
| ルーチェの購入は限定モデル購入への「ファストパス」ではない |
もちろん「買わなければ」他の限定モデルを販売しないという”踏み台”でもない
フェラーリ初の100%電気自動車(EV)として世界中で大きな議論を巻き起こしている新型「ルーチェ(Luce)」。
その鮮烈なデビューから1ヶ月、コレクターたちの間である「不穏な噂」が飛び交っており、それは米経済紙『ブルームバーグ(Bloomberg)』が報じた「フェラーリの一部のディーラーが、最上位(トップティア)の顧客ステータスを維持したり、将来の超限定モデルの割り当て枠を確保したりするための『条件』として、ルーチェの購入を間接的に強要している」という内容。
1億円弱に達するEVを巡るこの「ロレックスやエルメス流の抱き合わせ戦略」の噂に対し、ついにフェラーリのマラネロ本社が沈黙を破ったというのが今回の最新の報道であり、フェラーリの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるエンリコ・ガリエラ氏が自動車メディア『Automoto.it』の独占インタビューに応じる形でこの噂を真っ向から否定。
なぜフェラーリがそのような強硬手段に出る必要がないのか、そしてそんな戦略が「いかに自社を傷つけるか」という最高峰ラグジュアリーブランドならではの冷徹なロジックについて述べています。
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この記事の要点
- 公式が「抱き合わせ販売」の噂を完全否定: フェラーリの最高マーケティング責任者(CMO)エンリコ・ガリエラ氏が、初のピュアEV「ルーチェ(Luce)」を買わなければ限定車の購入権(アロケーション)を失うというBloombergの報道を「明確な事実無根」と一蹴
- 「不幸せなオーナー」はブランドの害になる: ガリエラ氏は、欲しくもない顧客に購入を強要する戦略は、ブランドの評判を落とす「最悪のアンバサダー」を生むだけであり、フェラーリにとって不利益にしかならないと指摘
- リセール崩壊のリスクを懸念: 無理に買わされたオーナーがすぐに手放せば、中古車市場にルーチェが溢れてリセールバリューが下落し、ブランド価値の負のスパイラルを招くと説明
- 受注は想定通り、新規顧客が半数: 具体的な受注台数は非公開ながら、販売は計画通り順調に推移。驚くべきことに、現在の注文の約半分は「初めてフェラーリを購入する新規顧客」が占めている
最高マーケティング責任者が語る「フェラーリの真実」
まずエンリコ・ガリエラCMOはインタビューの中で終始毅然とした態度で次のように述べ、噂に対する「真実」に触れています。
「フェラーリの市場に関しては常に多くの噂が飛び交っていますが、今回の報道は完全に誤りです。私たちの立ち位置は当初から非常に明確です。新型ルーチェは、これまでの伝統的なフェラーリオーナーとは異なる『新しい層の顧客』に向けて設計された車です。もちろん、既存のオーナー様が購入されることも大歓迎ですが、決して義務ではありません」
ガリエラ氏がここまで強く「購入の強要」を否定する背景には、フェラーリが何十年もかけて築き上げてきた「プレミアム性の維持」に関する緻密なマーケティング哲学があり、同氏はもし仮にディーラーが顧客にルーチェを無理やり買わせるようなことがあれば、ブランドにとって2つの致命的なリスク(実害)が生まれると説明します。
リスク1:「最悪のアンバサダー」の誕生
クルマに満足していない、あるいは義務感だけで高額なEVを買わされたと感じた顧客は周囲にネガティブな意見を広めるようになり、これはブランドの評判を内側から腐食させる「悪いアンバサダー」を自ら作り出すようなものである
リスク2:中古車市場でのリセールバリュー崩壊
欲しくもないのに実績作りのためにルーチェを買ったオーナーは、納車後すぐに車両を売りに出す可能性が高くなり、そうなれば中古車市場にルーチェが溢れかえり、フェラーリが最も大切にしている「高いリセールバリュー(再販価値)」が暴落することに。これは新車市場にも壊滅的な悪影響(負のスパイラル)を及ぼすため、メーカーとして絶対に避けなければならない事態である
フェラーリ新型EV「ルーチェ(Luce)」受注動向と基本スペック
一部で「売れ行きに苦戦しているから抱き合わせをしているのでは」という邪推もあったものの、ガリエラ氏が明かしたルーチェの受注状況とスペックからは、むしろフェラーリの目論見通りに市場が開拓されているというリアルな姿も見えてきます。
たしかに「新興市場」「EVに抵抗がない市場」ではルーチェに対する評判は上々だといい、むしろ「フェラーリのヘリテージを深く理解する」日米欧の市場のほうが苦戦しているのかもしれません(そしてこれらの市場では、いかにこれまでフェラーリとの接点を持たなかった人々とのコンタクトポイントを設け、ルーチェに触れさせるかということが重要になる)。
- 現在の受注状況:
- 具体的な数字は非公開ながら、事前予測および社内目標を完全に達成
- 注文全体の約50%が「既存のフェラーリオーナー」、残りの50%が「完全な新規顧客」という驚異的なバランス
