
| 718ケイマン / ボクスターのEV化は「911のEV化」への試金石とも言えそうだ |
長期的視点だと「いずれにしてもポルシェは完全電動化へと向かう」
ポルシェは新CEOにマイケル・ライタース氏を迎え、同氏による新しい方針のもとで戦略を「仕切り直して」いる段階ですが、現時点ではいくつかの明確な変更が示唆されており、しかしその一方では「まだ明らかにされていない(あるいは決定していない)」方向性も存在します。
そしてそれらの一つが「911の将来」であり、しかし今回、その911の未来について一定の方向性が語られた、と報じられることに。
世界的なEV需要のパラダイムシフト(減速)のなかでポルシェが仕掛ける最新のスポーツカー戦略、そしてその舞台裏にあるリアルな課題について考えてみましょう。
この記事の要約(3秒でわかるポイント)
- 911のEV化を明確に否定: ポルシェは2030年まで「911」の完全電動化(BEV化)を行わず、内燃機関およびハイブリッド(T-Hybrid)を継続することを明言
- 718が最初の電動スポーツに: 次世代の718ケイマン/ボクスターがポルシェ初の「2ドアEVスポーツ」の役割を担い、ガソリン版と併売予定
- 市場の現実に合わせた軌道修正: 世界的なEV需要の減速を受け、マカンやカイエンを含めた全ラインナップでガソリン、ハイブリッド、EVを並行展開するマルチエナジー戦略を強化

まだまだ未来は流動的である
「ポルシェの魂である911だけは、最後までガソリンの匂いを残してほしい――。」
世界中の純粋主義者(ピュアリスト)たちが抱いていたこの切実な願いに対し、ポルシェから安堵の回答がもたらされたというのが今回の報道で、ポルシェは今回、カーメディアのインタビューに対してブランドのアイコンである「911」の完全電動化(BEV化)につき、少なくとも2030年までは計画にないことを正式に認めています。
ただし注意を要するのは、これが”ポルシェが電動化の手を緩める”という意味ではなく、やはり完全電動化に向けて動くということに(その速度がゆるくなるといえど)変わりはないということで、実際のところその実験と変革の役割を引き受ける「盾」となるモデルが存在していて、それが次期型「718ケイマン/ボクスター」。

つまるところ、次期型「718ケイマン/ボクスター」は予定通りEV化されるということになりますが、これはポルシェの意向というよりはアウディの動向を踏まえた「グループ全体の判断」によって進められるものなのかもしれません。
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ポルシェ911は「当面今の構成を維持」
ポルシェ・カーズ・オーストラリアのマネージングディレクター兼CEOであるダニエル・シュモリンガー(Daniel Schmollinger)氏は、現地メディア(CarSales)の取材に対し、スポーツカーセグメントにおける今後の電動化ロードマップについて次のように語っており・・・。
「私たちは、最初の2ドア電動スポーツカーとして『718エレクトリック』を展開します。911に関しては、当面の間は現在のポジション(内燃機関・ハイブリッド)を維持します。新型911(992.2世代)に導入された『T-Hybrid(Tハイブリッド)』テクノロジーは、巨大なバッテリーを積んで車重を増やすことなく、最先端の電動化技術を走りにどう活かせるかという、ポルシェ独自の可能性を示したものです」
―― ポルシェ・オーストラリア CEO ダニエル・シュモリンガー氏

Image:Porsche
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聖域としての911、実験場としての718
ポルシェは以前から、仮に他のラインナップがすべて電気自動車になったとしても、911だけは「最後まで内燃機関を搭載し続けるモデル」として述べており、その方針自体に変りはないものの、ポルシェ含む各自動車メーカーを取り巻く市場環境は大きく変化しています。
ポルシェにおいては、世界的なEV需要の伸び悩みを受け、ツッフェンハウゼン(ポルシェ本社)は当初掲げていた過激な電動化タイムラインのトーンダウンを余儀なくされ、その結果、バッテリーだけで走る「911 EV」の存在は、さらに遠い未来の仮定話へと押しやられることになり、さらには「EVオンリー」だったはずの718シリーズにも「ガソリエンジンを積むモデル(まだ詳細はわからない)が投入されることが決定したほか、やはりEVのみとなるはずだったマカンにもガソリンエンジンを搭載した後継モデルが急遽追加されることに。

