Image:Kalmar Automotive
| その名はカルマー・オートモーティブ 7-97 E-VOLT |
ただしエコなだけあって安くはなく、コンバージョンコスト含め車両価格は7000万円オーバー
さて、現在ポルシェ911のレストモッドには多種多様な選択肢が存在し、元祖とも言えるシンガー・ヴィークル・デザインのように芸術性を追求する例、ガンサーワークスのようにパフォーマンス重視の例、タットヒルのように軽量性とシンプルさを重視する例など様々です。
そして今回、つい先日「959を現代に復活させる」と高らかに宣言したカルマー・オートモーティブが、その方向性をガラリと変えてEVへのコンバートつまりエレクトロモッドを施した911、「カルマー 7-97 E-VOLT」を披露することに。
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このポルシェ911「カルマー 7-97 E-VOLT」は単なるエレクトロモッドではない
なお、ポルシェ911のエレクトロモッドはこれが初ではなく、さらにはコンバージョンキットもいくつか登場していますが、それらの中でもこの「カルマー 7-97 E-VOLT」がもっともサステイナブルな911エレクトロモッドだと言ってよく、ここでその内容を見てみたいと思います。
まず、「カルマー 7-97 E-VOLT」のスペックを見てみると、車体重量は1,374kg(964世代の911ターボと同じ)、出力は414馬力、最大トルクは600Nm。
つまり「びっくりするような出力」を掲げたクルマではありませんが、そのぶん軽量性とバランスを維持しており、なにより空力的に最適化されたボディによって質の高い走りを楽しむことが可能です。
そしてこの「カルマー 7-97 E-VOLT」のドナーとなった964世代の911は「エンジンが抜き取られた廃車」であったとされ、同社いわく「このプロジェクトはクラシックカーを路上で走らせ続けるのに役立つのであって、奪うものではない」。
さらには廃棄物を最小限に抑えるために元のパーツを可能な限り再利用し(あるいは溶解して鋳造し直し)、ガラスを再成形するなどの対策が取られ、純カーボンファイバーの代わりに(最近ではいくつかのレーシングカーも採用する)自然由来の亜麻繊維を織り込んだ複合材を選ぶことに。
この理由は「植物由来の素材は成長サイクル中にすでに二酸化炭素を吸収しているから」で、実際のところカーボンファイバーに比べて二酸化炭素排出量を最大78%削減でき、全工程におけるCO2排出量を大幅に削減できるわけですね。
そしてボディパネルを再構築する機会を最大限に活用し、カルマーは「改善された空力バランス」と「風切り音と空力揚力を減らしながら抗力を減らすことで効率を高めるために開発された」接着ガラス設計によってボディを最大限に効率化し、1967年型ポルシェ911Rからインスピレーションを得たフロント吸気口のデザインを採用することに(その形状も最適化されている)。
加えて、あらゆる速度で可能な限りバランスを保つためにエレクトリックモーターは後車軸に、63kWhのバッテリー パックは前車軸の上に配置されており、(そこから動力をとるべき)内燃エンジンは搭載されていないため、ブレーキブースター、電動パワー ステアリング、エアコンシステムのために電動真空ポンプが増設されています。
ちなみにエレクトリックパワートレーンはテスラから拝借したもので、0-100km/h加速4秒未満、0-80%までの充電にかかる時間は1時間、満充電あたり航続距離は300km(充電ポートはナンバープレートの下にある)という性能を誇ります。
その他の特徴としてはアダプティブサスペンション、カーボンセラミックブレーキ(オプション)、フックススタイルのホイール、LEDヘッドライトが挙げられ、インテリアだと992スタイルのギアセレクターに「バッテリー計」、雨滴感知式ワイパー、フロアマウントサブウーファー、Apple CarPlay / Bluetooth 対応インフォテインメント セットアップのほか、スカンジナビアの牛から持続可能な方法で調達された”エルモソフト”セミアニリン レザーなど(ビーガン レザーは、それほど環境に優しいわけではないという理由から)。
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ただ、一般に「エコが高くつく」と言われているようにこの911レストモッドの価格も安くはなく、コンバージョン費用全て込みで「45万ユーロ」。※現在の為替レートにて約7000万円
「EVバージョンを作成するというアイデアは、お客様から生まれました。しかし、私たちにとっては、911にエレクトリックモーターを搭載するだけでは不十分でした。そのため、環境に優しい性能をどこまで発揮できるかを検討しました。既存のクルマをベースに使用するのは良いスタートですが、さらに進む必要がありました。そのため、部品の鋳造、ガラスのリフォーム、製造時に炭素繊維よりもCO2排出量が少ない亜麻繊維などの技術の使用が必要でした。最初の7-97 E-Voltビルドのドナー車は、エンジンのない放棄されたポルシェ964でしたが、今では2度目の「グリーン」ライフを与えています。7-97 E-Voltは、電気自動車は内燃機関車よりも重くする必要はありません。独自の新しい軽量植物繊維ボディワークと全体的な軽量化への細心の注意のおかげで、重量は964ターボと同じままです。」
カルマー・オートモーティブ創業者 ジャン・カルマー
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参照:Kalmar Automotive