
| 超高性能EV時代を築く「固体電池」の衝撃 |
この記事のハイライト:ブガッティが描くEVの未来図
- 衝撃の目標年: ブガッティは2030年を目処に、次世代モデルへ固体電池を搭載する計画を進行中
- 開発の牽引役: リマック傘下の「Rimac Technology」が中心となり、三菱(自動車ではない部門)やProLogiumと協力して開発を加速
- 圧倒的な性能: 試作段階の固体電池は、現行EVバッテリーより20〜30%高エネルギー密度、かつ27kg以上の軽量化を実現
- 戦略的利用: 固体電池は「高性能かつ少量生産」モデルに限定採用し、ブガッティのブランド価値とプレステージ性を高める狙い
- V16エンジンからの進化: W16からV16ハイブリッドの「トゥールビヨン」を経て、ブガッティは最終的にはフルEV化へ向かう
ハイパーカーの雄、ブガッティの次の「常識破壊」とは?
自動車業界全体が電動化へと舵を切る中、ブガッティのような超高性能車メーカーの動向が常に注目を集めていますが、そのブガッティは「V16」というとんでもないエンジンを積むトゥールビヨンを発売しており、業界の常識を覆したばかり。
そしてこのV16エンジンの開発には巨費が投じられており、よってブガッティはこのエンジンを使用し続けると考えられたものの、なんとトゥールビヨンの次世代となるモデル(あるいは追加モデル)は「ピュアEV」となる可能性があるもよう。
これはブガッティ・リマックCEO、メイト・リマック氏が「もはや富裕層はEVには関心がない」と発言したことを考え併せると驚くべき決断であり、その背景を見てみましょう。
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リマックテクノロジーが主導する固体電池革命
どうあがいても時代が「電動化」に傾くことは止められない
リマックは「1,000馬力」を発生するハイパーEV、コンセプト・ワンのリリースによって一躍その名を知られる存在となり、現在ではブガッティの株式の半分を取得して傘下に収め「ブガッティ・リマック」を設立済み。
そして「電動化の雄」であったメイト・リマック氏がトゥールビヨンに「V16」ガソリンエンジンを採用したことで多くの人々が度肝を抜かれたわけですが、その視線はすでに次のフルEVモデルに向けられており、その鍵を握るのが次世代バッテリー技術「固体電池(ソリッドステートバッテリー)」。
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この固体電池は「軽量でエネルギー密度が高い」ことから、ガソリン車を超えるパワーウエイトレシオを実現できる可能性が指摘されており、なにより軽量性が重視されるスポーツカーにおいては「ゲームチェンジャー」であると見られています。
その一方、実用化が非常に難しいことでも知られ、この実用化が(現時点で)困難であることから多くのスポーツカーメーカーは「ピュアエレクトリックスポーツ」の開発及び発売に対して及び腰となっているわけですね。
そしてこの状況を打破する可能性が高いとされるのが「ブガッティ・リマック」で、同社はこの新しいバッテリー技術をもって「再び」ハイパーカーの常識を塗り替え、超高性能EVの新しい頂点を築こうとしています。
リマックの技術部門が生み出す「ブガッティ品質」の電池
2022年にリマックがブガッティを買収し、「ブガッティ・リマック」が誕生したことで電動化への道筋が一気に明確になっていますが、その技術開発の中核を担うのがリマックからスピンアウトした専門部門「リマックテクノロジー(Rimac Technology)」。
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リマックテクノロジーは他社へのハイブリッドシステムやプラットフォーム供給も手掛けるほどの高い技術力を持ち、現在はブガッティにふさわしい「超高性能」な固体電池の開発を急ピッチで進めています。
なお、この固体電池はトヨタや日産も開発を進めており、もっとも実用化に近い位置にいるのはトヨタだと目され、実際にソリッドステートバッテリーを搭載するスポーツカーが「実現間近」というウワサも。
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そして先日発表された「レクサスLFAコンセプト」がソリッドステートバッテリーを搭載する第一号車になると見られているものの、リマックがそれに先んじる可能性が今回生じており、リマックテクノロジーのオペレーション責任者ヌルディン・ピタレビッチ氏によると、同社はすでにバッテリーセル開発のかなり深い段階に入っている、とのこと。
Image:Lexus
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固体電池開発体制(Rimac Technology主導)
