| あれだけTVやネットで大々的に宣伝し、ネットのほか全国4,800の拠点でも申し込みできるのになぜ |
トヨタ自動車が、満を持して開始した自動車サブスクリプション(定額制)サービスについて「思ったように契約を取れていない」と発表。
これによると、サービス開始の3月~11月の累計申込みは951件にとどまり、1日あたりに換算するとわずか5.7件。
TVCM、ネット上で大々的に広告を展開し、さらに全国4,800以上もの拠点にて展開していることを考えると、「まったく普及していない」と言ってもいいいレベルです。
このサブスクサービス「KINTO」は、頭金を支払わなくとも「毎月定額で」クルマに乗ることができ、かつ保険や点検費用などが全部「込み」なのが売り。
ただしよく内容を見てみると、ETCやカーナビなどは基本的にオプション扱いで、そのほかにもオプションをつけるとそのまま追加料金が発生。
そして車庫証明や駐車場料金は自分で負担する必要があります。
しかも「リース」契約なので契約期間中(3年)は解約できず、ずっと支払い続ける必要があります。
つまりは携帯電話の「縛り」のようなものですが、そことまた違うのは、3年経過したら車両をトヨタに返却すること(買い取ってもいい)。
3年間支払っても自分のものにならないということになり、ここが「自分でクルマを買った場合、いつでも売って現金化できる」のと大きく異るところですね。
正直言うと、この内容だと「所有する満足度」を満たせず(カスタムできない)、「資産(いつでもお金になるという意味で)としてのクルマ」という価値もなく、ぼくとしては全く魅力を感じないシステム。
ただしトヨタとて、手をこまねいているわけではない
そしてトヨタは、この状況を打開すべく、テコ入れを行うと発表。
内容としては、これまでもっとも安かったライズ(39,820円/月)よりも安いパッソ(32,780円/月)を加え、中古車も試験的に(一部地域で)ラインアップに加えると発表。
さらにLEXUS含め、現在の15車種(トヨタ8、レクサス8)という選択肢に16車種を追加予定。
追加される車種は下記の通りだと発表されています。
【TOYOTA】 パッソ(月額32,780円~) ルーミー(月額39,600円~) タンク(月額39,600円~) カローラ(月額46,750円~) カローラツーリング(月額47,850円~) カムリ(月額74,250円~) ランドクルーザー(月額88,000円~) ヤリス(時期、価格未定) 【LEXUS】 LX(月額198,000円~) RX(月額101,200円~) NX(月額86,900円~) UX(月額74,800円~) LS(月額236,500円~) RC(月額128,700円~) ES(月額125,400円~) IS(月額108,900円~) |
加えて、これまでトヨタが展開していたカーシェア、ライドシェの名称もすべて「KINTO」に統一し、それら名称については世界中にてこれらのように改めてゆくと発表されています。
・KINTO ONE・・・契約期間中に1車種に乗ることができるサブスクリプションサービス ・KINTO FLEX・・・契約期間中に複数車種を乗り継ぐことができるサブスクリプションサービス ・KINTO JOIN・・・通勤時などの相乗りカープールサービス ・KINTO SHARE・・・会員間でレンタカーも含む特定のクルマを共同で利用するカーシェアリングサービス ・KINTO RIDE・・・複数人を相乗りさせるライドシェアリングサービス ・KINTO GO・・・お客様のニーズに合わせて複数の交通機関を組み合わせ、移動ルートの選択肢を提示するマルチモーダルサービス |
なぜKINTOは成功しなかったのか
まだこの時点でKINTOが失敗だとは言えないと思いますが、なぜKINTOが成功しなかったのかということについて、ぼくはトヨタが2つの「誤算」をしたんじゃないかと考えています。
クルマが売れない理由は価格?
ひとつは「クルマが売れない理由は価格」だと考えたこと、しかし提示した価格が高すぎたこと。
よってその負担を軽減すればもっとクルマを利用する人が増えると考えたのだと思われるものの、正直KINTOの価格は安くないわけですね。
競合としては「カーシェア」「レンタカー」が挙げられ、これらの「乗りたいときに、乗りたい時間だけ、乗りたいところで乗れる」という手軽さに比較すると、KINTOは「乗らなくても払わなくてはならず」「駐車場代も自分持ち」。
しかも、クルマを「足」だと考え、できるだけ安くあげようと考える人は「新車」である必要はなく、トヨタは「購入に対する仮想ハードル」である価格にフォーカスし、それを下げたつもりだったのに、全然それが消費者に届いていないということなのかもしれません。
KINTOにおけるライズの価格設定はは39,820円/月、ノアは67,200円/月ですが、とうていこれは「安く感じられるものではないだろう」と考えているわけですね。
そのためか、トヨタは試験的に中古車もKINTOに加え、月1万円台からの利用料金を提供するとしていますが、こちらはオペレーションコストのほうが利益を上回る可能性が考えられそうです(つまり、こういったサービスは、そもそも消費者が求めるような価格で提供すること自体、構造的に難しい)。
KINTOは手間がかかる
そしてもうひとつは、KINTOの申し込みや利用には手間がかかる、ということ。
スマホ経由で申し込み、契約ができるとは言え、新車の装備まであれこれ選んだり、かつ駐車場まで自分で探して車庫証明を取らないといけないとなると「えぇ・・・もういいや・・・」となり、つまりKINTOは「クルマを買う」のとほぼ同じ手間がかかるということになります。
加えて購入後の点検などもディーラーに持ってゆく必要があり、ここもカーシェア、レンタカーに比較すると面倒な部分(そもそもディーラーに行きたくない、人との関わりを持ちたくない人も多い)。
ただし駐車場をトヨタが提供したり、メンテナンスについても引き取り納車を行ったりすると「さらに料金が高く」なり、これまた現実離れした価格になるのかもしれません。
なお、ソニー損保の調査結果のとおり、カーシェアの利用率は8.6%と高くなく、利用している人も「日頃クルマに乗っている人や、クルマの購入を検討している人」。
そういった人々が「興味のあるクルマを借りてみる」「自分のクルマには詰めない荷物を運ぶ」「出先で借りる」という使い方が多く見られ、つまり「クルマに乗っている、もしくは乗りたい人は借りたり買ったりしてでも乗るが、クルマに興味がない人はどうやっても借りたり買ったりしない」ということなのかも。
「カーライフ調査」結果。クルマの月間維持費平均は1.2万、カーシェア利用経験は8.6%、安全運転してそうなキャラはアンパンマン、デートでかけたいのは「中央フリーウェイ」
トヨタのKINTOは「クルマに興味がない人」を引きつけるための偉大なるチャレンジだとは思うものの、そもそも「価格と手間を下げれば皆がクルマを欲しいと考えるはずだ」という思い込みが現実と乖離しており、かつごく僅かな「価格が下がればクルマに乗りたい」と考える人々に訴求するにはもっともっと敷居を下げないと普及は難しく、敷居つまり価格を下げると採算が取れないというジレンマなのでしょうね。
ここ最近の自動車業界については、自動運転、ドローン、エレクトリック化、カーシェア(これらはCASEの一部に含まれる)といった波が押し寄せていますが、そのいくつかは「とうてい実用や事業化が難しい」ものばかりで、自動車メーカー各社は、これらの波に乗るどころか、荒波に翻弄されただけということにもなりそうです。
VIA:Toyota