| ある意味で、このクルマは「先を行き過ぎていた |
三菱が2008年にデトロイト・モーターショー(North American International Auto Show=NAIAS)で発表した”三菱 コンセプトRA(MITSUBISHI Concept-RA)”。
エンジンは(ガソリンではなく)2.2リッター4気筒ターボディーゼル(クリーンディーゼル)、出力は201HP。
トランスミッションは「Twin Clutch SST(Sport Shift Transmission)」、駆動方式は4WD、ホイールサイズは21インチ。
発表当時のコンセプトは「走る歓び」と「環境への貢献」だとされています。
市販できそうなスタイリングと内容を持っていたが
そのスタイルは非常にスタイリッシュで、張り出した前後フェンダーが高い運動性能を予感させますね。
この時期の三菱車とはほぼデザイン的関連性はなく、しいて言えばノーズとヘッドライトがランサーエボリューションにちょっと「似ている」くらい。※当時のランエボは「X(2007−2015)」
機能的な特徴は「アクティブホイールステアリング」。
これはドライバーのステアリングホイール操作に対し、速度に応じて最適なフロントホイールの切れ角を実現するというもの。
さらにコンセプトRAでは「S-AWC(Super All Wheel Control、車両運動統合制御システム)」が与えられ、これはすでにランエボにも採用されていた「ACD」「AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)」「スポーツABS」「アクティブダンパー」「アクティブセンターデフ」「スタビリティコントロール」を総合して制御を行うシステム。
駆動力と制動力を最適化することを目的としています。
これは現在多くの4WD車が採用する「トルクベクタリング4WD」の先駆けとも言える内容を持ち、ステアリングとブレーキもあわせて制御するところが「未来」ですね。※最新のハルデックス、メルセデス・ベンツ4MATICなどはブレーキも統合制御している
エンジンが「ディーゼル」というのはかなり珍しいと思いますが、これは主に排ガス規制に対応するためで、三菱得意のMIVEC、そしてコモンレール/ピエゾ式インジェクターも採用(もしかすると、エンジンカバーを思わせるボンネットは”ディーゼルエンジン”を強調しているのかも)。
たお、タービンにはポルシェも採用している可変ジオメトリ(ariable Geometry=VG)、さらにはVD(=Variable Diffuser)などの先端技術を用いたほか、触媒にも新システムを採用しています。
コンセプトRAの車体構造はアルミの押出材、ダイキャスト(鋳造)材とを組み合わせたアルミスペースフレームで、これは軽量化、そして衝突安全性向上を考慮したもの。
さらに外板にはリサイクル可能な樹脂を使用しています。
要は「新時代に向けた」ハイテクかつクリーン、安全でリサイクル性も高いスポーツカーということになりますが、常にテクノロジーで先をゆく三菱らしいコンセプトカーでもありますね(映画”キャノンボール”でも三菱はハイテク車の代表という位置づけだった)。
さらにドアは「未来」を視覚的に示すためか「ディへドラルドア(バタフライドア)」が採用。
インテリアはクリーンかつシンプルで、カラーはスポーツカーにしては珍しい「ブラウン系」。
これは”環境”を意識したためかもしれませんね。
なお、メーターはデジタル式を採用しているように見え、その他のスイッチ類も極力省かれており、11年前のコンセプトカーながらも「最新コンセプト」といっても通用しそう(ただし現代では必須の、インフォテイメントディスプレイはないけれど)。
こうやって見ると、走行性能はもちろん環境性能、安全性、インターフェースなど、いろいろな意味でコンセプトRAが時代の先を行っていたことがわかります。
しかし残念ながらこのコンセプトRAが登場することはなく、今後も発売されることはなさそうですが、このコンセプトRAに採用される技術の多くが現在のスポーツカー、スーパースポーツに多く採用されていることを考えるに、もし登場していれば”ゲームチェンジャー”となった可能性も。
ポルシェ718ケイマンやアウディTT、BMW Z4、そしてアルピーヌA110や新型スープラのライバルとなったかもしれません。
三菱は元来、非常に優れた技術を持っていて、それはランサーエボリューションを見ても明らか。
ランエボは「パッケージングの不利をテクノロジーで覆した」、そしてそれまでのスポーツカーにおける理論を根本からひっくり返したというクルマ。
さらに「軽量化し、足回りを固め、重心を低くする」というセオリーを忠実に守ってきた欧州の自動車メーカーからすると「そもそもの考え方を否定された」かのようなクルマでもあり、まさに新しい時代の幕開けを告げた一台だとも考えています。
そう考えると、三菱はこの技術を活かしてなにかできそうだったとは思うものの、折悪しく「リコール(隠蔽)問題」によってその将来が閉ざされてしまったのは悲しい事実。
自動車メーカーが夢見た「ディーゼルの明るい未来」はやってこなかった
なお、この2008年前後というのはちょうど排ガス規制が厳しくなり、各メーカーがディーゼルエンジンを模索していたころ。
アウディはル・マンに参戦させるレーシングカーとして「R10 TDI(2006〜2008年)」を投入したり、ランボルギーニもディーゼルエンジン搭載スーパースポーツの開発を検討していた時期ですが、市販モデルとしての「ディーゼルスポーツ」がいずれかのメーカーから投入されたことはなく、なんだかんだで「ディーゼルエンジンとスポーツカー」との相性は良くなっかたのでしょうね。
そう考えると、自動車メーカーは環境規制をにらみ、常に先を見てゆく必要があると言えますが、その方向性を誤ると大きな損失を被ることも。
フォルクスワーゲンの「ディーゼル不正事件」が端的な例であり、それによって業界全体の流れが変わることもあるようです。
現在だと「エレクトリック」がそれに該当し、さすがにこれで「不正」は出ないと思われるものの、重大事故が起きたり、そもそも消費者が「ついてこない」可能性もありそう。
つまりは自動車メーカーがいかに「エレクトリック」を推したとしても「売れなければ」意味はなく、グループあげてエレクトリック化を進めるフォルクスワーゲン、しかしフルエレクトリック化に慎重なトヨタとでは大きく差がつく可能性もあるだろう、と考えています(今の時点で、時代はどう転ぶかわからない)。