
140年前に発明された技術が「現代のエレクトリックモーターと出会うことで」もっとも効率的なパワーユニットに
世の中「いったい何が起きるか」わからない
ガソリン価格の高騰が続く中、トヨタ「プリウス」やホンダ「アコード ハイブリッド」などのハイブリッド車が示す驚異的な実燃費の良さが多くのドライバーにとって大きな魅力となってるのは御存知の通り。
しかしこれらのハイブリッド車に搭載されているガソリンエンジンが「一般的なガソリンエンジンとは大きく異なる燃焼メカニズムを備えている」ことは意外と知られていない事実です。
そして多くのハイブリッド車で採用されているのが「アトキンソンサイクル(Atkinson Cycle)」と呼ばれるエンジンで、このエンジンは単体だと一般的なガソリンエンジンに比較して出力が低く、しかしハイブリッドシステムと組み合わせることで「最強の燃費兵器」と化すことでも知られます。
ここでその技術的背景と仕組みについて見てみましょう。

この記事の要約
- トヨタやホンダをはじめとする自動車メーカーは、ハイブリッド車(HEV)の圧倒的な低燃費を実現するため「アトキンソンサイクル」エンジンを積極的に採用している
- 可変バルブタイミングを用いて吸気バルブを遅く閉じ、「実質的な圧縮比<膨張比」とすることで、燃焼エネルギーを無駄な熱にせず運動エネルギーへ最大限に変換している
- 低回転時のパワー不足というデメリットをエレクトリックモーターの強力な即時トルクでカバーすることにより、燃費性能と走行パフォーマンスを高次元で両立している
アトキンソンサイクルエンジンの概要と仕組み
アトキンソンサイクルとは、1882年にイギリスの技術者ジェームズ・アトキンソン(James Atkinson)が発明した熱機関の理論サイクルです。
一般的なガソリンエンジン(オットーサイクル)は、「ピストンが空気を圧縮する行程の長さ」と「爆発によってピストンが押し下げられる行程の長さ」が均等(1:1)になっているのですが、これに対しアトキンソンサイクルは、圧縮行程よりも膨張行程を長く設定することで、燃焼ガスが持つエネルギーを排気熱として捨てず、最後の最後まで運動エネルギーとして絞り出す仕組みを持っていることが最大の特徴となっています。
現代のアトキンソンサイクルエンジンでは、クランクシャフト側の複雑なメカニカルリンクを使わず、可変バルブタイミング(VVT)技術を活用してこの状態を電子制御で再現していて、ピストンが上昇を始める圧縮行程に入っても吸気バルブをあえて少し長く開けておき、シミュレートされた膨張比(高膨張比)を作り出すことにより高効率な熱効率(高サーマル・エフィシェンシー)を達成しているというわけですね。※「アトキンソンサイクル」とは構造ではなく理論である

なぜ馬力を下げてまで燃費を伸ばせるのか
アトキンソンサイクルの最大のメリットは上述の通りの高い熱効率ではありますが、引き換えとして単体での出力(パワーやトルク)が低下するという特性も無視できず、通常のガソリンエンジンとハイブリッド車用に最適化されたアトキンソンサイクルエンジンの特性比較は以下の通り。
| 項目 | 従来のガソリンエンジン(オットーサイクル) | アトキンソンサイクルエンジン |
| 圧縮比と膨張比の比率 | 圧縮比 = 膨張比(1:1) | 実質圧縮比 < 膨張比(高膨張比) |
| 熱効率(熱エネルギー変換率) | 標準的(熱として逃げるエネルギーが多い) | 極めて高い(排気熱損失を最小限に低減) |
| 排気量あたりの出力・トルク | 高い(アクセルレスポンスが良い) | 低い(特に低回転域のトルクが細い) |
| 主な用途 | 純ガソリン車、スポーツカー | ハイブリッド車(HEV)、低燃費追求モデル |

アトキンソンサイクルエンジンにおいては、吸気バルブを遅く閉じることでピストンが圧縮する空気の量が減るため、エンジン単体では特に低回転域での力強さ(トルク)が損なわれ、しかしその分、ポンピングロス(吸排気抵抗によるエネルギー損失)が大幅に軽減されることとなり、軽い負荷で定速走行する際などに極めて少ない燃料消費で稼働し続けることが可能になります。
なお、同様に吸気バルブの閉じるタイミングを調整して高膨張比を得る技術に「ミラーサイクル」が存在し、基本原理は同じではあるものの、一般的に過給機(ターボやスーパーチャージャー)を組み合わせて低下したパワーを落とさずに燃費を稼ぐアプローチをミラーサイクル、現代では自然吸気でハイブリッドモーターと組み合わせるアプローチをアトキンソンサイクルと呼び分ける傾向があるようにも思います。
ハイブリッド車(HEV)がアトキンソンサイクルの「最高の相棒」である理由
アトキンソンサイクルエンジン単体を動力源とした場合、「発進時や加速時にパワー不足を感じる」という決定的な弱点が存在するのですが、しかしハイブリッドカーにおいてこれを完璧に補うのが「エレクトリックモーター」の存在で、ガソリンエンジンは低回転で大きなトルクを出すのが苦手である反面、エレクトリックモーターは発進した瞬間に最大トルクを発生させることができるという特徴を持っており、両者の特性をかけ合わせ、そして苦手分野をお互いで補完するのが「アトキンソンサイクルとエレクトリックモーター」すなわちハイブリッドシステムである、というわけですね。

- 発進・急加速時: 反応が素早く強力な電動モーターが駆動をアシストし、エンジンのトルク不足をカバー
- 定速巡航時: エンジンが得意とする高効率な回転域に維持し、アトキンソンサイクルの強みである低燃費特性を最大限に発揮
- 減速・停止時: エンジンを即座に停止させ、運動エネルギーを回生ブレーキでバッテリーへ回収
トヨタの「THS II(Toyota Hybrid System II)」やホンダの「e:HEV」といった2モーター式ハイブリッドシステムは、この「エンジンは効率だけに特化させ、力不足はモーターで補う」という役割分担を徹底することにより、街乗りから高速道路まで隙のない優れた実燃費を叩き出すというもので、つまるところ「単にエレクトリックモーターを足したわけではなく、最初からエレクトリックモーターありきで設計された内燃機関」を持つということに。
テクノロジーの進化
では、「アトキンソンサイクルはハイブリッド専用なのか」というと、必ずしもそうではなく、近年の高度な可変バルブタイミング機構を備えたエンジンでは、走行状況に応じて「オットーサイクル」と「アトキンソンサイクル」をシームレスに切り替える制御が採用される例も。
たとえば、強い加速が必要な場面ではバルブタイミングを戻してパワフルなオットーサイクルで駆動し、高速道路でのクルージングなど負荷が軽い場面ではアトキンソンサイクルに切り替えて燃費を稼ぐという”状況に応じた”柔軟な制御が組み込まれているエンジンも存在します。

結論
トヨタやホンダが追求するハイブリッド技術の裏には、「エンジンは燃費性能へ全振りし、足りないパワーは電動アシストで補う」という合理的な思考、そしてそれを可能にしたアトキンソンサイクルエンジンが存在します。
140年以上前に考案された技術が、現代の電動化テクノロジーと出会ったことで最高の相乗効果を生み出したというのはなんとも興味深い話ではありますが、単にバッテリーやモーターを積むだけでなく、内燃機関そのものの熱効率を極限まで高めるこのアプローチこそが、日本のハイブリッド車が世界中で高く評価され続ける最大の理由だと言えるのかもしれません。
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参照:Motor1











