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DCT(デュアルクラッチ)の歴史をたどる。実はトルコンATよりも早く90年前に誕生、そしてレースを制し市販車を変えた革命的変速機とは

DCT(デュアルクラッチ)の歴史をたどる。実は90年前に誕生、そしてレースを制し市販車を変えた革命的変速機とは

|いまや「これ抜きでは語れない」、DCTが自動車界にもたらした革新 |

この記事の要約

  • DCTの基本: 2つのクラッチで奇数・偶数ギアを制御し、途切れのない加速と高効率を実現した革新的技術
  • 知られざる起源: 現代の技術と思われがちだが、その原型は1935年のフランス人発明家ケグレスによる特許に遡る
  • レースでの覚醒: 1980年代、ポルシェ(PDK)とアウディがグループC・グループBラリーで実戦投入し、ラップタイム短縮に貢献
  • 一般普及の立役者: 2003年、フェルディナント・ピエヒ主導の下、VWゴルフR32に初採用され、高性能車のスタンダードへ
  • 将来の展望: 一部高級車での採用減少はあるものの、ポルシェ911では75%以上がPDKを選択
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なぜDCTは高性能車の「常識」となったのか?

「速く走りたい」というドライバーの永遠の願望に対し、どのようにDCTが答えてきたのか。

エンジンの力をタイヤに伝える「トランスミッション」は自動車の進化の歴史そのものでもあり、かつてマニュアルシフトは、熟練のドライバーでなければ最高のパフォーマンスを引き出せない、技術と経験を要するものでもあったわけですね。

しかし現代の高性能車は、誰でも驚異的な加速を享受でき、その立役者こそがDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)。

DCTは、クラッチ操作の煩雑さやパワーの途切れを完全に排除し、「速さ」と「スムーズさ」を両立させた”奇跡”のトランスミッションであり、ここでは一見現代の最新技術と思われがちなDCTが「いかにして生まれ、どのようにレース界を席巻し、ぼくらの日常の運転まで変えてきたのか」、その驚くべき歴史を探ります。

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デュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)の仕組みと特徴

DCTの動作原理:なぜシフトショックがないのか?

DCTが従来のトランスミッションと一線を画す点は、その名の通り「2つのクラッチ(文字通りデュアルクラッチ)」を持つことにあります。

クラッチの種類担当するギア役割
クラッチ1奇数ギア(1速、3速、5速など)動力伝達を担う
クラッチ2偶数ギア(2速、4速、6速など)次のギアをスタンバイ

走行中、現在のギアがクラッチ1で動力を伝達している間に、クラッチ2は次に予測されるギアをあらかじめ噛み合わせてスタンバイ。

シフトチェンジの瞬間、クラッチ1が離れると同時にクラッチ2が繋がるため、動力が途切れる時間が極めて短くなり、これによってドライバーは以下のメリットを享受できます。

  • 途切れのない加速: 動力伝達が途切れないため、マニュアルや従来のトルコンATよりも効率的で速い加速が可能。加えて「動力伝達が途切れない」ことで回転落ちによるトルク抜け、ギクシャク感がない
  • 燃費効率の向上: 効率的なパワー伝達により、優れた燃費性能を発揮
  • 高い操作性: エレクトロニクスが制御するため、熟練の技術が不要。誰でも最高の性能を引き出せる

黎明期:1935年に特許を取得した幻の技術

現代的なDCTの概念は、驚くべきことに20世紀初頭にまで遡ります。

  • 1910年代: モーガンの3輪車で「ドッグクラッチ」を含む2つのクラッチが使用される。ただしこれは現代の摩擦クラッチ式DCTとは異なるもの
  • 1935年:フランス人発明家アドルファ・ケグレスが、マニュアル操作の難しさを解消するため、現代につながる正真正銘の「デュアルクラッチ・トランスミッション」の特許を取得
  • 1939年:ケグレスは試作機「Autoserve」をシトロエン・トラクシオン・アバンに搭載し、しかし第二次世界大戦の影響もあって市販化には至らず

ここで補足すべきは1939年にオールズモビルのトルクコンバーター式AT「ハイドラマチック」を実用化していること。

これによってアドルファ・ケグレスの偉大な発明はトルコン式ATに道を譲り、DCTのアイデアは一時的に長い眠りにつくことになります。

そして驚くべきことにDCTはトルコン式ATよりも先に考案がなされており、しかしDCTは「マニュアル・トランスミッションの延長線上として」、一方のトルコンATは「マニュアル・トランスミッションに代わるものとして」開発されているのは注目に値する事実でもありますね(発想の出発点がそれぞれ異なる)。

レーシングテクノロジーへの進化:ポルシェ PDKの誕生

その後しばらくはトルコンATの時代が続き、DCTが再び脚光を浴びたのは高性能化が極限まで進んだ1980年代のモータースポーツの世界にて。

ポルシェの再挑戦と「PDK」

1960年代に一度、911へのDCT搭載を検討しつつも電子制御の未熟さから断念したポルシェではありますが、1970年代末に再びDCT技術に着目したことから大きく状況が動き出します。

年代車種・プロジェクト成果
1979年ポルシェ 956(グループCカー)ターボエンジンのブースト低下を防ぐため、パワーが途切れない変速機を追求
1981年PDK(Porsche Doppelkupplungsgetriebe)デュアルクラッチ技術に「PDK」の愛称を付与。テストを開始
1986年ポルシェ 962C(グループCカー)モンツァで実戦投入。ラップタイムの短縮効果を実証

特に、ステアリングホイールから手を離さずにシフト操作を可能にする(パドルシフトの原型となる)ボタン操作を導入したことで、ドライバーの運転への集中力を維持し、レースで決定的な優位性を生み出しましたが、投入初期はドライバーから「(ショックや振動が大きく)使い物にならない」というフィードバックを受けたという話もあり、実績を出すまでは「一筋縄ではゆかなかった」ようですね。