- システム最高出力: 1,035 hp (1,050 cv)(4モーター独立制御)
- 最大航続距離: 530 km以上 (WLTPサイクル)
- 欧州ベース価格: 7623万円)
新規顧客が半数という「ゲームチェンジャー」の証明
現在、ポルシェ・タイカンをはじめとする高額なプレミアムEV市場が世界的に減速する中、フェラーリ・ルーチェの「注文の半分が新規顧客」というデータは極めて重要な意味を持っています。
既存のV12やV8ターボの爆音を愛するコレクターたちにEVを押し付けるのではなく、これまでフェラーリに興味を示さなかった「環境意識の高い新興IT富裕層」や「最先端のテクノロジーを求めるギークな資産家」が、ルーチェという全く新しいキャラクターに惹かれてマラネロの門を叩いているということになり、つまり「無理に買わせずとも」ターゲット層へのアプローチは十分に成功していると言え、そして次世代のフェラーリファンを着実に「取り込んで」いるということに。
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なお、カリフォルニアやローマも「それまでのフェラーリファン」以外を獲得すべく発売されたクルマではありますが、それらに関しても「(世界的に見て)購入者の70%程度が」新規客だといい、フェラーリは着実にこうして購入者層の入れ替えを図っており(ただし年間生産台数の18%しか新規客には割り当てられない)、これが新しい時代のフェラーリを作ってゆくというわけですね。

実際のところ、フェラーリは生産する車種についても多様化していて、2000年代はじめだと「FF、F12、458、カリフォルニア」はいずれもデザイン言語が統一されていたものの、現在では「いずれのフェラーリも(296、12チリンドリ、849テスタロッサ、プロサングエ)ぜんぜん違うデザインを持っていて」、これは顧客の多様化に対する展開なのだとも考えられます。
そういった意味だと、「ルーチェ」はこの顧客多様化戦略(多様化する意味は”様々な外部環境の変動に左右されない強い経営基盤”を作るためである)の最新の例そして集大成だと考えてよく、フェラーリは「ぼくらでは量ることができない」深遠なる計画に基づいて行動しているのだということになりそうです。
なぜ「噂」が生まれたのか
今回のBloombergの報道とそれに対するフェラーリの迅速な否定劇は、現代の超高級車ビジネスにおける「情報の非対称性」と「リセールエコノミー」の本質を教えてくれるもので・・・。
1. なぜ「強要されている」と感じる顧客がいたのか?
火のないところに煙は立たないと言われるように、一部のコレクターが「ルーチェを買わないと次の限定車がもらえない」と怯えたのは事実だと思われます。
しかしそれは、フェラーリ本社からの直接的な命令ではなく、「現場の正規ディーラー(あるいはセールス担当者)レベルでの過剰な忖度やアプローチ」、もしくは「顧客側がこれまでのブランドの仕組み(購買実績主義)から勝手に先読みして抱いた疑心暗鬼」が原因である可能性が高いのだとも考えられ、フェラーリの「Icona」シリーズなどの限定車を巡る争奪戦があまりにも激しすぎるため、顧客側が過敏になっていたのかもしれません。

Image:Ferrari
2. 「リセールを守る」という言葉の絶対的な信頼性
自動車メーカーが新型車のネガティブな噂を否定するのは世の常ですが、今回のガリエラCMOの「リセールバリューが下がる、逆インフルエンサーを生むからそんな戦略は自害行為だ」という反論には、非常に強い説得力があります。
フェラーリが世界最高の投資価値を持つクルマであり続けられるのは中古車価格が他のブランドに比較して下がらないからで(今は苦しい状況ではありますが)、もしルーチェを乱売してブランド全体の需給バランスを崩してしまえば、フェラーリ最大の強みである「神話性」が崩壊するということに。
目先のEV1台の売上のために、数十年築いた帝国の土台を揺るがすような真似はしない――このラグジュアリーの鉄則こそが、今回の公式否定の「信憑性が高い」と考えられる最大の証拠であるとも考えられます。
結論
フェラーリ初のピュアEV「ルーチェ」を巡る抱き合わせ販売の噂は、最高マーケティング責任者の明確な言葉によって「偽り」であることが証明されたというのが今回の顛末ですが、「欲しくない顧客に無理に売ることは、ブランドを傷つける悪にほかならない」というガリエラCMOの言葉は、フェラーリが単なる自動車メーカーではなく、顧客の「憧れ」と「自尊心」、そして「資産価値」をコントロールする最高峰のラグジュアリーブランドであるという誇りと冷徹な計算を感じさせるもの。
蓋を開けてみれば、注文の半分を新しい顧客が占め、フェラーリの世界を確実に広げているルーチェ。
爆音のエンジンを持たない跳ね馬は、無理やり買わされるお荷物などではなく、新たな時代のファンを魅了する本物のゲームチェンジャーとして、今まさに静かに走り出そうとしているわけですね。
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参照:Automoto.it, Motor1











