| マクラーレンF1は究極のロードゴーイングカーとして、そしてほかの二者は打倒マクラーレンF1として |
いずれのモデルも輝かしい戦績を残している
さて、1990年代を代表するスーパーカー、そしてレーシングカーと聞いて真っ先に思い浮かぶのは「マクラーレンF1(1992年)」ですが、これはロードゴーイングスーパーカーとして発売された後にル・マン24時間レースにて成功を収め、これに触発される形でポルシェは911GT1(1996年)、メルセデス・ベンツはCLK GTR(1997年)を投入しています。
マクラーレンF1はまず市販車を発売、そしてその後にレーシングカーを投入という流れではあるものの、ポルシェとメルセデス・ベンツはまずレーシングカーとして開発を行い、そのホモロゲーション取得のために市販車を投入したという相違があり、しかしいずれも「ロードカーとレーシングカーとの境界を曖昧にした」クルマだと考えることができるかと思います。
マクラーレンF1、ポルシェ911GT1、メルセデス・ベンツCLK GTRはどう違うのか?
そこで今回Youtubeチャンネル「カーフェクション」にてこの3車(いずれもストリートバージョン)の違いを実車をもってレビューを行う動画が公開されており、それぞれのクルマの生い立ち、開発の経緯やサーキットにおける成績などについても解説しており、ここで簡単に紹介してみたいと思います。
マクラーレンF1はこんなクルマ
まずはマクラーレンF1。
これはマクラーレンの存在意義を世に問うために採算を度外視して作られたクルマで、設計はゴードン・マレー、そしてデザインはピーター・スティーブンス。
フェラーリF40やポルシェ959への対抗とも受け取ることも出来ますが、実際には「乗りやすいスーパーカー」という設計思想を持つホンダNSXに触発された部分も大きく、実際にゴードン・マレーはホンダにエンジン供給を依頼するも断られ、そこでBMW M社製の6.1リッターV12エンジン(636馬力を発生)を積むことになり、0-100km/h加速3.2秒、最高速としては386km/hというスペックを実現しています(この最高速は2017年にケーニグセグがアゲーラにて447.2km/hを記録するまで破られることはなかった)。
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そして運動性能を追求したためにセンターシートレイアウトを採用し、トランクスペースをホイールベース内に設けたり、放熱性を考慮してエンジンフード内側を金張りにしたり、軽量化を目的に車載工具をチタン製にしたりと”異常”なレベルのこだわりを発揮していることも特徴。
車体構造には、当時市販車としては「規格外」だったカーボンモノコックを採用しています。
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1995年にはル・マン24時間レースに参戦し優勝のみならず上位を独占する活躍を見せるものの、翌1996年に参戦したポルシェ911に後塵を浴びせられる形となっていますが、上述のとおり、もともとマクラーレンF1はロードカー、しかしポルシェ911GT1やメルセデス・ベンツCLK GTRはレーシングカーとして開発されている、という差があることも忘れてはなりません。
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ポルシェ911 GT1はこんなクルマ
そして次はポルシェ911GT1。
これはベースこそ当時の993を使用するものの、開発目的が「ル・マン24時間レースで勝つこと(マクラーレンF1を倒すこと)」。
当時改定されたばかりのGT1規定に沿って開発が進められ、フラットシックスターボを車体ミッドに搭載し、その出力は(ホモロゲーション取得用モデルのストリートバージョンで)536馬力、0-100km/h加速は3.7秒、最高速は308km/h。※レース用モデルだと640馬力
数値的にはマクラーレンF1に劣るものの、車体後半はスペースフレームで構成されるなど「完全なるレーシングカー」でもあり、競技用モデルはサーキットにてその戦闘力の高さを見せつけることになります(1996年と1997年は速さを見せるも優勝は叶わず、1998年にワンツーフィニッシュを飾っている)。
ただ、車体前半とキャビンは市販モデルの911を使用しており、ほかの2車と異なって「カーボンモノコックシャシー」を採用しておらず、そして市販車の車体を流用したにもかかわらずこのパフォーマンスを発揮したというところに「ポルシェの恐ろしさ」を見る思いです。※つまり911の車体はそれだけのポテンシャルがあり、もともとポルシェではロードカーとレーシングカーとの境界が明確に引かれていない
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ちなみにストリートバージョンといえど「基本がレーシングカーなので」扱いが難しく、エンジンを始動させるにもPCに繋いでダイアグノーシス画面から入る必要があり、インテリアの多くは当時の993や996世代の911との共有となっていますが、ロールケージがあるために乗降が非常に困難だと述べています。
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メルセデス・ベンツCLK GTRはこんなクルマ
そして最後のメルセデス・ベンツCLK-GTRについて、こちらもやはり「打倒マクラーレンF1」を掲げて開発されたレーシングカーであり、実際にメルセデス・ベンツはベンチマーク用としてマクラーレンF1を購入し、これとの比較を行いながら開発を行ったと言われます。
車体構造はカーボンモノコック、搭載されるのは6リッターV12、出力は604馬力、そしてホモロゲーションモデルは25台が販売されていますが、これはメルセデス・ベンツ本社が直接オーナーに対して「動かし方」の指導つきで販売したとされ、並行輸入車を購入した当時の小室哲哉は「購入後、自分には運転できないということがわかった」と述べていますね。
このメルセデス・ベンツCLK GTRは1997年(FIA GT選手権ではチームとドライバーズタイトルをダブルで獲得)と1998年のGT選手権に参戦するもル・マン24時間レースには参戦せず、代わりに(1998年に)参戦したのは後継モデルのCLK-LM。
動画では「ドア開口部が小さく、乗り降りが非常に難しい(その対策としてメルセデス・ベンツはステアリングホイールをデタッチャブル式にしている)」というコメントが見られます。
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いずれのクルマも固有の開発背景や設計思想を持っており、その思想のピュアさ、各々の輝かしい戦績を考慮するに、その価値は永遠に色あせないのかもしれません。
マクラーレンF1、ポルシェ911GT1、メルセデス・ベンツCLK GTRを紹介する動画はこちら
参照:Carfection