| ステランティスは自動車業界の中ではかなり決断が速く、そしてリスクを正確に捉えている会社だと思う |
長い目で見ると中国生産撤退は「行って正解」かもしれない
さて、ジープやフィアット、クライスラー、アルファロメオ、シトロエン、プジョーなどを擁するステランティスグループが「中国での生産から撤退する」可能性があるとの報道。
知っての通り中国は自動車にとって世界最大の市場なのですが、中国政府は自国の自動車メーカーを守るために(輸入車に対し)高い関税を課しており、中国内で競争力のある価格を実現しようとすれば、中国で生産を行うしか手がなくなります。
ただ、簡単に中国にて生産ができるかというとそうではなく、基本的には中国の会社に50%以上の株式を持たせて合弁会社を設立し、そこでクルマを製造することになるのですが、この狙いはもちろん「中国の自動車メーカーへの技術移転」。※最近は規制が緩和され、テスラが自社資本のみで中国生産を行うメーカー第一号になった
つまり中国で生産を行う場合、どうしても日米欧自動車メーカーの技術が現地の合弁会社経由にて中国の自動車メーカーに漏れてしまい、それによって中国の自動車メーカーは急速に力を付けることが可能となるわけですね。
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その次には何が起こるのか
そして問題は「その次」で、中国の自動車メーカーが日米欧自動車メーカーからの技術を吸収し、自社での開発力を身につけると、今度は(中国の自動車メーカーにとって)提携している日米欧の自動車メーカーの存在がじゃまになり、提携を解消して自社ブランドの生産に切り替えることになる可能性も。
実際にジープはすでに契約を解消しており、これまでの提携先は、ジープの生産にて得た知見をもって、ジープのようなクルマを自社にて生産するのだと考えられます。
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そうなると、日米欧の自動車メーカーは、中国市場から締め出されたも同然となり、これは経営を揺るがす重大事項となるわけで、そうならないように海外自動車メーカーは中国の提携先に媚を売ったりする必要が出てくることも想定され、しかしこれでは健全だとは言えない状態。
おそらくはこういった事態を考慮し、ステランティス(のカルロス・タバレスCEO)は「中国での製造から撤退」を決め、資産軽量化戦略を推し進めることにしたのかもしれません。
ちなみにフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、GMは中国依存度が高く、将来的的に大きな不安を抱えていることは間違いなく、しかしあまりに中国とドップリなので中国生産撤退を考えることができないのだと思われますが、刻々と破滅までのカウントダウンが行われており、いつかどこかで決断を下す必要が出てきそうですね。
加えて、BYDや吉利汽車(Geely)など多くの自動車メーカーが魅力的、そして安価なEVを発売してきており、おそらく今後日米欧の自動車メーカーは(中国での)EV販売に苦戦するものと思われ、計画の狂いをいかに修正するかという課題も残ります。
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ステランティスCEOはこう語る
そしてカルロス・タバレスCEOは、今回パリ・モーターショーの取材に集まった記者団に対し、「この資産軽量化戦略を推し進めるならば、中国に工場は必要ない」とコメント。
ただしこれは中国市場を捨てるという意味ではなく、今後は欧州や米国にて生産したクルマを中国へと輸出することも検討するといい、となると現地販売価格は(徐々に関税が下がってきているといえど)割高になってしまい、多くの販売が失われるのは間違いないのですが、もちろんそれも考慮した上で「中国生産を切り捨てる」ということになりそうです。
なお、ジープと中国の広州汽車との合弁は12年にも渡っていますが、上述の通り今回この関係は精算されており、しかし広州汽車(中国の国営企業)はジープを非難していて、カルロス・タバレスCEOは(広州汽車が国営企業であるだけに)政治的干渉に対しても懸念を示しており、こういったこともあってステランティスと中国政府との関係性が悪化しているのかもしれません。
加えて同氏は、今後欧州の自動車メーカーが、中国でシェアを失うだけではなく、中国車が欧州にも進出してくることで欧州自動車メーカーが市場を喪失する可能性についても言及しており、「欧州当局は、”欧州の自動車メーカーが中国で直面しているのと同様の”規制を導入すべ」きである」ともコメントしています。
反面、BMWはエレクトリック版のミニを英国ではなく中国東部の江蘇省に移し、長城汽車との提携によって(BMWのSUVとあわせて)組み立てる計画を進めており、中国に対する姿勢は自動車メーカーによって大きく異なるのも事実です。
各方面では「中国離れ」も
なお、現在各方面では中国離れが進んでおり、その大きな理由の一つが「政治的問題」。
これは企業がコントロールすることができず、そして中国は一党独裁なので、中国政府が決めたことは「絶対」であり、その決定は必ず「中国の利益にかなう」ものとなっています。
自動車業界だと、中国政府が「明日から上海はロックダウン」といえばそれに従うしかなく、これによって多くの自動車メーカーが苦しめられ、ホンダはついに「脱中国」を宣言したほど。
加えて現在、ロシアがウクライナへと侵攻しており、これによって西側諸国と中国との対立が(互いの見解と立場の相違から)深まる可能性があり、これがエスカレートすると、いつ一方的に中国から締め出されるかもわからないというのが現在の状況です。
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そして自動車業界以外で中国が大きな影響力を持っているのが映画界ですが、ここしばらくは「トランスフォーマー」など中国マネーを当てにした製作を行う作品が多く、しかし最近はちょっと事情が変わってきているもよう。
というのも、中国で映画が公開できるかどうかは「中国政府の意向次第」であり、中国政府が気に入らなければ公開は不可。
たとえば「シャン・チー/テン・リングスの伝説」は、中華系俳優を起用し、中国での興行収入を見込んだ作品であったものの、まさかの「中国では不認可」。
そして認可が降りなかった理由も明かされていないといい、これは出資した中国企業や製作したマーベル・スタジオ、配給側のディズニーにとっては全くの誤算だったかもしれません。
さらにディズニー配給の映画だと「バズ・ライトイヤー」「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」「ソー:ラブ&サンダー」も公開が許可されておらず、そうなると製作や配給側の目にとって、中国を当てにすることは「リスク」としか映らなくなるわけですね。
実際に「中国離れ」の例としてよく知られる作品が「トップガン マーヴェリック」。
これはもともと中国テンセントの出資にて製作される予定であり、実際に途中まで製作が進められ、その過程で公開された予告編には「トム・クルーズ(マーヴェリック)の着るフライトジャケットから日本と台湾の国旗が無くなっていた」というのは有名な話。
ただしその後テンセントが製作から離脱し、めでたくジャケットには日本の国旗が復活し本編公開となっています。
しかしながら、自動車業界と同じで、中国離れを加速させる製作・配給会社もあればそうでない会社も存在し、ユニバーサルやワーナー・ブラザース(ワイルド・スピードやジュラシック・ワールド、ミニオンズの配給で知られる)は比較的中国寄りだと言われます。※一方、ソニー・ピクチャーズは中国の要求を無視したことがある
それでも、中国政府の愛国教育のおかげで中国市場は「中国の作品」を好む傾向が強いと言われており、これも自動車業界同様、「(力をつけてきた中国のエンタメ業界に押されて)今までのように春を謳歌できなく」なっている可能性が大。
中国から切り捨てられる(見放される)前に別の道を捜すか、それとも中国にすがり続けるのかは各社の判断に委ねられているということになりますが、いずれにしても難しい判断ということになりそうですね。
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参照:Bloomberg