| BMWはこの状況を多少なりとも予見できたはずだが |
BMW 8シリーズが全く売れていない、という報道。
BMW 8シリーズは2018年に鳴り物入りでデビューしており、クーペ、そしてコンバーチブル、さらにはグランクーペと矢継ぎ早にラインナップを拡大しています。
位置づけとしては、数字が表すとおり「7シリーズの上」つまりフラッグシップということになり、日本での価格は1152万円(グランクーペ)からという設定です。
そもそも、なぜBMWは8シリーズを発売したのか
なお、日本では「高級クーペ市場」がニッチながらも確立されているようで、意外と8シリーズが売れているという話も。
同様にレクサスLCも好調だと伝えられているので、日本市場に限っては「悪くない」のかもしれません。
ただし北米についてはまた事情が異なると見え、2019年だと8シリーズすべてあわせても、販売したのはわずか4,410台(しかも2,000台以上の”売れていない”在庫があるらしい)。
BMWは2019年、北米市場にて合計324,825台を販売しているので、8シリーズが占めるのはそのうちわずか1.35%ということになりますね。
BMWが8シリーズを復活させたのにはいくつか理由があると思いますが、最も大きなものは「高い利益率を持つ製品を発売する」ことだったんじゃないかとぼくは考えています。
現在、BMWはメルセデス・ベンツに対して「追いつけ、追い越せ」であり、そのために(数を稼げる)エントリーモデルに注力していて、これがかなり利益を圧迫している可能性が大。
ただ、エントリーモデルを値上げすると「台数が出なくなる」のでBMWの目的を達成することが難しくなり、よって「利幅の薄いエントリーモデルを売りながらも、会社全体として利益を残せる」手段として8シリーズを投入したんじゃないかということですね。
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8シリーズは高価格なクルマですが、プラットフォームは5シリーズでデビューさせたCLAR、エンジンも既存のユニットを採用しているため、「車両本体価格ほどにはお金がかかっていない」、言い換えれば「利益の厚いクルマ」。
これを大量に販売することで、コンパクトカーの開発や販売によって削られてゆく利益を補おうという目的があったのだと考えています。
BMWは市場を見誤った
この考え方自体は問題はなく、ただしBMWはおそらく市場を見誤った可能性が大。
というのも、高級クーペそしてオープン市場については、メルセデス・ベンツが「利益を取れない」として撤退を決めた分野。
実際に新型Sクラスについては「クーペ、カブリオレともに設定されない」と言われており、メルセデス・ベンツが”魅力なし”としたセグメントにBMWは乗り入れて行ったということになりますね。
もしかするとBMWは「メルセデス・ベンツ不在によって空いたスペース」を狙おうと考えたのかもしれませんが、結果的に縮小市場において存在感を発揮できなかったのは間違いのないところ。
加えて、こういった高級クーペがもっとも売れるのは北米市場であるものの、現在の北米市場では「スポーツカーが虫の息」。
8シリーズの開発をはじめたであろう2015年頃にはまだ高級クーペが売れていたのかもしれず、しかしこれだけ速いペースで高級クーペそしてスポーツカー市場が縮小してゆくということは計算外だったのかもしれません。
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なお、現在自動車販売第一位の中国では「スポーツクーペ」の人気が(もともと)サッパリなく、頼みの綱であった北米市場で売れなかった場合のリスクヘッジを考えていなかったのはBMWの失策だと言えそうです。
これらを総合して考えると、BMWは「利益の薄いコンパクトカーの埋め合わせとして」利益の厚いクルマを作るならば、そして「特定市場で売れなくとも、別の市場でリカバリーできる」という保険をかけるならば、8シリーズのような高級クーペではなく、X7の上に位置する高級クーペSUV、つまりX8や、ロールスロイス・カリナンに対抗しうる「X9」を発売すべきだったのだろう、とも考えています。
なぜ8シリーズは売れないのか
そして今回、Automotive Newsが報道するところだと、8シリーズが売れない原因のひとつは「メーカー(BMW)のプロモーション不足」。
これはディーラーからの意見として紹介されていて、要は「BMWが8シリーズのプロモーションを積極的に行わないので、認知度が向上せずに売れない」ということですね。
8シリーズは「ほぼブランニューモデル」なので、やはりBMWはそのプロモーション(広告にせよ、イベントにせよ)をもっと積極的に行うべきだったのかもしれません。
ちなみに、フェラーリは2019年に5つのニューモデル(F8トリブート、SF90ストラダーレ、F8スパイダー、812GTS、ローマ)を発表していますが、2020年には新型車の発表が少なくなるだろうと述べており、その理由は「2109年に発表したニューモデルを市場に浸透させる必要があり、それに注力するため」。
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あのフェラーリですら、発表したニューモデルについては積極的なキャンペーンを行ってゆかねば期待したセールスを得られないと考えているということになり、実際に最近では「ローマ」を世界各地にて行脚させているところです。
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それを考慮するに、BMWは8シリーズについてもっと何らかのアクションを起こすべきであり、実際に今年後半からはプロモーションを強化するという話もあったそうですが、おそらくは新型コロナウイルスの影響にてこの計画も流れそう。
そのほか、ディーラーが指摘するのは「バリエーションを急激に拡大しすぎた」ということで、これによって8シリーズのイメージが曖昧になったり、消費者の選択肢を増やしてしまっただけだという意見もあるようです。
BMWは開発効率を考え、新型8シリーズについて「クーペ、カブリオレ、グランクーペ」を一気に開発して販売していますが、もしかすると、(開発が二度手間になるかもしれないものの)まずは8シリーズクーペを発売し、1~2年という時間をかけて市場に浸透させ、その後にカブリオレ、グランクーペを順次発売してゆくといった手法を採用したほうが良かったのかもしれません。
一方でレクサスは、高級クーペ「LC」について、まず2017年に「クーペ」を発売し、その後に映画「ブラックパンサー」にLCを登場させたり、構造色の「ストラクチュラル・ブルー」を投入したり、数々の特別仕様車を追加することでその認知度を高めていて、その後2019年にようやく「コンバーチブル」を追加。
一見するとBMWの「一度にまとめて」のほうが効率的に見えますが、実際にはそうではなかった、ということなのかもしれません。