
| フェラーリは確実に「次の時代」へと進もうとしている |
デジタルによる制御が加速する中においても「アナログ的感覚」を維持
さて、フェラーリ12チリンドリに試乗。
12チリンドリ(12Cilindri)」とはイタリア語で “12気筒” を意味していて、つまり「12気筒のフェラーリ」をストレートに名乗ったモデル名を持つクルマでもあり、“フェラーリの伝統” と “ブランドの矜持” を体現するフラッグシップたる存在です。
なお、12チリンドリは812スーパーファストの後継という位置づけではありますが、12チリンドリでは(812スーパーファストと)ポジショニングが少し変わっていて、それは「パワー含む絶対的なパフォーマンス面でのフラッグシップではなくなった」こと。
フェラーリにおける「V12フロントエンジン」モデルはその位置づけが変化している
これはハイブリッドシステムを積むSF90ストラダーレが登場したことに起因していて、V12自然吸気エンジンではどうしても「V8ツインターボ+ハイブリッド」に出力面では敵わず、そしてパフォーマンス面においても「AWD」には及ばないため。
よってフェラーリは「V12フロントエンジンモデル」のポジションをそれまでとは少し変更し、「パフォーマンス面でのフラッグシップ」をミドシップモデルに譲ることとし、V12フロントエンジンモデルを「より象徴的な」存在として位置づけているわけですね。
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実際のところ、この12チリンドリには「電動開閉リアゲート」「ソフトクローズドア」が備わり、そのほか細部の仕上げを見ても「紛うことなきラグジュアリーカー」。
ただしこれはフェラーリが「ふやけた」ことを意味しているわけではなく、かつての(1960〜1970年代あたりの)エレガントなV12フェラーリを現代風に解釈したがための装備であるとも考えています。
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フェラーリ 12チリンドリはこんな特徴を持っている
そこでまずはこのフェラーリ 12チリンドリの特徴を見てゆくと、搭載されるエンジンは6.5リッター V12、最高出力830 ps/最大トルク678 Nmを誇る「F140HD」。
このエンジンによって12チリンドリは0-100 km/h 加速2.9秒、最高速度340km/hという驚異的なスペックを誇ります。
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ボディサイズは全長4,733mm、全幅2,176mm、全高1,292mm、ホイールベース2,700mmというかなり大きなクルマであり、やはり1960年代〜1970年代のV12フェラーリを連想させるエレガントな“ロングノーズ × ショートデッキ” のプロポーションを持っています。
そのデザインにおいて特徴的なのはフロントの「ブラックバンド」ですが、これは発表時には「365GTB / 4 デイトナへのオマージュ」と言われたものの、実際には「ヘッドライトを隠し、クルマというよりも宇宙船のように見せるため」であることがデザイナーであるフラビオ・マンゾーニ氏の口から語られていますね。
そしてリアだとこの「デルタウイング」デザインが印象的。
ヘッドライトの下には「ブレード」があり、これはデイトナSP3や最新のテスタロッサにもつながるデザインで・・・。
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このブレードはサイドスカットルともども「高級機械式腕時計のケースのような」ブラシ仕上げっぽいフィニッシュです。
ディティールを見てゆくと、サイドにはフロントから連続するかのような「2本の」プレスラインがドアまで続き・・・。
そこからリアフェンダーが突如”球状に”盛り上がるというデザイン(ローマ、そしてデイトナSP3にも見られる)。
テールランプもまたブレード状で・・・
発光グラフィックもブレード形状にあわせたもの。
こういった感じで「連続性」が重視されつつも「直線」「曲線」「平面」「曲面」といった異なる要素が組み合わせられているのがこの12チリンドリというわけですが、ぼく的には現行フェラーリのラインアップ中で「最高のデザイン」を持つのでは、とも考えています。
