| ポルシェがモータースポーツで勝利をおさめるとき、そこには必ず「メッツガー・エンジン」の存在があった |
ちなみにハンス・メッツガー氏は常に最新のポルシェ911も所有していたらしい
さて、長年ポルシェのエンジン設計に携わってきたハンス・メッツガー氏が「最も長く所有していた」ポルシェ911がレストアされ、ついに再び路上を走ることになった、とのこと。
ハンス・メッツガー氏は残念ながら2020年6月に90歳の人生を閉じることとなっていますが、その功績はあまりに大きく、同氏なくしてポルシェはモータースポーツはもちろん市販車の成功もなしえなかっただろうといえるほどの影響力を持っています。
ハンス・メッツガー氏は1929年にシュトゥットガルト郊外に生を受け、「ポルシェ356に心を奪われた」ことからエンジニアの道を目指すことになり、工業大学卒業後の1956年にポルシェへと入社します。
入社後は次々「名機」を開発
そしてハンス・メッツガー氏は技術部門に配属され、そこではF1そしてF2用エンジンを開発したほか、1964年に発表された初代911に積まれていた水平対向6気筒エンジンを開発したのもまた同氏。
さらにハンス・メッツガー氏はモータースポーツ部門にてターボエンジンを開発し、これが市販車用に改良されて「930ターボ」に搭載されたのも有名な話ですね。
これに加えてポルシェ917、935、962、さらにはニキ・ラウダとアラン・プロストをF1世界選手権に導いたTAGターボエンジンなど、勝利を量産したエンジンはほとんど彼の作品と言ってよく、ポルシェに在籍した37年の間に計り知れないほどの貢献をしてきたと断言していい人物でもあります。
-
ポルシェ911にF1マシンのエンジンをスワップする「ポルシェ・タグ・ターボ」計画の詳細が公表。なんとニキ・ラウダが使用し英国GPで優勝したユニットも使用可能
| マクラーレンがMP4/2に積んでいたエンジンのうち11基を今回のプロジェクトのために供出 | 昨年秋に公開された「ポルシェ911(930)タグ・ターボ」プロジェクト。これは1980年代のF1マシン ...
続きを見る
ハンス・メッツガーが愛したのは1977年製のポルシェ911
そしてハンス・メッツガー氏が「最も長く所有したクルマ」として知られるのが1979年にポルシェから直接購入した(1977年製の)グランプリホワイトのポルシェ911カレラ3.0で、これはもともとポルシェがテストカートして使用していた個体なのだそう。
当時のポルシェは開発に使用した車両を販売する習慣があったといい(たしかにときどき開発用車両がオークションに登場する)、同氏もこれを購入したということになりますが、当時22,400ドイツマルク(当時のマルクの価値はわかならいが、1マルクを66円とすると148万円くらい)にて購入したという記録が残っていて、この際ポルシェは「メーターをゼロに戻した」ようですね(その意図はわからない)。
-
参考【競売】もっとも価値のあるポルシェ911、「カレラRS2.7」通称ナナサンカレラの試作車。予想では1億7000万円
| ポルシェ911カレラRS 2.7のプロトタイプが競売に登場 | ポルシェ911カレラRS 2.7のプロトタイプがオークションへと登場予定。ポルシェ911カレラRS 2.7は言わずと知れた、「もっと ...
続きを見る
ただ、ハンス・メッツガー氏はその後もずっと「常に最新のポルシェ911」を乗り継いだため、この1977年製のポルシェ911を所有しつつもさほど乗る機会がなく、その後40年で10,601kmしか走らなかったといい、しかしこの911はメッツガー家のファミリーカーとしてたびたび夏のバカンスに持ち出されていた、とも。
ハンス・メッツガー氏の息子であるオリバー・メッツガー氏によると、夏休みにツェル・アム・ゼーで一家揃って過ごす際には、必ず目的地に差し掛かる前に花崗岩の脇を通ったといい、「今そこはトンネルになっていますが、1970年代のツェル・アム・ゼーには、ザールフェルデン側から巨大な花崗岩の壁があったんです。その壁が空冷ポルシェの音を反射して増幅し、車内が揺れそうになったんだ。このことは一生忘れないでしょう」とも語っていて、当時、子どもながらもそのサウンドには強い衝撃を受けたようですね。
その後、このポルシェ911は登録不可能に
ただしこのポルシェ911は2008年に登録できなくなってしまい、その理由が「継続して登録されていなかったから」。
おそらくはとぎれとぎれに登録していたことが技術検査機関に問題視されたようですが、そのほかにも大規模な整備が必要な時期にも差し掛かっていた、とも。
そして今回、オリバー・メッツガー氏は亡き父の一周忌に際してこのポルシェ911を登録しようと決め(ハンス・メッツガー氏は常々、このポルシェ911を再び公道で走らせたいとつぶやいていたそうだ)、大幅な整備を行った後に登録可能な状態にまで復元したといい、「このクルマは我々家族の手に渡り、特別な日に運転することになるでしょう。父の墓参りにもこの車で行きますし、父の名誉のためにポルシェミュージアムにも必ず行きます。このクルマのハンドルを握っていると、父との距離が縮まったように感じられ、いつかツェル・アム・ゼーにも乗っていきますよ」と語っています。
ハンス・メッツガー氏の遺作は「シンガーDLS」
なお、ハンス・メッツガー氏はポルシェ911のレストアで知られるシンガー・ヴィークル・デザイン、ウィリアムズとの共同にて2017年から911レストモッドに搭載するために「空冷エンジン」の設計を行っており、つい最近その納車第一号が路上を走行したばかり。
このシンガーDLSが同氏の「最後の仕事」ということになりそうですね。
-
シンガーがとんでもないポルシェ、”DLS”発表。あのメツガー・エンジン(NA500馬力)搭載、重量990キロ
ジンガーが「独自開発のエンジン」搭載のポルシェ911を公開 クラシックポルシェのレストア&カスタムで有名なジンガー(シンガー)ヴィークル・デザインが、「ウィリアムズ(Williams Advanced ...
続きを見る