| フェラーリF355はデザイン面ではエレガンス路線へと回帰、しかしエンジニアリング面ではエアロダイナミクス含め大きな飛躍を果たしている |
さらにははじめて「F1」トランスミッションを取り入れるなど扱いやさも向上
さて、フェラーリはこれまでに数々の輝かしいV8ミドシップモデルを発売していますが、その中でフェラーリが「もっとも特別かつ重要なV8モデル」であると表現するのが1994年春、つまりちょうど30年前に発売された「F355」。
このF355(まずはクーペ版のF355ベルリネッタから発売)には様々な先駆的技術が詰め込まれ、スーパーカーにおけるパフォーマンスの基準を大幅に引き上げているものの、スタイリング面でも大きな変化があり、それは「クラシックエレガンス方面へと回帰したこと」。
フェラーリのデザインは時代によって大きく変遷している
フェラーリというと誰もが「ウエッジシェイプでぺったんこなスーパーカー」を連想するかと思いますが、フェラーリのデザインは時代によって大きく変遷していて、たとえば1960年代だと250GTのような曲面のみで構成された優雅なスタイルを持ち、しかし1970年代に入るとシャープな直線を持つに至ります(おそらくはマルチェロ・ガンディーニの手掛けた一連の市販車やコンセプトカーの影響)。
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そしてそのシャープなデザインのピークがテスタロッサ(1984年)、348TB(1989々)、512TR(1991年)、348GTB(1993年)あたりかと思われ(下の画像は348GTB)、テスタロッサ、348系ではサイドのフィンにその「シャープさ」「エッジ」がよく現れているかもしれません。
ただ、1994年に登場したF355では(ウェッジシェイプはそのままながら)ボディ各部の尖った部分を「丸めた」デザインが採用され、これは308GTBや288GTOを彷彿とさせる「明確な回帰」だとされています。
フェラーリF355はエンジニアリング面でも先進的だった
ただし上述の通り、このF355は非常に先進的なエンジニアリング的側面を持っており、車体やドライブトレーンは先代である348シリーズをベースにしていたものの、まずエンジンは3.4リッターから3.5リッターへと排気量が拡大し、5バルブヘッドを備えることで(これが車名である”355”の由来)当時「自然吸気エンジンの中ではもっとも高いリッターあたり出力(348の300馬力から、355では380馬力へと大幅なジャンプアップを果たしている)」を誇ります。
加えて足回りにも大幅な改良が施され、新設計のテレスコピック電子制御ダンパーを備えることでハンドリングが大幅に改善されており、さらには348よりも軽減された車体重量(乾燥重量1350kg、ボディ外板はスチールとアルミニウム、ホイールはマグネシウム製)によってビークルダイナミクスがより高いレベルへと引き上げられ、0−100km/h加速は4.7秒、最高速は295km/hへ。
そして「フルボディ・アンダートレイ」を採用したはじめてのフェラーリでもあり、これによって前後アクスルのダウンフォースが均一化され、高速走行時の安定性が飛躍的に高まっています。
これらによってフェラーリF355は(フェラーリいわく)「10年前に発売された288GTOと同等の運動性能を持ちながらも、運転のしやすさや安定性という実用面でのアドバンテージを得る」こととなったわけですね。※パワーステアリングが装備されていたが、オプションにて「レス」も選択できた
フェラーリF355では「初の」セミオートマチック・トランスミッションが導入
そして「スーパーカーの性能をより身近に」した、そしてF355にてはじめて取り入れられたのが「F1」トランスミッション(1997年に追加)。
これは現代のデュアルクラッチの祖先とも言える存在で、ステアリングコラムに装着されたパドルを操作することで電動油圧システムがクラッチ操作を(左足にかわって)行うというものですが、その名が示す通りフォーミュラ1マシンからのフィードバックを受けた技術です。
そしてF355はこのF1トランスミッションを取り入れた初のロードカーで、さらにはF1においてもフェラーリが「セミオートマチックギアボックスでF1グランプリを戦った最初のチーム(1989年のブラジルGPで投入されている)」であるという事実は注目に値することろ。
これらの技術的イノベーションによってフェラーリF355ベルリネッタは「これまでにないほどのパフォーマンスを備え、これまでにないほどの扱いやすさ、乗りやすさ」を兼ね備えたスーパーカーへと昇華しており、F355 GTS、F355スパイダーといった派生モデルもあわせて「それまでのフェラーリでもっとも人気のあるモデル」としての地位を確立し、高い信頼性とあわせて「ロードトリップに最適なフェラーリ」と称されるに至ったわけですね。
ちなみにですが、今でもぼくが「フェラーリ」と聞いてまっさきに思い浮かべるのはこのF355です。
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参照:Ferrari