なお、12チリンドリにおいて特筆すべきはその「インテリア」で、12チリンドリは「デュアルコクピット」を採用し、これは運転席と助手席とが「左右対称」のような構成を持つデザイン。
デュアルコクピットそのものは珍しいものではなく、プロサングエやアマルフィもこのデザインを採用していて、その一方でF80やテスタロッサといったミドシップ系では「シングルシーターコンセプト」が採用され、こちらはシングルシーター=F1マシンをイメージしたドライバーオリエンテッドなレイアウトです。
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つまることろ、フェラーリのインテリアにおける最新の解釈は「スポーツ系ではシングルシーターデザイン」、「ライフスタイル系ではデュアルコクピット」だと受け取ることができ、ここも12チリンドリの(812スーパーファストからの)ポジション的な変化を感じさせられる部分でもありますね。
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そして12チリンドリでは細部に至るまでの高品質かつ上品なデザインそしてフィニッシュが見られ・・・。
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やはり複数の異なる要素を統合し、かつドアインナーハンドルや各種スイッチを「目立たないようにデザイン処理によって隠してしまう」という手法が見られますが、これは「形は違えども」ブラックバンドの中に「クルマに必要なパーツやユニットをそこにまとめてしまい、さらに隠す」ことでクルマっぽく見せなくするというのと同じ考え方の現れなのかもしれませんね。
フェラーリ 12チリンドリを実際に運転してみよう
そこでここからは実際の試乗ですが、公道かつ一般道での試乗であり、ぼくは基本的に安全運転派(ずっとゴールド免許である)なので「普通に走った範囲での」レビューです。※しかしこれが大半のフェラーリの使われ方なのかもしれない
まずエンジンをスタートさせて感じるのは「そのサウンドと振動がマイルド」ということで、つまりは「かなりそれらが抑え込まれている」。
サウンドについては欧州の騒音規制が大きく関係している思われるものの、振動に関してはフェラーリが意図的に抑えているものと考えてよく、先代である812スーパーファスト、その前のF12とは比較にならないほどの「静粛性と快適性」が実現されており、これは上述の「フラッグシップのあり方」が変わっていることに由来しているものと思われます。
加えて、フェラーリはローマ発表時に「高級車やサルーンのオーナーも取り込む」としているので、この12チリンドリもローマ同様、あるいはそれ以上に「ラグジュアリー」を意識した設計がなされ、それを垣間見ることができるのが「電動開閉式リアゲート」やオプション設定される「ソフトクローズドア」、そしてブルメスターによるハイエンドオーディオ。
つまるところ12チリンドリは新しい世代のV12フロントエンジンモデルであり、フェラーリ全体のラインアップが拡充される中において「新しい客層を呼び込むためのクルマ」ということになりそうですが、実際に運転したフィーリングもまさに「新感覚」。
まず低回転から非常に力強いトルクを示すために車体が軽く感じられ、812スーパーファストのように「回転数に応じた盛り上がり」というよりはトルクカーブが示すとおりに「どの回転域(そんなに回してないですが)でも安定した挙動を示すという雰囲気。
なお、環境規制に対応するためか普通に走行した際の回転数は非常に低く(1,000回転ちょっと)、そして低い回転数のままポンポンとシフトアップしてゆくものの、ハイブリッドがなくとも「低回転でも十分に力強く」、そして大排気量ターボエンジンにありがちな「加給がかかるまで低回転のトルクがスカスカ」ということもなく、「踏めば瞬時に加速する」自然吸気エンジンならではの頼もしさも感じられます。
実際のところ、フェラーリは「V12エンジンとターボ、そしてハイブリッドとの組み合わせはナンセンス」ともコメントしており、その理由は「ターボ、ハイブリッドともに小排気量エンジンの特性を補うためのものであり、大排気量V12エンジンとは相性が良いとは言えず、むしろその美点を損なってしまう可能性があるから」。
よってこの12チリンドリは自然吸気V12エンジンの持ち味を存分に発揮させた味付けがなされていると認識していますが、もし「高回転まで」回すことが許される環境があれば、その際にドライバーは恍惚状態に陥ることとなるのかもしれません。