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なお、新型911の「GTS」や「ターボS」に採用された「T-Hybrid」システムはモータースポーツ(F1やWEC)由来の技術であり、走りのパフォーマンスを爆発的に高めるための電動化であり、その一方で最高峰のピュアスポーツである「GT3 RS」などのGT系については今後もハイブリッド化すらしない内燃機関ソリューションが維持される見込みです(ただしターボ化はなされるかもしれない)。
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どうなる今後のポルシェの「電動化計画」
そこでポルシェの主要モデルにおけるパワートレイン戦略の現状と最新技術のスペックをまとめてみると以下の通り。
ポルシェ主要スポーツモデルのパワートレイン戦略(2026年最新版)
| モデル名 | 今後のパワートレイン方針 | 技術的特徴・スペック | 市場での役割 |
| 911(フラッグシップ) | 2030年まで純EV化はなし 内燃機関 & ハイブリッド | T-Hybridシステム ・新開発の電動ターボチャージャー搭載 ・超軽量駆動用バッテリー(重量増を最小限に抑制) | ブランドの聖域。 純粋なガソリンモデル(GT3 RS等)も並行して死守。 |
| 718 ケイマン / ボクスター | 初の2ドアEVスポーツとしてデビュー ※後にガソリン/ハイブリッド版の併売・復活の噂あり | 専用開発のミッドシップEVプラットフォーム ・バッテリーを座席後方に配置し、伝統のミッドシップ特有の重量配分(ゴーカートフィーリング)を再現。 | ポルシェのEVスポーツの開拓者。 開発プロトタイプはすでに走行段階。 |
| マカン(SUV) | 新型マカンEVへの移行 ※ガソリン版マカンは生産終了 | 100%電気自動車(BEV) ・PPEプラットフォーム採用 ・超急速充電対応 | SUVセグメントの電動化を牽引するが、顧客の意識改革という壁に直面中。 |
| マカン後継モデル | アウディとの共同開発によって2028年に登場予定 | Q5のプラットフォームを利用しハイブリッドとして登場 | 実質的なガソリン版マカンの後継モデル。※ただしマカンの名は継続しない |
| 新型SUV(K1) | EV専売予定だったものの、急遽ハイブリッド版を追加予定 | 電動車専用プラットフォームを「ハイブリッド用」として再構築 | 7人乗りパッケージングを採用し、メルセデス・ベンツやBMWに奪われていた客層を取り戻す。 |
「マカンEV」が直面している市場のリアルな課題
さらにシュモリンガーCEOは、同社初の本格量産エレクトリックSUVである「マカンEV」の初期の販売ボリュームが”モデル末期の先代ガソリン版マカンの勢いに及んでいない”という冷酷な事実を認めており、ドイツ本国でのガソリン版マカンの生産終了に備え、ポルシェは特定の市場需要を満たすために在庫の備蓄に走っているのが現状です。
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しかし同氏はこれがマカンEVという「製品自体の問題」ではなく、「消費者の受け入れ態勢(準備)の問題」であると分析しており、「機が熟せば」マカンEVにもチャンスがあると考えているようですね(たしかにそのとおりだと思う)。
「これはクルマに対する拒絶ではなく、電気自動車を受け入れる準備がまだ整っていないという市場の判断です。それは全く問題ありません。誰もが自分が快適だと感じられる技術とクルマを選ぶべきなのです」

リスクヘッジとしての「全方位(マルチエナジー)戦略」
この市場の躊躇に対するポルシェの回答は、「すべての選択肢を提供する」というリスクヘッジ戦略で、たとえば、主力SUVの「カイエン」は現在、純ガソリン、プラグインハイブリッド(PHEV)、そして純EVのすべてのパワートレインを揃えて販売されており、さらにマカン後継モデルとしてはEVと並行して販売できる新しいハイブリッドモデルの開発進行中。
市場がEVへと向かうのか、あるいはハイブリッドに留まるのか、どちらに転んでもブランドが生き残れるよう、全方位のポートフォリオを構築しているというわけですね。
さらには718シリーズの電動化によって「来たるべき911のフル電動化」に備えデータを取得するという意味もありそうで、これまでの「電動化一本」を維持しつつ、多様な選択肢を提示することで世の中の変化にも対応し、あらゆる未来に備えているということなりそうです。
結論
ポルシェが911のEV化を拒み、718をEVの先陣に立たせたというニュースは、一見すると「エントリーモデルが実験台にされた」ようにも見えるかもしれませんが、しかしここには非常に興味深い「もう一つの真実」が隠されていて、それは「コンパクトな2ドアミッドシップの骨格こそが、EVになってもポルシェらしい走りを最も再現しやすい」という技術的な計算です。
大容量の重いバッテリーを床下一面に敷き詰める一般的なEVセダンやSUVとは異なり、次期718EVは、かつてエンジンがあった座席の後ろ(ミッドシップ位置)にバッテリーを集中搭載する”チェスト型”パッケージを採用していて、これによってポルシェ特有の「低いシートポジション」と「ノーズが軽快に回るミッドシップならではのゴーカート感覚」を”重量増のハンデを克服しながらも”実現できるということに。

実際にプロトタイプをサーキットで走らせたシュモリンガーCEOも、「驚くほど軽く、俊敏で、ポルシェの2シーターに求めるダイナミクスがすべて詰まっている」と太鼓判を押しており、ポルシェは911というヘリテージ(伝統)をT-Hybridや合成燃料(e-Fuels)の開発によって守り抜く一方、718を使って「電気がもたらす新しい次元の走りの歓び」を証明しようとしている、というのが今回の決定の真意なのかもしれません。
ぼくらが愛してやまない「ツッフェンハウゼンのエンジニアリングへの執念」は、ガソリンだろうが電気だろうが決してブレることはなく、伝統のフラット6の咆哮に耳を傾けつつ、彼らが創り出す未来の電動スポーツカーがどれほど刺激的なものになるのか、今はその両方のディテールを楽しみに待ちたいと思います。
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参照:CarSales











