
| エジプト好きであればこのイベントのためだけにでも香港を訪れる価値はある |
ここまでの内容の展示には驚かされるが、「ただ展示するだけではない」楽しい仕掛けも満載である
さて、香港故宮文化博物館(Hong Kong Palace Museum)にて開催されている古代エジプト展に行ってきたのでその内容について触れてみたいと思います。
この展覧会は香港で開催される古代エジプト関連の展示としては過去最大規模かつ最長期間にわたる非常に注目の特別展で、展覧会名は「古代エジプトの真実:エジプト博物館の至宝」 (英語名:Ancient Egypt Unveiled: Treasures from Egyptian Museums)。
会期と会場
- 会期: 2025年11月20日(木)~ 2026年8月31日(月)
- 会場: 香港故宮文化博物館 展示室9(Gallery 9)
- 休館日: 毎週火曜日(祝日を除く)

展示の見どころ
カイロのエジプト博物館をはじめとする、エジプト国内の7つの主要博物館およびサッカラ遺跡から集められた250点以上の貴重な遺物が一堂に会しており、その多くが「エジプト国外で初公開される」という非常に学術的価値の高いもの。
展示は以下の4つのテーマに分かれており、約5000年にわたる古代エジプト文明の歴史、政治、芸術、日常生活、宗教を網羅しています。
- ファラオの土地(The Land of Pharaohs): 神聖なる王権や社会構造
- ツタンカーメンの世界(The World of Tutankhamun): ツタンカーメンの血統とその時代(大型のツタンカーメン像など)
- サッカラの秘密(The Secrets of Saqqara): 近年の考古学的発見やミイラ棺、聖獣信仰
- 古代エジプトと世界(Ancient Egypt and the World): 世界との文化的交流や考古学の歴史
また、プロジェクションマッピングなどの最新マルチメディア技術を駆使して巨像の元の姿を仮想再現するインスタレーション、そして自分の名前を古代エジプトのヒエログリフ(象形文字)に変換できるインタラクティブな体験型デバイスも導入されており、博物館「全館あげて」楽しめるよう、館内のあちこちに様々な展示がなされているのもこの展示イベントの特徴でもありますね。

観覧チケット情報
エジプト展(展示室9)を鑑賞するには、「特別展チケット」または「フルアクセスパス」の購入が必要で、常設展(展示室1〜7)のみのチケットでは入場できないため要注意(ほかの1〜7ではメトロポリタン博物館など別の展示が行われている)。
- 特別展チケット(展示室1~7、および9)
- 一般料金: 190香港ドル~(購入日や時間帯等により若干異なる)
- ※「午前セッション(10:00〜14:00)」と「午後セッション(14:00〜閉館)」で分かれている通常チケットのほか、指定月内ならいつでも1回入場できるフレックスチケット(220香港ドル)も。
- フルアクセスパス(展示室1~9すべて)
- 一般料金: 250香港ドル(展示室8で開催中のニューヨーク・メトロポリタン美術館のジュエリー特別展も併せて鑑賞可能)
ちなみにこのエジプト展は香港の地下鉄(MTR)が協賛しており、よってMTRのいくつかの駅には「ファラオ猫」の展示があって、駅によってそれぞれ異なる仕様を持っています(左側はMTRのキャラクターで、ツタンカーメン仕様ににあっている)。
そのほか香港を走るバスにもファラオ猫のラッピングが施されるなど、現地でもかなり大きな盛り上がりを見せています。

博物館の基本情報・アクセス
- 開館時間:
- 月・水・木・日:10:00~18:00
- 金・土・祝日:10:00~20:00
- (チケット販売は閉館の1時間前まで)
- アクセス:
- MTR九龍(Kowloon)駅のE4またはE5出口から徒歩約15分
- または、MTR柯士甸(Austin)駅のD2出口から、西九文化区を巡回する無料バス(West Kowloon Circular Bus)の利用が便利
- セントラル(中環)から1時間に1本程度の間隔でフェリーも運行中
非常に人気の高い展覧会のため、週末や祝日は混雑が予想され、訪問の際は香港故宮文化博物館の公式サイト、またはKlookやTrip.comなどの公式提携プラットフォームを通じて事前に日時指定チケットを予約すると良いかと思います。
ちなみに館内から展示室へ行くルートは非常にわかりにくく、ぼくとしては係員に聞くことを強くオススメ(探しても見つかりにくい)。