そのほか今回の市場で気づいたのは「非常に安定性が高い」ということで、まず試乗した環境は「トラックターミナルのある埋立地」。
つまるところ「轍がいっぱい」ではあったものの、「フロント275、リア315」というとんでもなく太いタイヤを装着しているにもかかわらず「轍にハンドルを取られない」のは特筆すべき点(いったいこれをどうやって実現しているのか想像できない)。
そしてサスペンションのストロークが長く、「上下にうねる」路面であっても(特にリアが)しっかり設置してグリップや安定性を失うこと無く安心して走行することが可能です。
つまるところ、12チリンドリは「ドライバーがV12エンジンを楽しむために」一切の不安や懸念を取り除いたクルマであると考えてよく、その意味においては「もっともピュアにV12エンジンを楽しめる」クルマなのかもしれません。
そしてこういった制御の背景にあるのは「デジタル」であることは疑う余地はありませんが、フェラーリの恐ろしいところは「デジタル」を全く感じさせないところであり、旧来のアナログなクルマが持っていた「運転を楽しむにはノイズとなりうる部分」をデジタル技術によって取り除き、アナログなクルマのピュアな部分のみを抽出した「洗練された新世代のアナログ」ともいうべきフィーリングを実現している点。
いくつかのスポーツカーメーカーは「アナログ」を強調するために「ショック」「振動」を強調する傾向にあるものの、12チリンドリではそういった”演出”はいっさいなされず(むしろ逆方向)、その名(12気筒)のとおり、V12エンジンのみを楽しめる「ハイ・フィデリティな」スポーツカーである、という印象です。※よほどエンジンに自信がないとこれはできない
ここ最近のフェラーリはとやかく言われがちではありますが、いずれのニューモデルも実際に運転してみると「フェラーリが伝えたいこと」が手に取るようにわかるクルマが多く、こういった表現ができ、かつその幅が広いのもフェラーリならでは。
「なにがいいいたいのか、なにがしたいのかよくわからない」クルマも少なくない中、デジタル、そして電動化を「正しく」活用し、ドライバーへと語りかけてくるクルマを作ることができる数少ないメーカーがフェラーリである、ということを再認識させられたのが今回の試乗であったと思います。
フェラーリ12チリンドリのライバルは?
現在V12エンジンを積むスポーツカーというとランボルギーニ・レヴエルト、アストンマーティン・ヴァンキッシュが存在しますが、前者は「ミドシップ+PHEV」、後者はフロントエンジンながらも「ターボチャージャー付き」。
つまりフェラーリ12チリンドリの「自然吸気」とはやや性質が異なっており、しかし強いていえば競合するのはアストンマーティン・ヴァンキッシュ。
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こちらに搭載されるのは835 PS/1000Nmという強烈なスペックを持つ5.2 L V12ツインターボで、そのパフォーマンスは「0-100km/h加速3.3秒、最高速度345 km/h」という12チリンドリに近いもの(価格設定も「5,290万円」なので12チリンドリにかなり近い)。
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ただし近年のアストンマーティンは(前CEO、前々CEOの時代とは異なって)フェラーリに対抗するのではなく、アストンマーティンならではの歴史とDNAを重視した「ラグジュアリー」を重視した独自の方向性へとシフトしており、アストンマーティン自身も自社のクルマをして「独自のセグメントに属する」と表現していますね。
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ちなみにフェラーリ12チリンドリの価格は5,674万円から(発表時)に設定されていますが、V12モデルは「フェラーリの顧客の中でも限られた一握りのVIP」しか購入できず、よってぼくには購入権利が与えられないという超エクスクルーシブな存在がこの12チリンドリ。
つまるところぼくには「縁が無いクルマ」ということになりますが、それでも試乗させてくださったオートカヴァリーノさんには感謝です。
フェラーリ12チリンドリを試乗した際の動画はこちら
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