| 役割 | 企業・協力先 |
| 固体電池セル開発 | ProLogium(プロロジウム) |
| 材料技術 | 三菱(自動車部門ではない素材専門部署) |
この協力体制により2030年に発表される予定の次期ブガッティへの搭載を目指しているとされますが、「2030年」に発表される新型ブガッティは(時期を考慮すると)トゥールビヨンの後継ではなく、「新たなるラインアップ」だと考えるのが妥当なのかもしれません。
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固体電池の驚異的な「軽量化」と「高密度化」
固体電池が「夢の技術」と呼ばれる最大の理由は、従来の液体系リチウムイオン電池(NMCセルなど)が抱える課題を根本的に解決できる点にあります。
| 特徴 | 従来のNMC電池 | Rimacの固体電池(試作) | 固体電池のメリット |
| エネルギー密度 | 基準値 | 20〜30%向上 | 航続距離の延長、または小型化が可能 |
| 重量 | 基準値 | 約27kg以上の軽量化 | 複合材ハウジングにより実現。ハイパーカーの運動性能向上に直結。 |
| 安全性 | 液体電解質(発火リスク) | 固体電解質(高い安全性) | 熱暴走リスクの低減 |
| 持続可能性 | リチウムを使用 | リチウムフリー化の可能性も | 低コスト化、環境負荷軽減 |
試作バッテリーは100kWの容量を持ち、同じ物理サイズでありながらエネルギー密度が大幅に向上。
超高性能車において、軽量化と高出力を両立できる固体電池は、まさにゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。
市場での位置付け:プレステージ性の担保
コスト高でも「少量・高性能」にこだわる戦略
ピタレビッチ氏は固体電池セルのコストが現在のNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)セルと同等になるのは2035年頃になると予測しており、ほかの自動車メーカーであればそのコストが大きな課題となるものの、ブガッティの顧客は「コストを気にしない」と考えられるため、ブガッティは技術以外にも「客層」に関する優位性を持つと考えられ・・・。
- 戦略的限定採用: 開発した固体電池は、大量生産の一般車には使わず、少量生産かつ超高性能なハイエンドモデルに限定して使用される
- ブランド価値の向上: コストが高くとも、最先端技術を独占的に採用することで、「プレステージ(威信)」を求める富裕層の顧客に対し、圧倒的な優位性と所有する喜びを提供する
むしろその「高性能だが高価格」という性質を利用した販売方法を採用し、最先端の技術を用いることでそのブランド価値を最大化することに焦点を当てているようですね。
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ブガッティを支える次世代電動技術
リマックテクノロジーは、固体電池だけでなく電動ドライブユニット「e-Axle(モーター、ギアボックス、制御電子機器を統合)」の開発も進めており・・・。
- e-Axleの進化: 従来のNeveraに近いパワー(約1,288馬力)を持ちながら、約70kgも軽量化したユニットや、スーツケースほどのサイズで500馬力を発揮するユニットなど、超高効率・超小型の電動パワートレインを開発中
これらの技術革新は、ブガッティが次のフルEVモデルで「トゥールビヨン」の1,800馬力をも超える、驚異的なパフォーマンスを達成するための土台となることが予想されます。
結論:ブガッティは超高性能EVの道を切り開く
ブガッティの固体電池開発へのコミットメントは、「W16エンジン / V16エンジンという内燃機関の頂点」から「電動ハイパーカーの頂点」へのブランドの移行を象徴するもの。
従来の技術や習慣に縛られず、「良いアイデアはすぐに試す」というリマックの革新的なカルチャーがこの最先端技術を大手自動車メーカーよりも早く市場に投入できる可能性を生み出しています(上述の通り「客層」、さらにはクルマの性質上、日常使いがなされないということも影響)。
ブガッティが2030年に固体電池を搭載したフルEVを送り出すことができれば、それは単に「ブガッティがEVになった」という話にとどまらず、「超高性能車は、安全かつ軽量で、圧倒的なエネルギー密度を持つ固体電池でなければ実現できない」という新たなスタンダードを世界に示すことになり、ブガッティは、自動車の常識を破壊する次世代EV時代の先駆者としても、その名を歴史に刻むこととなりそうです。
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参照:Autocar


















