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フォードは「EV1台の販売につき1550万円の赤字」。わずかしか売れないEVがガソリン車の利益を一瞬で奪い去り、未来だと思われたEVが業績の大きな「重し」に

フォードは「EV1台の販売につき1550万円の赤字」。わずかしか売れないEVがガソリン車の利益を一瞬で奪い去り、未来だと思われたEVが業績の大きな「重し」に

Image:Ford

| まさかEVがこんな状況になるとは誰も想像していなかったであろう |

もう少し状況が進めば「EVを売ること」がビジネス上良い判断だと言えなくなるだろう

さて、フォードが2024年の第1四半期の決算報告を行い、同社の純利益は13億ドルだと報告することに。

ただしその内容が衝撃的であり、この13億ドルというのはEVの赤字「20億ドルを差し引いた残り」だといい、つまり(机上の空論ではありますが)EVを手掛けていなければ33億ドルの利益が残っていたわけですね。

一体フォードはなぜこんなことに

フォードは現在EV部門を「モデルE」、ガソリン車やハイブリッドを「フォード・ブルー」、トラックなど商用車を「フォード・プロ」という区分としていますが、モデルE部門については20,223を販売し20億ドルの赤字なので、計算上「1台のEVを売るごとに10万ドル(現在の為替レートでは約1550万円)の赤字」を出しているということに。

ちなみにフォードのEVはマスタング・マッハE、F-150ライトニング、E-トランジットの3つしかないものの、皮肉なことに第1四半期ではこの3モデルの販売が「増えてしまい」、これによって赤字が大きく拡大している、と報じられています。※最も売れたのはマッハEの「9,589台」

もちろんEVがもっと売れるようになれば研究開発費を償却できるようになるかとは思われますが、一般に採算ベースは「40万台」とも言われるので、そこまでフォードはひたすらEVを売る都度赤字を垂れ流す必要があり、しかし現在のEV市場の動向を見るに、40万台を販売するのは遠い先の話なのかもしれません。

さらに「なぜかはわからないものの」1台あたりの赤字は少し前の3倍くらいに拡大しており、こういった状況を鑑みるに、さすがに株主もフォードに対して「EVを売れ」ということはできず、そしてフォードも「EVに注力する」とは言えず、悶々とした状況が続くことになりそうです。

フォードがF-150ライトニングの価格を最大で16.6%値下げ。ライバルであるシルバラードEVへの対抗だと思われるが、製造原価やバッテリー調達コストも下がったもよう

EVは自動車メーカーにとって「未来」であったはずだが

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現状を鑑み、フォードはすでにEVの減産を行っていて、バッテリーサプライヤーに対しても発注をキャンセル済みとの報道も見られますが、モデルE部門の損失を今後どうやって相殺するかについての協議を行っている最中だとも。

フォード「EVの販売1台あたりの赤字はさらに大きくなっている」。そのためフォードはEV製造を縮小しEV関連投資を縮小すると発表
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「未来」だと思われたEVが業績の重しとなるとは、まさか(ほんの数年前には)誰も予想しなかったのだと思われ、ほんの数年先も読むことができないのが現在の自動車業界ということになりそうで、しかしもちろん、同様の状況に陥っているのはほかメーカーも同じであり、GM、ステランティス、メルセデス・ベンツ、ベントレーも「EVへの転換を遅らせる」と発表し、つい最近だと(EVへの転換に最も熱心であった)フォルクスワーゲンすらも「しばらくガソリン車を継続生産する」と述べています。

マスタング・マッハE
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参考までに、フォード・ブルーの利益は9億ドル、フォード・プロの利益は30億ドルで、もっとも売れたモデルはヘビーデューティートラックのFシリーズ(152,943台)。

しかしいかに人気モデルが売れようとも、その十数分の一しか売れてないEVがその利益を根こそぎ持っていってしまうというのは耐え難い事実なのだと思われます。

よってフォード(それ以外の自動車メーカーも)はなんとか「赤字が出ない、あるいは赤字幅を抑えることができる」低コストEVを開発し売るしかない(EVを売らねばCAFE規制に関連する罰金の支払額が増える)ものと思われますが、今から新しいEVを開発することもなかなかに難しい判断で(トヨタはこれまでのEVをチャラにして新しい低コストEVを開発するという決定を下している)、しかし安価なEVを大量に売ろうとしても中国製EVと競合することになってしまい、正直なところEVに関してはどの自動車メーカーも「八方塞がり」なのかもしれません(その点、BMWは内燃機関搭載車と可能な限りパーツを共有したEVを販売しており、専用にEVを開発した場合に比較すると大きくコストを圧縮できているものと思われる)。

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参照:Bloomberg

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