■そのほか自動車関連/ネタなど

一体なぜこうなったのか。2024年は「EVマジョリティ元年」となるはずであったが、”一夜にして”EVの需要が消滅し、EV転換への夢が現実の悪夢に

メルセデス・ベンツ

| 自動車メーカーの規模や方針によっても異なるが、「壊滅的」ダメージを受けたメーカーも少なくはない |

さらには「経済的」のみではなく「ブランディング上」の損害が生じたメーカーも

さて、2024年は、世界の電気自動車(EV)の普及が加速する年になるはずで、実際のところ前年(2023年)の販売実績や各自動車メーカーの予測はEVの販売が増加することを示唆しており、そのため各社とも可能な限り多くのEVを発売しようと必死になっていたわけですね。

しかし2024年の半ばを過ぎたあたりから「何かが変わった」ことが明らかになり、突然、世界はEVを求めていないように見え、すべての自動車メーカーが一斉にEVの開発計画を後ろ倒しにしたり、製品ポートフォリオを大幅に変更したりする事態に陥ったのは記憶に新しいところかと思います。

VW
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EV革命が一夜にしてハイブリッドへ

どの自動車メーカーが最初に変化を見せたのかを特定するのは難しく、しかしEVに対する懐疑的な声はあっという間に広がっていて、この動きは数か月にわたる自動車業界の中での「作れば売れる」という哲学への疑念の積み重ねとして拡散することに。

確かにEVアーリーアダプターによる需要は強力であったものの、それだけでは市場の潮流を変えるには大きく不足しており、この(キャズム理論言うところの)アーリーアダプターが新しい電気自動車を手に入れた後、その需要が急激に減少したことがわかっています。

ここで注目すべきフレーズはやはり「アーリーアダプター」。

多くの自動車メーカーが、このアーリーアダプターによるEV需要を”市場全体に起きている変化”だと勘違いしてしまい、アーリアーアダプターからアーリーマジョリティ、そしてレイトマジョリティへとEVの需要が移り変わってゆくことが「疑いようがないトレンド」であると捉えてしまったのだと思われます。

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しかし消費者はハイブリッドを選択

市場は電気自動車(EV)のコンセプトに対しては温かく受け入れたものの、まだそれが大規模に普及するには至っておらず、その代わりに消費者は「エレクトリックパワートレーンの効率性と内燃機関の利便性」を求めてEVではなくハイブリッドを購入することでその意思を示し、これはつまり「環境改善に関心があり、EVにも興味があるものの、EVは高価で、充電インフラ問題も存在する不便な乗り物である」という意見を静かに、しかし明確に示した結果なのかもしれません。

そしてこういった動きはますます、そして急速に拡大し、フォルクスワーゲンCEOが語ったように「誰もが突然、EVに興味を示さなくなった」という状況ができあがってしまったわけですね。

こういった動きによってほとんどの自動車メーカーは戦略の大幅な変更を余儀なくされ、フォード、ゼネラル・モーターズ、メルセデス・ベンツなどのメーカーは、EV開発のペースを緩めてハイブリッド車を強化することを発表しており、アストンマーティンやランボルギーニといった(一定のアーリーアダプターを抱えるであろう)ハイパフォーマンスメーカすらも「まだ市場にはEVを受け入れる準備ができていない」としてEVの発売時期を後ろ倒しにするというアナウンスを行っています。

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ただ、いくつかの自動車メーカーは「もともと」ハイブリッドを持っていたため、軸足をそちらに移せば良かったものの、大きな影響を受けたのは「ハイブリッドを通り越し、BEVへとシフトを図る予定であった」自動車メーカー。

たとえばフィアットやマセラティ、ロータスなどが甚大な影響を受け、ロータスは「エミーラ」の後、完全なEV専門ブランドへと移行すると宣言していたものの、市場の変化や(技術的な問題による)新車投入の遅れ、米国の政治情勢の変化などの影響によりEV戦略が完全に崩れてしまい、最終的にはハイブリッドに転向することが発表されたばかり。

そしてこの変更は、資金力の少ないロータスにとって非常に大きな財政的、ブランド的な打撃となる可能性があるとも指摘されています。

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予測通りの進化を見せたブランド

一方で、戦略の転換(あるいはEV普及にかかわる障壁)を早期に見抜き、成功を収めたブランドも存在します。

その中で最も成功したのはトヨタですが、トヨタ自動車会長である豊田章男氏は「EV一辺倒ではなく、ハイブリッドやプラグインハイブリッド、さらには水素燃料車といった複数のパワートレーン選択肢を提供するべき」」だと一貫し警告していたわけですね。

トヨタはEVの普及が進む中で、他の自動車メーカーに比べてEVの投入、ラインアップのEV化を慎重に(EVへの取り組みが真剣ではないと非難されつつも)進めていて、その戦略が今、正しい選択だったことが明らかになりつつありるのですが、それでもトヨタはEVを無視していたわけではなく、複数の戦略を同時に進めることにより、他のメーカーがEV一辺倒に走っている中、「移り変わりが早い」現代に対応できるだけの柔軟性を確保していたということになるのかもしれません。

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ハイブリッドの未来とEVの普及

ただしこういった状況にもかかわらず、数年内にはEVの価格がガソリン車と同等になるという予測も出されており、ベントレーもまた「現在の状況の反動によってEVが再び注目される」ともコメントしていて、しかしその日が今日ではないことは明白です。

また、世界が完全に電気自動車に移行することはないとも考えられ、EVが気候変動対策として万能の解決策として推進されているものの、豊田章男会長が言うように「開発途上国や僻地では」EVだけでは解決できない問題も多く存在し、結局のところカーボンニュートラリティに向けた多様なアプローチが成功を収めることになるのかもしれません。

豊田章男会長「BEVに関する私の考えは、地球温暖化削減に貢献する重要な技術の一つではあるが、唯一の解決策ではないということだ」。トヨタがBEVに集中しないその理由とは
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トヨタ
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そして上述のとおり、自動車メーカーもまた戦略を変更し、複数のアプローチを支持し始めているうえ、各国のEV普及に対する政策も不安定で、依然としてインセンティブに依存しており、最終的な需要にはまだ至っていません(インセンティブが廃止されると、途端に販売が下がる)。

さらにはアメリカだと、ドナルド・トランプ新大統領の政策次第では今後数年でEVに対する人々や自動車メーカーの姿勢が大きく変化する可能性が高く、「EVシフト」への夢が現実の悪夢に変わる可能性も指摘されていて、もう少し「波乱」が続くことになりそうです。

EV
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