｜ これまでのいずれの所有者もこのメルセデス・ベンツ300SLロードスターを大切に維持・保管 ｜
コンディションは抜群、ヒストリックカーイベントでも注目の的となるのは間違いない
さて、自動車の歴史上、間違いなく「最も貴重なロードスター」のうちの一つに数えられるメルセデス・ベンツ300SLロードスターがオークションへと登場予定。
新車時にはヨルダン国王であるフセイン・ビン・タラール殿下へと納車され、その後は元F1ドライバー、そして引退後はレーシングドライバーの指導教育に心血を注いだスキップ・バーバーが所有しているという個体であり、スペシャリストによってレストアも施されているという由緒正しい一台です。
欧州仕様ヘッドライト、カラーマッチングホイール、ベッカー製メキシコ・ラジオ、ベイシュスタイルのシートベルトを装備しており、予想落札価格は最高で160万ドル（約2億1100万円）というエスティメイトが出されています。
メルセデス・ベンツ300SLロードスターはこんなクルマ
このメルセデス・ベンツ300SLロードスターはメルセデス・ベンツ300SL”ガルウイング”クーペのオープンモデルとして1975年に発表され、洗練された外観、パワフルなエンジンを備えており、まさに戦後ドイツの優れたエンジニアリングの象徴のようなクルマです。
メルセデス・ベンツ300SLロードスターでは、6気筒エンジンにNSLレーシングクーペで使用されていたコンペティションカムシャフトを採用して25psのパワーアップを図るなどパフォーマンスの向上が図られており、さらにはリアサスペンションのピボットポイントを低く設定することでオーバーステア傾向が抑えられ、ハンドリングにも改良が加えられています。
これらの改良はオープン化にともなう重量増加を補って余りあるもので、実際にメルセデス・ベンツ300SLロードスターの運動性能につき、メルセデス・ベンツ300SL”ガルウイング”クーペと同じ数値を誇っている、とアナウンスされています。
一方、そのスタイリングに由来する圧倒的なラグジュアリー性もメルセデス・ベンツ300SLロードスターの大きな特徴であ、コンバーチブルトップと開放面積の広いサイドウインドウによって（クーペ版で問題となった）不快な車内の暑さも気にならず、さらには新設計のチューブフレームによってドアシルが低くなり、ぐっと乗降が容易になっています。
さらにはガソリンタンクの小型化やリアオーバーハングの延長によってトランクスペースが拡大し、ロングツーリングに理想的な仕様となったことも当時の富裕層に愛された所以なのかもしれません。
こういった特徴もあり、メルセデス・ベンツ300SLロードスターは単なる「クーペの屋根を切った」オープンモデルではなく、メルセデス・ベンツ300SL”ガルウイング”クーペの全面改良版とも言えるモデルでもあり、当時はもちろん、現代においてもコンクール・デレガンスやヴィンテージ・ラリーにおいてその優雅な姿と走りを披露することも珍しくなく、メルセデス・ベンツが生産したクルマの中でも最も人気のあるモデルのひとつとして数えられます。
さらにはのちのメルセデス・ベンツSLRマクラーレン、そのほかのハイパフォーマンスモデルに受け継がれるディティールを持つことでも知られ、まさに「元祖にして、最も象徴的な」同社のスポーツカーだと言えそうですね。
このメルセデス・ベンツ300SLロードスターはこんな履歴を持っている
このメルセデス・ベンツ300SLロードスターは、1958年モデルとして生産された324台のうちの最後の一台で、1958年9月初旬にヨルダンのフセイン・ビン・タラル国王陛下（当時22歳）によってメルセデス・ベンツへと注文が出された個体であり、同国王は自動車や航空機など「ガソリンを燃やして動く乗り物」に強い興味を抱いていたことが知られています。
ちなみにですが、この個体に先立って手に入れていた1955年製のメルセデス・ベンツ300SLガルウィングクーペは、現在もヨルダンの王立自動車博物館に所蔵されているのだそう。
このメルセデス・ベンツ300SLロードスターは、10月31日にロンドンの国王代理人に新車で納車されたことが付属のデータカードから判明しており、このデータカードによると、納車時のカラーリングはホワイトグレー（DB158）にブラックレザーという組み合わせ。
ただ、最初のオーダーシートには「アイボリー（DB602）にレッドレザー」というコンビネーションが記載されているようで、どこかの段階でカラーリングの変更があったということになりそうです。
その後このメルセデス・ベンツ300SLロードスターはアメリカのコレクターへと売却され、2005年頃には著名なスペシャリストであるルディ・コニシェックによって数年にわたる徹底的なレストアが施され、その後も理想的な環境にて保管されて内外装のコンディションを保つことに。
2013年8月になると、この素晴らしい300 SLロードスターは、3度のSCCAチャンピオン、そして元F1ドライバーでもあり、世界で最も権威があるというレーシングドライバースクールを創設したスキップ・バーバーの手にわたり、現在に至ります。
スキップ・バーバーは、このメルセデス・ベンツ300SLロードスターを所有する間、ニューハンプシャー州キングストンにあるマーク・アレンのレアドライブ・インクにて、5万ドル以上を投じてメンテナンスを行ったそうですが、作業指示書には、サスペンション、ステアリング、ブレーキ、エンジンクーリングシステムをリフレッシュしたことが記載済み。
これらのリフレッシュに際しては、ガスケット、ライン、ブッシュ、ベアリング、クランプ、マウント、ブーツ、消耗品などを大量に交換することになり、さらにはバルブ調整とエンジン・タイミングの点検に加え、イグニッション・ディストリビューター、ステアリング・ボックス、ラジエーター、リア・ブレーキシュー、そして（複雑なことで知られる）燃料噴射ポンプもすべて完全にリビルトされることに。
現在このメルセデス・ベンツ300SLロードスターは、ミディアムブルー（DB 350）という珍しいボディカラー（メルセデス・ベンツ純正色）を身にまとい、アンニュイなグレーレザー（955）のキャビンに角織りのグレーカーペットとミディアムブルーのダッシュボードインサートで仕上げられ、ブラックキャンバス製のトップが装着済み。
メルセデス・ベンツ300SLロードスターは、その登場から60年以上を経た今であっても真に崇高なドライビングエクスペリエンスを提供できる数少ないクルマであり、まさにこの時代のスポーツカーの金字塔。
ファクトリースペックにて完全にレストアされたこの個体は、コレクターズアイテムとしてすべての条件を満たしており、ヒストリックカー向けのツアー、ラリー、イベントなどで大いに注目をあつめることになりそうですね。
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