
Image:Maserati
| マセラティは近年稀に見るほどの「大変革」に着手 |
「ステランティス」グループのシナジー効果を最大限に活用
イタリアの至宝であり、100年以上の歴史を誇る「三叉の銛(トライデント)」ことマセラティ。
近年は販売不振が報じられ、親会社であるステランティス(Stellantis)がブランドを売却するのではないかという不穏な噂が絶えないほどであったのも記憶に新しいかと思います。
しかし現在、その暗雲は完全に吹き飛ばされ、先月開催されたステランティスの投資家向け説明会にてブランドの存続と投資が確約されるやいなやマセラティはすぐさま2027年モデルのコアラインナップを刷新し、さらには新型グラントゥーリズモ / グランカブリオ / グレカーレ発表イベントの直後にメディアの取材に応じた経営陣の口からぼくらの魂を激しく揺さぶる「驚愕の未来図」が明かされることに。
それは時代に逆行するかのような「新しいV8エンジンの開発」、絶滅寸前の「マニュアルトランスミッション(MT)の復活」、そして「新型ラグジュアリーセダンの投入」という、エモーショナルなスポーツカーの理想をすべて詰め込んだような大逆転の戦略で、資金難の噂が囁かれる中、マセラティはいかにしてこの壮大な野望を実現しようとしているのか、その舞台裏に迫ってみましょう。
-
-
マセラティ新型「グレカーレ」がフェイスリフト。全ガソリン車にF1由来のネットゥーノV6を投入、デザインにはMC PURAの要素を取り入れる
Image:Maserati | 今回のフェイスリフトではグラントゥーリズモ同様、「シャープで現代的」なルックスに | マセラティ史上、もっとも先進的なスタイリングを獲得したと言っていい 群雄割拠のヨ ...
続きを見る

Image:Maserati
-
-
マセラティ、アルファロメオも「安泰」。ステランティスが新戦略「FaSTLAne 2030」を発表、14ブランドを率いる巨人の財務目標と自動車市場への影響を読み解く
| 一時は売却が囁かれたマセラティとアルファロメオではあるが、売却を回避しステランティス傘下にとどまる | ステランティスは他の自動車メーカーとは大きく異なる戦略を採用 自動車業界が100年に一度の変 ...
続きを見る
この記事の要点
- ステランティス残留と2027年モデル発表: 売却の噂を完全に払拭し、親会社ステランティスはマセラティの全面支援を表明。グラントゥーリズモ、グランカブリオ、グレカーレ、およびEVの「フォルゴーレ」の2027年新型モデルを世界初公開
- フェラーリ製に頼らない「独自V8エンジン」を検討: 名機「ネットゥーノV6」に誇りを持ちつつも、エンジニアリング部門のトップがマセラティ独自の新しいV8エンジンの開発・搭載を本格的に検討中であると明言
- 限定車「ボッテガ」でのマニュアルトランスミッション(MT)復活: カスタマイズ部門のボスが、数少ない富裕層コレクター(レトロシーカー)の要望に応え、将来の限定モデルで3ペダルMTをラインナップする可能性を示唆
- 新型ラグジュアリーセダンの投入を確約: SUV全盛の時代にあえて一石を投じる、アグレッシブでモダンな次世代大型高級セダン(次期クアトロポルテか)の開発が進行中であることを公式に認める
-
-
【官能の深化】マセラティが新型「グラントゥーリズモ」「グランカブリオ」を発表。パワーアップに加え「美しき肉体美」が強化、さらには「近代的」に
Image:Maserati | そのスタイリングは一気に「近代的」に | マセラティは苦境にあっても反撃の手を緩めない 美しいシルエットと五感に訴えかける官能的なエキゾーストノート。数あるラグジュア ...
続きを見る
経営陣がメディアに放った3つの約束
マセラティが目指す未来は電動化シフトだけではなく、彼らはブランドを熱狂的に支持する「本物のエンスージアスト(自動車愛好家)」たちの心を再び掴もうとしており、幹部たちが語った言葉からその具体策を紐解いてみましょう。

