よって、機が熟するのを待って電気自動車に参入すると、もしかするとそこにもう市場は残されていないのかもしれません。

フェラーリF8トリブート

ちなみに、EVでなくとも自動車の「エレクトロニクス化」は大きく進んでおり、車体に占めるそのコストの30-40%がエレクトロニクス関係だと言われていて、さらにその比率は年々高くなっており、よって自動車メーカーのほうがエレクトロニクス業界の考え方にあわせるのが「自然」なんじゃないかと思います。

日本の自動車メーカーは特にこのあたりが遅れていて、自動車にエレクトロニクスを「プラスする」というりハードウエア中心の考え方となっているものの、欧州ではソフトウエアを先に考え、それに合ったハード(車体)を設計するという考え方が主流となりつつあり、日本車のインフォテイメントシステム、OTA(無線アップデート)が低レベルにとどまるのもここに理由があるのかもしれません(日本の場合、自動車メーカーとサプライヤーとの関係性において、自動車メーカーが支配的であるのかもしれない)。

先日、ようやくトヨタが「クルマの知能化」をテーマとして打ち出したものの、すでにこのコンセプトはテスラがずっと前に示して実践しているもので、かつ数年前から欧州の自動車メーカーもこれに取り組んでいるために「今さら感」が強く、これが日本の自動車メーカーの現状なのでしょうね。

トヨタ
トヨタが新社長体制下での計画を発表!2026年に発売を目指す次世代EVの開発、そして電動化はレクサスを中心に行うこと、モビリティ・カンパニーへの変革が語られる

| 新体制下では豊田章男社長の思想を継続、しかし新しい取り組みも | 新しいトヨタは「電動化」「知能化」「多様化」を目指す さて、トヨタは先日社長の交代を含む新しい人事を発表していますが、今回は次期社 ...

続きを見る

ただしフェラーリはテスラになろうとしているわけではない

しかしながら、フェラーリはテスラによって「叩き起こされた」ものの、けしてテスラになろうとしているわけではなく、ベネデット・ビーニャCEOは「テスラのクルマは非常に機能的で、A地点からB地点へと効率的に移動するために用いられるものであり、我々のクルマとは顧客の層が全く異なる」とも。

さらに同氏はフェラーリのクルマを「エモーショナルな存在」だと表現しており、ピュアエレクトリックカーであってもエモーショナルでエキサイティングであり続けると宣言しています。

一方で、ピュアエレクトリック一辺倒となって「顧客の選択肢を狭める」ことはしないともコメントしており、現在のフェラーリのロードマップだと、2026年までに55%のモデルがハイブリッドになり、5%がピュアエレクトリック、そしてガソリンエンジン搭載車のシェアは40パーセントという計画を持っています。

さらに10年後だとガソリン車はわずか20%、40%がハイブリッド車、40%が純電気自動車になると予想しており、2030年末までにカーボンニュートラルになること、サステナビリティに大きく注力することも目標として掲げられています。

フェラーリ
フェラーリが中期計画を発表!今後5年で15車種を発売、2025年には初のピュアEV、ハイパーカーも。ターゲットは100万ドル(1.3億)以上の投資可能資産を持つ富裕層

| 今後もフェラーリの中心的価値は「ドライビングプレジャー」、そして希少化戦略は揺るがない | ガソリン車の販売比率が縮小するも、ガソリンエンジンの開発は継続 さて、フェラーリが投資家向けに「キャピタ ...

続きを見る

合わせて読みたい、フェラーリ関連投稿

フェラーリ
フェラーリがEV用の工場用地を取得し「第3の組立ライン」を建設中との報道。生産能力を拡大することは間違いなく、投資家向けの説明会で発表

| フェラーリは新社長のもとでエレクトリック化を加速させる | さらにフェラーリをSUVのラインアップを3モデルに拡大する可能性も さて、フェラーリはブランド初となるEVの発売を2025年に前倒しして ...

続きを見る

フェラーリがEV用プラットフォームの特許を出願!ガソリンエンジンではできない構造を採用し、完全に新しい考え方を導入した新世代へ
フェラーリがEV用プラットフォームの特許を出願!ガソリンエンジンではできない構造を採用し、完全に新しい考え方を導入した新世代へ

| この新しいフェラーリのプラットフォームは「見れば見るほど」よく出来ているようだ | この図面を見るに、他社もうかうかしてはいられない さて、フェラーリは現在スーパーカーメーカーの中でも先陣を切って ...

続きを見る

フェラーリがiPhone、Apple Watchのデザイナーと提携発表!2025年発売のEVについてジョニー・アイブ、マーク・ニューソンとデザインを共同にて行う模様
フェラーリがiPhone、Apple Watchのデザイナーと提携発表!2025年発売のEVについてジョニー・アイブ、マーク・ニューソンとデザインを共同にて行う模様

| フェラーリの「異業種との関係性構築」はとどまるところを知らない | フェラーリの新型EVは「アップル」っぽく丸くシンプルな形に? さて、フェラーリが「LoveFrom(ラブフロム)」との複数年に渡 ...

続きを見る

参照:Bloomberg

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

->テスラ(TESLA), >フェラーリ
-, , , , ,