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| ルーチェは中国市場にとって「非常に割安な」フェラーリでもある |
「EV」であるため税金等の諸費用が安価に収まる
「フェラーリが電気自動車(EV)、しかも4ドアのセダンを作る」
このニュースが世界を駆け巡った際、古くからのティフォシ(フェラーリファン)たちの間には大きな動揺と議論が広がったことも記憶に新しく、しかしそんな自動車ファンの喧騒をよそにして、世界最大の自動車市場である中国の超富裕層たちは、全く異なるシグナルをマーケットに送ったというのが今回のニュース。
2026年6月27日、フェラーリ初の市販EVセダン「ルーチェ(Luce)」が中国・上海のイベントで正式にローンチされ、現地での価格は398万8000元(約9,500万円)。中国市場に割り当てられた88台の枠は、予約開始とともに文字通り瞬く間にすべて完売したと報じられています。
現在、中国市場では「仰望U9」に代表される1,000馬力オーバーの国産ハイパーEVが台頭し、外資系プレミアムブランドのシェアを脅かしているのですが、その最中において、なぜフェラーリのEVセダンがこれほどの爆発的な人気を見せたのか。その背景にある緻密な価格戦略と、スペックを超えた「記号(ステータス)としての価値」、中国ならではの事情を考えてみましょう。

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この記事の要約
- 限定88台が瞬く間に完売: 2026年5月末にローマで発表され、そのスタイリングやEVであることから物議を醸したフェラーリ初の4ドアEVセダン「ルーチェ(Luce)」が中国で発売。割り当てられた88台が瞬時に完売した
- 欧州より安い「戦略的プライシング」: 中国での価格は398万8000元(約586,600米ドル/日本円で約9,300万円)。通常、関税などで高くなる中国市場において、欧州価格(55万ユーロ/約62万6000ドル)よりも約7%も安く設定される異例のローカライズが行われた
- 「踏み絵」の噂は公式否定: 「ルーチェを買うことで、将来の限定ハイパーカー(V12モデルなど)の購入権を早められる“忠誠心テスト(踏み絵)”の車なのでは?」という噂が流れたが、フェラーリのチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)は米メディアの取材に対し公式にこれを否定
- スペックでは圧倒する中国勢: 性能面では、半額以下で買えるBYDの「仰望U9(Yangwang U9)」や広汽集団の「昊鉑SSR(Hyptec SSR)」のほうが馬力・加速ともにルーチェを大きく上回るが、ターゲット層の購買動機はそこにはない
なぜ中国で「ルーチェ」は売れたのか
今回の中国市場における「ルーチェ」の発売で最も自動車業界を驚かせたのはその「価格設定」。
中国におけるルーチェの価格(398万8000元)は、欧州でのベース価格である55万ユーロと比較すると実質的に約7%のディスカウントとなっていて、通常、中国市場では高額な輸入関税や贅沢税、排気量税が上乗せされるため、海外の高級車は本国価格の1.5倍〜2倍に跳ね上がるというのが常識です。
参考までに、現在「円安」が進んでいるため日本では「本国よりもフェラーリが安く買える」現象が発生しており、ルーチェだと本国価格55万ユーロは約1億100万円、しかしルーチェの日本国内価格は7623万円なので「かなり割安」。※円高になると逆の現象が起きる
しかし中国では「元安」でもなく、しかしこういった値付けが可能になったのは主に現地の関税が「(EVであるルーチェには)ほぼ上乗せされない」ということが考えられ、中国で輸入車に課される以下の税金が減免されている可能性が推測されます。※市立ではなく個別に課税範囲が検討される場合があり、ルーチェ個別の事情までは把握できない
- 関税(Import Duty)・・・通常は15%
- 増値税(VAT)・・・標準税率は13%
- 消費税(Consumption Tax)・・・排気量によって変わる
もう一つ参考までに、フェラーリ296GTBは日本での価格が3700万円くらい(いまは値上げによってもうちょっと高いかもしれない)、しかし中国だと現在のレートによる換算で5300万円くらい(222万人民元)。
プロサングエになると日本だと(発売当初の価格が)4765万円、しかし中国では258万人民元なので6150万円くらいになるという計算です。

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よってルーチェの価格は中国にとって「内外差がこれまでのフェラーリと逆転した」初めてのフェラーリということになりそうですが、これもまた中国人バイヤーの購買意欲をあおることとなった可能性もありそうですね。
ただ、上述の税金のうち「消費税」が「0」だとしても、他の税金については課税対象となるのではないかとも考えられ、となるとやはりフェラーリは中国市場において「かなり割安な」値付けを”意図的に”行ってきたと考えるのが妥当です。
そしてこのプライシングにつき、中国国内で急激にシェアを拡大している新興の中華系電動ハイパーカーに対する、フェラーリ側の強い危機感と戦略的な対抗意識があるとも見られていますが(ただしルーチェと中国製EVとを天秤にかけるバイヤーは実際にはいないだろう。たとえ中国人だとしても)、もしかすると「他国で販売が難しかった」ルーチェを中国市場へと振り分けるという考えも働いているのかもしれません。
なお、「ルーチェは、将来的に希少なV12限定モデルなどを手に入れたい既存オーナー向けの“ロイヤルティテスト(忠誠心審査)”のための車ではないか」という噂が囁かれていて、要するに、EVセダンを1台買って実績を作らなければ、本命のガソリンハイパーカーを買わせてもらえないという「踏み絵」のビジネスモデルではありますが、しかし、これについてフェラーリのCMO(最高マーケティング責任者)は米自動車メディア『The Drive』の取材に対し、「そのような事実は一切ない」と公式に否定しています。
しかし実際のところ、ルーチェを変えば「限定フェラーリを購入できる」という条件を付与したとしても、限定フェラーリのほうがルーチェの生産台数よりは遥かに少ないはずで、ルーチェを「踏み台」にすることは実際に機能するとは考えにくく、そういったウワサは「限定車を入手できるかどうか」の瀬戸際にいる顧客からの不安から出てきたものなんじゃないかとも考えています。