1. フェラーリ製ではない、完全自社製の「新V8エンジン」
マセラティは現在、MC20やグラントゥーリズモに搭載されている3.0L V6ツインターボ「Nettuno(ネットゥーノ)」エンジンに絶対的な自信を持っており、最高執行責任者(COO)のサント・フィチーリ氏は「世界最高、いや地球上で最も優れたV6だ」と胸を張りますが、同時に「未来にV8を搭載する可能性を忘れてはいない」とも付け加えることに。
さらにチーフエンジニアのダビデ・ダネシン氏は明確にこう語っています。
「私たちには知識があり、能力もある。最終的にV8を復活させる準備はできています。世界には、それこそがマセラティのあるべき姿だと信じる人々がまだいる。今日言えることは、私たちはその開発を『検討している』ということです」
これはかつてのように、フェラーリから供給を受けるのではなく、ネットゥーノV6で培ったF1由来のプレチャンバー(副室)燃焼技術などを応用した、マセラティ完全オリジナルの次世代V8が誕生する可能性を示唆しているというわけですね(同じグループ内にあるダッジが開発しているというV8とブロックなどを共有する可能性もありそうだ)。
-
-
ステランティス衝撃の「260億ドル(約4兆円)」赤字。EVシフトの誤算と「V8エンジン復活」への大転換戦略とは
| ここからの「巻き返し」に期待がかかる | しかしながらステランティスにはすぐに対応できる「有効な手」が殆ど残されていない ステランティス(Stellantis)グループから世界の自動車業界を揺るが ...
続きを見る
2. コレクター向け限定車で「3ペダルMT」の復活へ
最高マーケティング責任者(CMO)であり、ビスポーク(特注・限定車)部門「ボッテガ・フオリセリエ」を率いるクリスティアーノ・フィオリオ氏は絶滅しつつあるマニュアルトランスミッションについて極めて前向きな見通しを示しており、アストンマーティンが発表した限定車「ヴァラー(Valour)」のように、超高額な限定モデルにおいて、顧客の約50%がガソリンエンジンと手動変速機の組み合わせを熱望しているとコメントしています。
さらにフィオリオ氏は彼らを「レトロシーカー(古き良き時代を追い求める人々)」と呼び、「新しいボッテガ・プログラムを提示する日が来れば、私たちはプロダクトポートフォリオの中にマニュアルボックスを入れなければならないと信じている。その日は遠くない」と断言。

そしてこれは「カタログモデルではないものの」マニュアル・トランスミッションが復活するということを意味していて、やはり近年のマセラティにとっては「非常に大きな」方向転換ということに。
3. 「SUVだらけの世界」に一石を投じる新型セダン
ギブリと先代クアトロポルテが生産を終了したことで、マセラティのセダンラインナップは一時的に途絶えていますが、彼らは伝統のセダンセグメント(欧州E〜Fセグメント)を捨てる気はないもよう。
フィオリオCMOは、「世界はSUVで溢れかえっているが、モダンに解釈されたセダンなら流れを変えられる。実用的でありながら、最高にアグレッシブなセダンのためのスペースは必ず市場に残されている」と語り、顧客からの明確なリクエストに基づいて新しいセダンモデル(次期クアトロポルテと目される)の開発が水面下で進行していることも認めています。
2027年最新ラインナップおよび将来構想スペック
今回発表された2027年モデルのアップデート内容、および将来的に噂される「ボッテガ(限定車)」構想の予測スペックは以下の通りです。
マセラティ 2027年最新モデル&将来のアイコンスペック
- 2027 グラントゥーリズモ・トロフェオ(最新仕様):
- エンジン:3.0L V6ツインターボ「Nettuno」
- 最高出力:582 hp(590 cv) ※従来の550hpから大幅パワーアップ
- 2027 フォルゴーレ(Folgore)シリーズ(EV):
- 対象車種:グラントゥーリズモ、グランカブリオ、グレカーレ
- 変更点:エクステリアのマイナーチェンジ、空力性能の向上、インフォテインメントシステムの刷新
- 【将来構想】ボッテガ(Bottega)限定ハイパーカー(予測):
- パワートレイン:新開発 独自V8ツインターボエンジン
- トランスミッション:6速マニュアルトランスミッション(3ペダル)
- 生産台数:世界限定 数十台規模
- 想定価格:数億円規模

