| 今や広く自動車に採用されるベンチレーテッドディスクブレーキがまさかポルシェの発明だったとは |
世界初のベンチレーテッドディスクブレーキ搭載の市販車は1966年のポルシェ911S
さて、ポルシェのブレーキは「宇宙一効く」と言われ、そのエンジンパワーの数倍のストッピングパワーを持つとされていますが、そんなポルシェがブレーキに関わるひとつのストーリーを公開。
これによると、ポルシェは1965年に「ディスクブレーキにかかわる革新的な発明」を行っており、これによって大きくモータースポーツそのものが飛躍的な進化を遂げた、とのこと。
「速く走る」よりも「速く停まる」方法を見つけるほうがずっと難しかった
自動車そしてモータースポーツの歴史上、「速く走る方法」つまりエンジンパワーの向上は比較的早い時期に見つけ出されていて、1930年代には「数百馬力」を発生するエンジンが開発されているものの、一方で「速く減速する」方法を見つけ出すのに自動車メーカーは非常に苦労しており、当時のドラムブレーキはすぐにオーバーヒートしてしまうといった問題を抱えていた、と言われます。
レースにおいてはもちろん「速く走る」ことは重要ではありますが、よりすぐれたラップタイムを記録するには「より短い時間で」ブレーキングを完了させる必要があり、つまり「速く停まる」ことも非常に重要。
よって各自動車メーカーは高性能ブレーキの開発に力を入れ、そこで登場したのが「ディスクブレーキ」。
ディスクブレーキをはじめて採用したのは1950年代のジャガーC-Typeであり、「モータースポーツ史上最大の悲劇である、負傷者180名を出した1955年のル・マン」の事故の原因となったのもまたディスクブレーキだと言われます。
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ただ、その理由は「ブレーキが効かなかった」のではなく「ブレーキが効きすぎた」ためで、当該レースにおいて(C-Typeに続きディスクブレーキを搭載した)ジャガーD-Typeがブレーキを踏んだところ、ドラムブレーキを積んでいた(当時はまだドラムブレーキが主流だった)後続のオースチン・ヒーレー100Sが十分に減速できずジャガーD-Typeに追突しそうになったためにこれを避けようとし、その後続だったメルセデス・ベンツ300SLRがオースチン・ヒーレー100Sに乗り上げる形で「観客席に飛んでいった」わけですね。
つまりディスクブレーキとドラムブレーキはそれほどまでに制動力に差があったということになりますが、そのディスクブレーキとて完璧ではなく、500度を超えるとオーバーヒートを起こしやすく、制動力が落ちるばかりか故障につながることもあり、目前だった勝利を逃してしまうこともあったといいます。
そこでポルシェが考えた画期的なソリューションとは
そして1965年にポルシェがあるアイデアを思いつくことになり、それは「ベンチレーテッドディスク」なのだそう(ディスクブレーキの登場から、ベンチレーテッドディスクブレーキの考案までに10年以上を要している)。
今となっては当たり前の構造ではありますが、それまでのブレーキディスクは「1枚もの」であり、しかしポルシェが考えたのは「二重壁ディスク」。
はじめて搭載されたのは欧州ヒルクライム選手権の名ドライバー、ゲルハルト・ミッターのためにつくられた1965年の906-8ベルクスパイダーであり、これは車体重量わずか570 kg、しかし255 ps(260 PS/190 kW)8気筒エンジンを搭載する文字通りのモンスター。
はたしてこのベンチレーテッドディスクブレーキをフロントに搭載することで「空気がディスク内のチャンネルを通ることで効果的にブレーキディスク内の空気を循環させ、より長く冷却し、ブレーキ性能をより長く一定に保つことができるようになった」ため、ゲルハルト・ミッターはコーナーを激しく攻め、ブレーキングポイントを大胆に選択し、結果的に速く走ることができるようになったといいます。
この結果に満足したポルシェは、その1年後に(市販車の)991Sへとこのブレーキシステムを転用することになり、こういった「モータースポーツにて培ったノウハウを市販車に転用する」のはポルシェの常。
そこが「ポルシェがポルシェたるゆえん」ということになりますが、ポルシェはずっと前から「速く走る」よりも「速く停まる」ことに情熱を傾けてきた、ということになりそうですね。
なお、現在において、この「ベンチレーテッドディスクブレーキ」はすべてのポルシェの市販車に採用されています。
ディスクブレーキを搭載するジャガーC-Typeに乗り、「最も速く停まった」スターリング・モス卿のドキュメンタリーはこちら
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