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フェラーリ・ルーチェ vs 中国勢ハイパーEV スペック比較
今回のルーチェの登場により、中国のEV市場では「超高額な輸入EV」と「急速に技術力を高める国産EV」の対比がより鮮明になり、現地メディア等でよく比較対象として挙げられる、BYDのプレミアムブランド「仰望(Yangwang)U9」およびGAC(広汽集団)の「昊鉑(Hyptec)SSR」とのスペックを比較してみると以下の通り。
| モデル | フェラーリ ルーチェ (Luce) | 仰望 U9 (Yangwang U9) | 昊鉑 SSR (Hyptec SSR) |
| 0-100 km/h 加速 | 2.5 秒 | 2.36 秒 | 2.3 秒 |
| 最高出力 | 772 kW (1,036 hp) | 960 kW (1,287 hp) | 900 kW (1,207 hp) |
| 駆動方式 | AWD / 4モーター制御 | AWD / 4モーター制御 | AWD |
| 急速充電出力 | 350 kW | 500 kW | 160 kW(公称値外) |
| バッテリー容量 | 122 kWh | 80 kWh | 74.7 kWh |
| 車両重量 | 2,260 kg | 2,480 kg | 1,990 kg |
| 中国市場価格 | 約9500万円 | 約4300万円 | 約3100万円 |

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カタログスペックでは測れない「ラグジュアリーGT」という位置付け
上記の表を見れば明らかなように、純粋な数値勝負(馬力や0-100km/h加速、充電速度)においては、価格が半額以下である中国製の「仰望U9」や「昊鉑SSR」のほうが勝っています。特に最高出力においては、U9が1,287馬力とルーチェを250馬力近く引き離しています。
しかし、ここで重要なのはクルマのキャラクターの決定的な違いです。
仰望U9や昊鉑SSRが「純粋な2シーターのレーシング・スーパーカー」を目指して開発されているのに対し、フェラーリはルーチェを「5人乗りのラグジュアリー・グランドツアラー(GT)」として位置づけていて、つまりサーキットでタイムを削るための戦闘機ではなく、大人4〜5人が最高峰の快適性を持って長距離をクルージングするための「エグゼクティブ・サルーン」というわけですね。
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そのため、今回ルーチェを即決した88人の中国の超富裕層たちが、購入時にBYDやGACのディーラーに足を運び、スペックシートを見比べて悩んだ可能性は極めて低いと考えられ、中国の高級車メディア『Speedsters』は、このクルマを「動く400万元のステータス」と表現し、つまりひとたび街に走り出せば、スペックがどうあれ「私は中国のトップ1%の富裕層であり、フェラーリという特別なパッション(情熱)を所有している」という強力なステータスシンボル(アイデンティティ)を一瞬で周囲に誇示できるというわけですね(そしてこれはアジアの新興国で強く機能するシグナルである)。

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これぞフェラーリの思惑通り?タイの若い富裕層はルーチェを支持。「伝統的なフェラーリらしくない。だからこそ、買う価値があるのです」
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結論
フェラーリ・ルーチェの中国における瞬く間の完売劇は、自動車の価値が「電動化」というパラダイムシフトを迎えてもなお、100年近く築き上げられてきた「ブランドの魔力」や「エモーション(感情)」の前には、単純なコストパフォーマンスやスペックの数値は無力であるという現実を浮き彫りにしています。
中国の自動車産業は、EVシフトによって世界のトップへと躍進し、圧倒的な技術力と低価格を武器に市場を席巻していることはご存知のとおりではありますが、しかしそのエンジニアリングの優秀さを「富裕層が熱狂するような市場価値としての“エモーション”や“羨望”」にまで昇華できるかどうかは、これからの課題として残されたままである、ということに。
ルーチェの成功は、電気自動車(EV)の時代になっても「所有する喜び」や「エクスクルーシビティ(限定性)」を求めるウルトラ・リッチ(超富裕層)向けのニッチ市場が確実に存在し続けることを証明するもので、跳ね馬が放った初の電動サルーンは、これからの高級EVのあり方を占う重要な試金石となるのかもしれません。
そう考えるならば、ルーチェはやはり「クルマ」として捉えるよりも「フェラーリの戦略を示すひとつのオブジェ(あるいはファッションアイテム)」として捉えるべきなのかもしれず、そしてこのオブジェには「タイヤが付いていて移動できる(そして人目の前に出せるので富を誇示できる)」という”オマケ”がついてきただけなのかもしれません。
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参照:CarNewsChina, Ferrari, Speedsters, The Drive











