| スマートは安く作ろうと考えて設計されたマイクロカーではない |
さて、ポルシェ718ケイマンのブレーキキャリパーを塗装に出したため、代車のスマート・フォーツーをお借りすることに(塗装を依頼したのはエッジ〜旧リバイズ〜さん)。
ぼくは一度(2003年頃)スマートを買おうとしたことがあったのですが諸事情でそれが叶わず、しかし今回代車とはいえど少しの期間乗ることができ、ちょっと明るい気分になっています。
スマートは1994年に「MCC(マイクロカーコーポレーション)」として設立され、当時の主体は腕時計の「スウォッチ(SWATCH)」。
なお車名の「スマート(Smart)」はSwatch、Mercedes-BenzにARTを組み合わせたもの。
パートナーはメルセデス・ベンツではあったものの、スウォッチがクルマを作るという話題が先行し(当時スウォッチはとんでもないプレミアが付いたモデルも出現するほどの人気だった)「スウォッチカー」と呼ばれたことも。
その後1998年にようやく市販にこぎつけるも小型車の開発経験がなかったメルセデス・ベンツは安全性の確保に苦労し、改良にコストがかさんでなかなか黒字転換できずに結局スウォッチは資本を引き上げる、という事態となっています。
これによって貧乏くじを引いたのがメルセデス・ベンツですが、その後黒字化できたのは2008年だとされるので、創業から14年もずっと赤字だったわけですね。※発売から数えると12年
なお、現在は累計販売200万台を数える人気商品に成長し、しかしダイムラーは中国の吉利汽車に(スマートの)株式の半数を売却してしまったため、今後は中国に合わせた商品展開がなされることになりそうです。
スマート・フォーツーの中古相場は上昇中
なお、現在のスマートのラインアップからはこのスマート・フォーツーが外れてしまい、「スマート・フォーフォー」「スマート・カブリオ」「スマート・ブラバス(これが現在ではフォーツーに相当)」「スマート・カブリオ・ブラバス」「スマート・フォーフォー・ブラバス」。
そしてスマート・フォーツーが現在入手できなくなり、購入できる2人乗りモデルは「ブラバス(266万円〜)」だけとなってしまったためか、現在スマート・フォーツーの中古車価格が値上がり中。
2020年3月だと平均相場が110万円台だったものが、現在では150万円台まで上昇しており、なぜかコロナ禍の中でも価格を上げているわけですね。
実際に乗ってみると、その人気や高い相場にも「なるほどな」と思わされるところが多く、スマート・フォーツーとはいったいどんなクルマなのかを見てみましょう。
スマート・フォーツーはこんなクルマ
スマート・フォーツーはとんでもなくコンパクトなクルマで、その全長はなんと2,785ミリ。
全幅は1,665ミリ、全高は1,545ミリ、そして車体重量は960キロというマイクロカーです。
エンジンは「リヤ」に搭載されており、駆動輪も後輪なので、つまり「RR(ポルシェ911と同じ)。
搭載されるエンジンは897cc3気筒ターボ、出力は90馬力、燃費はカタログ上だとリッター23キロ。
トランスミッションは6速デュアルクラッチ「ツイナミック」。
回転半径はそのコンパクトさに起因し、驚異の「3.3メートル(普通の車は5〜5.5メートルくらい)」という取り回しの良さを持っています。
こういったマイクロカーだと安全性に疑問を持つ向きも多そうですが、スマートはデビュー当初から「トリディオンセーフティセル」なる車体構造を持ち、これが乗員を保護する役割を担っています(ボディカラーの異なる部分、このクルマだとブラックのところがトリディオンセーフティセル。その特徴や安全性を視覚化している)。
そのほかにもメルセデス・ベンツだけあって多数の安全性が盛り込まれており、マイクロカーといえど妥協のないつくりが人気の秘密なのかもしれません。
スマート・フォーツーの外装はこうなっている
スマート・フォーツーにて感心させられるのは「エクステリアの質の高さ」。
デザイン性の高さはいうまでもありませんが、フロントグリルやヘッドライトのインナー、テールランプ内部などが非常に凝った作りをもっていて、「マイクロカーといえど、安く作ることが主目的のクルマではない」ということがわかります。
なお、この車両のボディカラーは「マットパールホワイト」。
このフィニッシュを見ても、メルセデス・ベンツはスマートを「プレミアムカー」に仕立て上げようと考えたということがわかります(レンズ内側にもヘキサゴン状のカッティングが入っている)。
ヘッドライト内部にもヘキサゴン状の「透かし」が入ります。
スマート・フォーツーの内装はこうなっている
インテリアも外装同様に質感が高く、この車のシートは「レザー」。
もちろんステアリングホイールやシフトレバーはレザー巻き、そしてステアリングホイールのサイドにはディンプル入り。
ダッシュボードにもファブリックが貼られ、安っぽいプラスチックが顔を出さないように配慮されています。
メーター類は(先代同様に)円をモチーフにしたポップなデザイン。
そしてシフトレバーの付け根は「球」。
こういった部分も「ちょっとでも乗る人を楽しい気分にさせたい」というデザイナーの思いが感じられるところですね。
エアコン吹き出し口は「メルセデス・ベンツ」のエンブレムっぽい?
メーターは中央にインフォーメーションディスプレイ、外周には速度計。
スマート・フォーツーに乗ってみよう
そして実際にスマート・フォーツーに乗ってみての印象ですが「けっこう普通に運転できる」ということ。
先代スマートのトランスミッションは「MTをクラッチレス化した」、いわゆるシングルクラッチでしたが、現在のスマートはデュアルクラッチ「ツイナミック」を搭載しているために先代のようにギクシャクせず、かなり普通のドライブフィールを持っています(先代スマートは、シフトチェンジの際に、いったんアクセルを抜くなどの操作をしないとガクガクしたものだった)。
リアエンジン、超ショートホイールベースということもあって、もっとナーバスな乗り味を想像していたのですが、よくよく考えると「大量に販売する」ことを狙ったクルマでもあり、普通に運転できて当然なのかもしれませんね。
ただ、加速時やブレーキング時の姿勢変化は通常のクルマよりも(ホイールベースが短いので)急激であり、このあたりは丁寧に運転する必要がありますが、しばらく乗るとすぐに慣れるので、これは問題なさそうです。
特筆すべきは「速度感が希薄」ということで、思ったよりもスピードが出ている、ということ。
つまりはそれだけ静粛性や安定性、ボディ剛性が高いということになりますが、これは日本の軽自動車や、スマートの外観から受ける印象とは真逆の部分。
よって安心して高速道路を走ることも可能であり、街中から高速道路までオールマイティに使えるクルマでもありますね。
全体的に見て、想像するよりも、そしてその(特定環境下でしか使えないという)イメージとは相反する「一般的な自動車として見ても高いレベルの性能や快適性」を持っていて、様々な環境で乗ることができ、200万台も売れ、かつ日本でも高い中古相場を維持していることにも納得の一台だと言えそうです。