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Image:Porsche

アウディ S1:ラリー界の伝説に

これと並行し、ポルシェでのテストに関わっていたフェルディナント・ピエヒ(後にVWグループを率いる伝説的なエンジニア、そしてポルシェ一族)はこの技術に熱狂し、彼はすぐにアウディへと導入を指示し・・・。

  • 1985年11月: PDKを搭載したアウディ・クワトロ S1が、センペリット・ラリー・オーストリアで、2位に19分もの大差をつけて圧勝

これによりDCTは過酷なモータースポーツの場でその有効性を完全に証明し、「速く走るための変速機」としての地位を確立してゆくわけですね。

大衆車への普及:VWの「DSG」とピエヒの執念

大衆への浸透:VWゴルフR32への初搭載

レースで成功を収めた技術が一般車に降りてくるには時間がかかるものではありますが、しかし2000年代初頭、DCTは一気に大衆車へと普及することに。

  • 2003年: フォルクスワーゲン(VW)が、高性能モデル「ゴルフ R32」に市販車として世界初のデュアルクラッチ・トランスミッションを搭載
  • DSGの誕生: VWはこの技術を「DSG (DirektSchaltGetriebe)」と名付け、その後、アウディでは「Sトロニック」として展開を開始

この普及の背景には当時VWグループのCEOを務めていたフェルディナント・ピエヒの存在があり、彼はアウディ時代に魅了されたDCT技術をグループ全体に展開し、高性能車のスタンダードとして定着させることに成功します。

ブガッティ・ヴェイロンという“常識を超えた夢”を実現した人物──フェルディナント・ピエヒとは何者だったのか。けして限界を受け入れなかった男
ブガッティ・ヴェイロンという“常識を超えた夢”を実現した人物──フェルディナント・ピエヒとは何者だったのか。けして限界を受け入れなかった男

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Image:Porsche

参考までに、フェルディナント・ピエヒ氏の権力は絶大であったと見え、同氏がトップに在籍した期間には12気筒エンジンを積んだフォルクスワーゲンの高級車「フェートン」が登場したり、ブガッティやランボルギーニ、ベントレーなどを続々買収してV12やW12エンジンの展開を加速させたほか、ブガッティでは「W16」エンジンを実現させています(つまり、同氏の鶴の一声で巨大なVWグループを動かすことができたようだ)。

ポルシェ創業者一族、フェルディナント・ピエヒ氏が亡くなる。アウディ・クワトロ、ブガッティ・シロンなどVWグループの「顔」をつくり続けた豪傑

| ここまで方針が明確で、推進力と権力を持った人物は他にいなかった | ポルシェ創業者一族にしてポルシェ創業者の孫、さらに前フォルクスワーゲン会長、フェルディナント・ピエヒが82歳にて亡くなった、との ...

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そしてもちろん、ランボルギーニ・ウラカン、アウディR8、ブガッティ・ヴェイロンといった伝説的なスーパーカーにもDCTが採用され、0-100km/h加速の記録更新に大きく貢献したのも同氏による功績として知られます。

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DCTの未来:優位性の維持とEVの波

DCTは高性能車の代名詞となりましたが、近年、いくつかの課題に直面し、その「万能性」が揺らいでいるのもまた事実。

DCTの課題と他社動向

課題具体的な問題点自動車メーカーの動向
複雑性・コスト部品点数が多く、製造コストが高い、重量もかさむ。アストンマーティンやBMWは、軽量で低コスト、且つ高性能なZF製8速トルコンAT(ZF 8HP)への回帰を表明。
低速時の挙動低速での「クリープ現象」が苦手。渋滞時のギクシャク感が出やすい。-
シフトのショック極限走行から穏やかな走行に切り替えた際など、シフトが唐突になることがある。-
デュアルクラッチの採用を終了したBMW。なぜDCTをやめてトルクコンバーター式ATへ回帰するのか?今後DCTは消滅の道をたどるのか
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ポルシェのこだわり:PDKの優位性

一方でDCTの歴史を築いたポルシェは、この技術を簡単には手放そうとはしておらず、実際にポルシェ 911の購入者の75%以上がPDKを選択していることからもわかるように依然として高い支持を得ています。

ポルシェは、PDKが「ギア比を細かく設定でき、各モデルの特性に最適化できる」という技術的優位性を強調しているほか、電気自動車(EV)への移行が進む中、多くのEVがダイレクトドライブを採用しているものの、タイカンでは効率性を追求するため「2速DCT」を採用するといったチャレンジも。

これはDCTの効率的なパワー伝達能力がEVのハイエンドモデルにおいてもなお必要とされている証拠でもあり、さらに近年ではDCT内にエレクトリックモーターを組み込んだ「T-ハイブリッド用」DCT(PDK)も登場していますね。

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Image:Porsche

結論:DCTが自動車史に残した功績と今後の展望

デュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)は、単なる変速機ではなく、「途切れのない加速」という新しい価値を自動車界にもたらした革命的な技術です。

そのルーツは100年近く前にあり、長年の技術的な壁を乗り越え、モータースポーツで覚醒し、最終的には世界中の高性能車に採用されるという劇的な歴史を辿りました。

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トルコンATの進化やEV化の波に押され、その存在感が変化しつつある現在でも、ポルシェのPDKのように、その技術的優位性を追求し続けるメーカーによって、DCTはこれからも進化を続けることはまちがいなく、「速さ」を追求する限り、DCTの効率と技術力は自動車の未来において不可欠な選択肢であり続けるのかもしれません。

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参照:Jalopnik

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