Image:Maserati
市場での位置付け:ポルシェやアストンマーティンに対する「エモーショナル」での挑戦
現在のマセラティは、ポルシェ、あるいはアストンマーティンといったハイエンドなプレミアムスポーツブランドと競合しています。
しかし、大手資本の下で効率化とSUV化、そして完全電動化を急ぐライバルたちに対し、マセラティはあえて「V8」「MT」「スタイリッシュなセダン」という、クルマ好きが最も歓喜するエモーショナルな要素(ヘリテージ)を前面に押し出すことで独自のプレミアムな立ち位置を再構築しようとしているわけですね。
そして直近のフェイスリフトでも示されたように「目に見える変化」がすでに始まっており、「自らの強みを把握し、それを活かす方法を見出した」マセラティの今後には期待がかかります。
マセラティの戦略に隠された「ラグジュアリービジネスの冷徹な計算」
そこでマセラティによる「現代のラグジュアリーカービジネスにおける極めて合理的な計算」について考えてみると・・・。
1. モデリング(金型)変更は安いが、エンジン開発は「天文学的コスト」
今回のようなフロントバンパーやライトのデザインを変える(フェイスリフト)コストに比べ、新しいエンジン(V8)やトランスミッションをゼロから開発・適合させるコストは天文学的です。
では、なぜ資金難と言われるマセラティがそれを「検討している」と言うことができるのか?
答えは「限定車ビジネスによる超高利益率の回収」にあり、フェラーリの「イコーナ(Icona)」シリーズやアストンマーティンの限定車が証明しているように、世界中の億万長者は「大排気量、MT、限定数十台」というパッケージになら1台3億〜5億円という大金を喜んで支払うことが明らかになっており、マセラティは通常モデルの薄利多売で苦しむ代わりとして、ブランドの神話性を利用した「ハイパーリッチ向けビジネス」に打って出ようとしているということに。

Image:Maserati
2. 「ネットゥーノV6」のモジュール設計という伏線
もう一つの現実的な技術の裏付けとして現行の名機「ネットゥーノV6」の構造が挙げられ、ネットゥーノはマセラティが完全自社開発したエンジンではありますが、その設計ブロックは非常に近代的でモジュール化されています。
技術的には、このV6の設計(シリンダーボアや燃焼室の構造)をベースとし、バンクを2気筒分引き伸ばして「V8化」することは完全な白紙状態から新しいエンジンを開発するよりも遥かにコストと時間を削減でき、これはアルファロメオがフェラーリのV8エンジンから「2気筒減らして」6気筒としたのと逆の手法。
エンジニアリングのトップが「我々には能力がある」と言い切った背景には、すでにネットゥーノ開発時から「将来のV8化」を見据えた設計上の仕込みがあったからだとも推測できます(あるいは、ステランティスグループのほかブランドからV8エンジンの設計を譲り受けるのかもしれない)。
結論
セダン、V8エンジン、そしてマニュアルトランスミッション。マセラティがメディアに語ったその野望は、電動化と効率化という現代の自動車業界の巨大な潮流に対する、イタリアのプライドをかけた「最大級の反逆」と言えます。
もちろん、これらすべての夢が明日すぐにショールームに並ぶわけではなく、まずは2027年モデルの新型グラントゥーリズモやグレカーレが市場でしっかりと売れ、マセラティの財政が健全化することが大前提。
しかし、「世界がSUVだらけになっても、美しいセダンの場所はある」「どれほどV6が優れていても、V8の可能性を捨てない」という強い意志を経営陣が公式に発信したこと自体が、沈みかけていたトライデントブランドのイメージを再び激しく燃え上がらせる強力な燃料(ハロー効果)となり、かつてフェラーリのV8を積んで世界を魅了した「クアトロポルテ」や「グラントゥーリズモ / グランカブリオ」に息づく栄光の遺伝子は、今度はマセラティ自身の完全な血統として暗闇の中で静かに、しかし確実に復活の時を待っているということになりそうです。
合わせて読みたい、マセラティ関連投稿
-
-
マセラティのエンブレム「トライデント」は今年で100周年。モータースポーツへの情熱が生んだ至高のシンボルが刻む新章スタート、本国では記念切手も発売
| マセラティ=高級車というイメージが強い現代ではあるが | かつてはモータースポーツにおいて圧倒的な強さを誇ったのがマセラティである 2026年、イタリアが世界に誇るラグジュアリーカーブランド「マセ ...
続きを見る
-
-
アルファロメオとマセラティが「内燃機関搭載モデル」をそれぞれ2車種追加すると発表。アルファはフラッグシップ、マセラティは高級グランドツアラー投入へ
| ステランティスが放つ“起死回生”の新型4モデルの正体とは | ひとまずステランティスに「残る」こととなったアルファロメオとマセラティではあるが 美しいデザインと官能的な走りで世界中のカーガイを魅了 ...
続きを見る
-
-
【試乗:マセラティ MCプーラ チェロ】近年、これほどまでに「楽しい」と感じたクルマはほかにない。マセラティ史に残る傑作、PURA=ピュアの名は伊達じゃない
| マセラティ MCプーラは期せずして時代の寵児に | MC20の遺伝子を継承し、さらなる「純粋さ」を追求した一台 マセラティが放つフラッグシップ、MC20の進化形として登場した「MC Pura(MC ...
続きを見る
参照:CARBUZZ











