
Image:Ferrari
| 今後、各社デザイナー、異業種のデザイナーからも様々な「評論」が出てきそうである |
フェラーリにとっては「大きなお世話」かもしれないが、この反響自体が「成功」である
2026年5月、フェラーリはブランド史上初となる100%電気自動車(BEV)であり、初の5人乗り4ドアモデルでもある「フェラーリ・ルーチェ(Ferrari Luce)」を発表しましたが、これは元アップルのデザイン最高責任者であるサー・ジョニー・アイブ(Sir Jony Ive)氏とマーク・ニューソン氏が率いる高名なクリエイティブ集団「LoveFrom」との共同開発ということもあり、世界中から大きな注目を集めたのは御存知の通り。
しかし、その革新的なスタイリングを巡ってはインターネットや自動車批評家の間で「フェラーリらしくない」「美しくない」といったネガティブな意見が噴出し、大きな物議を醸しているのもまた事実です。
そして今回、中国の有力自動車メディア「CarNewsChina」が新興EVブランドのNio(上海蔚来汽車)やGWM(長城汽車)などで数々のヒット車を手がけてきた気鋭の自動車デザイナー、アレクセイ・セメノフ(Alexey Semenov)氏に独占インタビューを敢行したという記事を公開しており、プロの視点から「フェラーリ・ルーチェのデザインのどこが間違っているのか」が明確に言語化されることとなっているわけですね。

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この記事の要約
- プロによる独占辛口レビュー:元NioやGWMの世界的デザイナーが新型EV「フェラーリ・ルーチェ」の外観デザインに潜む致命的な違和感を指摘
- 「工業デザイン」と「自動車デザイン」の衝突:ジョニー・アイブ氏率いるLoveFromとの協業が市販車としてのプロポーション管理において裏目に出た可能性
- 24インチなのに14インチに見えるホイール:異次元のタイヤサイズを選びながら、カラーの塗り分けによって視覚的に小さく見えてしまうというデザインの矛盾
歴史的EV「フェラーリ・ルーチェ」に集まる賛否両論
現役自動車デザイナーが紐解く「ルーチェ」3つのデザイン的欠陥
ミュンヘンを拠点に活動するセメノフ氏は、フィアット500エレクトリックやNio ES6(第2世代)、Fisker Roninなどのデザインに関わってきた”自動車プロポーションのスペシャリスト”。
そして彼が語ったルーチェへの評価は、「プロダクト(工業)デザインと自動車デザインの不調和」という非常に深いものです。

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1. 「短く、狭く、高い」スーパーカーらしからぬプロポーション
セメノフ氏はまず、ルーチェの根本的な骨格(プロポーション)に苦言を呈しています。
外観から受ける印象は「全長が短く、全幅が狭く、全高が高い」というもので、これは自動車のエクステリア・デザインにおいて最も美しく見せるのが難しい、いわば「鬼門」の組み合わせでもあり、フェラーリのバッジを一度横に置いて単なるひとつの工業製品として見ても、このボリューム(体積)の処理が未完熟であるため、車体全体に「視覚的な押し潰され感(圧縮感)」が残ってしまっていると指摘します。
ただ、フェラーリは現在のデザイン体制(フラビオ・マンゾーニ氏率いるチェントロ・スティーレ)に移ったのち、スポーツモデル(SF90系と296系)の全高をこれまでよりも低く(1,200ミリ以下)抑えているため、「低さ」の重要性については強く理解しているはずで、よってルーチェのディメンションは「意図的」ということに。

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2. 最大の謎:大径ホイールが14インチに見える「カラー・スプリット」
ルーチェは、フロント23インチ、リア24インチという、市販乗用車としては極めて大胆で巨大なホイールを履いています。
本来であれば、これだけのサイズがあれば地を這うような力強いスタンス(構え)を強調できるはずで、しかし、空力を意識したエアロホイールに採用された「カラー・スプリット(2色の塗り分け)」のデザインがすべてを台無しにしているとセメノフ氏は語ります。
「自動車デザインにおいて、ホイールの『視覚的重量』は、単なる物理サイズではなくボディの体積に合わせて緻密に計算されるべきです。ルーチェのホイールは色の切り替えのせいで、視覚的な直径が大幅に削られてしまい、まるで14〜15インチの小さなホイールを履いているかのような錯覚を与えています」
この「ホイールの重要性」については、各社ともコンセプトカーでこぞって大きなホイールを装着してくることからも理解ができ、もちろんフェラーリも「ヴィジョン・グランツーリスモ」「F76」では極端に大きなタイヤとホイールを装着し「力強さ」をアピールしていたため、やはりルーチェの「ホイールの見せ方」も意図的なもの、つまり自動車業界の常識を逆手に取ったものなのかもしれません。※ただ、タービン風デザイン、外周の中にもう一つ小さな円が存在するというデザインについては、F76ほかいくつかのモデルでも見られる
ジョナサン・アイブ氏は「工業製品については」デザインのプロフェッショナルではありますが、自動車に関しては「門外漢」と評されることがあり、しかし同氏はフェラーリとともに、「あえて」セオリーを踏み外すことで「自動車から逸脱した製品」としてルーチェをデザインしたのかもしれず、そしてこの「違和感アリアリのホイール(現代のフェラーリらしくないデザイン、そしてカラーリングともに)」はどう考えても「意図的」だと考えられます。

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3. 唐突に終わるリヤエンドと、機能しない伝統のオマージュ
フロントマスクに関しては、自信と明確な意図が感じられるまとまりのあるデザインと評価された一方、リアエンドの処理には厳しい目が向けられており、リアは「幅広で、位置が高く、詰まった」印象を与え、ルーフラインからの滑らかな傾斜がエレガントに完結しておらず、フェラーリ伝統の「丸型4灯テールライト」を現代的に再解釈したグラフィックも「この新しいデザイン言語にうまく融合していない」と評されていて、さらにはリヤの塊が「美しくまとめられた」というよりは「唐突に切り落とされた」ように見えてしまうことについても指摘されています。
かつて、工業デザイン的なロジックと自動車としてのドラマ性(華やかさ)を完璧に融合させた名車「テスタロッサ」のようなアプローチをとることもできたはずなのに、そのポテンシャルが全く掘り下げられていないとセメノフ氏は結論づけていて、しかしこれも当然「わざと」なのだと思われます。

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LoveFromがもたらした車内ロジック
外部の天才デザイナーたちを起用した結果、エクステリアは自動車としてのセオリーを欠く結果となったものの、その一方で「インテリアは本物の傑作である」とセメノフ氏も絶賛しています。
車内に一歩足を踏み入れると、一貫したデザイン哲学、触感のクオリティ、緻密なメカニカルディテールが美しく調和しており、新興プレミアムブランドの都市型EVであれば非の打ち所がない完成度を持つとも評価していますが、その反面、「この価格帯のフェラーリのアイデンティティとしてこれで正解なのか?」というブランドの根幹に関わる問いを投げかけることに。
外観の迷い、そして内装の高度な割り切りの間に、大きな不一致(インコンシステンシー)が存在することが、このクルマの最大の違和感である、とも述べています。

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フェラーリ・ルーチェ(Ferrari Luce) 主要諸元表
ここで、今回発表されたフェラーリ・ルーチェの衝撃的なスペックをおさらいしておきましょう。
| 項目 | スペック詳細 |
| モデル名 / コード | ルーチェ(Luce / Type F222) ※2027年モデル |
| ボディタイプ | 5ドア・リフトバック・サルーン(4ドア / ブランド初5人乗り) |
| デザイナー | ジョニー・アイブ & マーク・ニューソン(LoveFrom) + フェラーリ社内チーム |
| パワートレイン | 4モーター(各輪独立駆動 / ラディアルフロー永久磁石同期モーター) |
| 最高出力 | 1,035馬力(1,049 PS / 772 kW) |
| 0-100km/h 加速 | 2.5秒 |
| 最高速度 | 310 km/h 以上 |
| バッテリー容量 | 122 kWh(SK On製 NMCバッテリー、800Vアーキテクチャ) |
| 航続距離 | 529 km(WLTPモード) |
| 急速充電 | 最大 350 kW DC急速充電に対応 |
| 車両重量(乾燥) | 2,260 kg(Purosangueとほぼ同等、バッテリー単体で640kg) |
| 欧州予定価格 | 日本国内価格:7623万円(税込み) |
競合比較と市場での位置付け:超高級EV市場の厳しい現実
フェラーリが欧州で約55万ユーロ(約9,300万円)、北米で64万ドル(約1奥円)、日本で7623万円という超高価格帯でピュアEVを投入した背景には、欧州を中心とする排出ガス規制(2035年のネットゼロ目標など)への適合が理由として存在し、同じく超高級EV市場には1,800馬力超を誇る「アウトモビリ・ピニンファリーナ・バッティスタ」などが存在しますが、バッティスタは従来のミッドシップ・スーパーカーの形を模倣したEVであり、市場の反応は比較的冷ややかなものに。
フェラーリはあえてその安易な道を選ばず、パッケージングの自由度が高いEVの特性を活かして「5人乗り4ドア」という、これまでにない実用性とラグジュアリーの融合に挑んでいて、このパッケージング自体はポルシェ・タイカンや、今後登場するであろうメルセデスAMG GT 4ドアクーペなどとも競合するものの価格帯やブランド力においては一段上のステージに位置します。
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だからこそ、市場や熱狂的なファン(ティフォシ)は、このクルマに「完璧なフェラーリの美学」を求めたということになり、今回のルーチェが受けた厳しい評価は、ガソリンエンジンの咆哮を失ったフェラーリが、デザインという次の武器においてまだ自らの正解を見つけ出せていない過渡期であることを示しているのかもしれません(あるいは、これが最適解であると確信しているが、市場がついてこれない)。
結論:ポテンシャルと実行値の乖離が生んだ「見落とされた機会」
アレクセイ・セメノフ氏の言葉を借りれば、フェラーリ・ルーチェは「決して価値のないクルマではない」。
EVだからこそ実現できた広大な室内空間や、驚異的な1,000馬力オーバーのクアッドモーター技術など、新しい方向性を目指した意図は十分に理解でき、しかしフェラーリという偉大なデザインの遺産(レガシー)を背負う以上、特にエクステリアにおける「本来到達できたはずの美しさ」と「実際の市販車の姿」のギャップはあまりにも大きく、現時点では「見落とされた機会(Missed Opportunity)=非常にもったいない作品」と言わざるを得ない、というのが同氏の結論です。
天才プロダクトデザイナーと跳ね馬のエンジニアリング。この2つの世界が完全にシンクロし、真の「電気仕掛けの芸術品」へと昇華する日は来るのかは現時点では判断ができず、ルーチェのデリバリーは2026年後半から欧州で開始される予定ではありまますが、オーナーや一般の自動車ファンが公道でこの実車を目にしたとき、その評価がある程度定まってくるのかもしれません。
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