「古代エジプトの真実:エジプト博物館の至宝」ではこんな展示がなされている
そこで館内の展示物について紹介したいと思いますが、とてもここですべて紹介できるものではなく、「さわり」のみ。
一応ですが全展示物の写真を撮ってきたので、興味のある人はFlickrのアルバム「古代エジプトの真実:エジプト博物館の至宝」を参照してもらえればと思います(他の展示室で撮影した写真も一緒に保存している:280枚)。

なお、展示物の多くは非常に「近い」距離に置かれており、いくつかはレプリカではあるものの、「触ることができる(ただし触ってはならない)」距離にあって、これは日本だと考えられない展示方法。
加えて厳しく入場制限がなされているせいか、かなり落ち着いてゆっくりと見ることが可能です。

こうやって見ると「教科書に出てきたやつ」がたくさんあって、なんとなく親近感を覚えますね。

こちらは「スカラベ」。

古代エジプトにおいて、スカラベ(タマオシコガネ/フンコロガシ)は崇拝に対象であり、その理由はスカラベのフン(糞)の球を転がす習性に起因するのだそう。
エジプト人は、スカラベが後ろ足で懸命にフンの球を転がす姿を見て、「太陽が東から昇り、天空を渡っていく姿」を連想し、ここから日の出を司る神「ケプリ(Khepri)」が誕生することに(ケプリ神は、頭部がスカラベそのものの姿、あるいはスカラベの頭を持つ人間の姿で描かれ、毎日太陽を押し上げて朝を連れてくる役割を持つと信じられた)。
加えて、スカラベはフンの球の中に卵を産み付け、孵化した幼虫はそのフンを食べて育ち、やがて地面から成虫となって出てくるのですが、これを見た古代エジプト人は、「スカラベは親がいなくとも、フンの球(無)から突如として自らを生み出す聖なる生物だ」と誤解してしまい、ここから彼らは「自生(みずから生まれること)」、そして死んだ後に再び生き返る「再生・不死」の強力なシンボルとして捉えるようになったわけですね。
なお、ぼくらカーガイとして知っておくべきは、「アストンマーティンのウイングエンブレム」は鳥ではなくこのスカラベから生まれたということ。
たしかに展示品のうち、右側はアストンマーティンのエンブレムに似ているようにも思えます。

そしてこちらは「ホルスの目(ウジャトの目)」で、その象徴は「欠けたものが戻る”治癒・完全性”」。
参考までに、この反対側を向いている目は「ラーの目(Eye of Ra)」として知られていて、古代エジプト神話における最高神であり太陽神である「ラー」の「右目」とされる聖なるシンボルです。
神話において、ラーの眼はラーの命令によって体から離れ、自ら動くことができるとされ、その本質は「太陽の圧倒的な熱量と破壊力」であり、ラーに仇なす敵や、神を敬わなくなった人類を容赦なく焼き尽くす殺戮の武器として描かれます(反対側のホルスの目の役割がラーの目とは対象的である)。

もう一つ参考までに、ランボルギーニ・ウラカンのサイドウインドウはこの「ラーの眼」がモチーフであることがデザイナーのフィリッポ・ペリーニ氏によって明かされていますね。※反対側はホルスの目ということになるのかもしれず、ウラカンは右側で「破壊」、左側で「治癒」を象徴するというとになりそうだ

エジプトと言えばミイラである
そしてエジプトと言えば「ミイラ」ですが、ミイラと棺は大量に展示され・・・。

様々な棺、「ミイラ棺(かん)」や「人型棺(ひとがたかん)」が展示され・・・。

こちらは”こけし”のように見えるもの、ミイラを作る際に「人体から抜いた」臓器を入れる壺。
なお会場には「ミイラの作り方」がアニメーションにて詳しく解説されており、「よくこんな複雑な手順を確立したな」と感心させられます。

こちらは猫さんのミイラ(本当に蘇りそうな生命感もある)。

とにかくこのミイラ展示スペース、「サッカラの秘密」はこのイベントのハイライトともいうべき内容だと思います。

古代エジプトの芸術レベルはハンパない
そして驚かされるのが古代エジプトの「芸術性」。
この彫像(ツタンカーメン)などはとんでもないレベルの妖艶さを持っており、ある種の生々しさすら感じますね。

こちらも同様で、鼻や頬、唇、耳あたりは「まるで生きているかのよう」。

そしてこの技術を考慮するならば、このモデル(ツタンカーメンの父)はたぶん本当にこんな顔だったのだと思われます(ツタンカーメンは母に似たのであろう)。

そして「動物と人との合体」は非常に多く、そしてこれは様々な神話や宗教に見られる特徴でもありますね。

これはなんとなく「両手の親指を立てて”オッシャ!”」的なポーズ。※古代エジプトにもガッツポーズがあったのだろうか

こちらは生物同士(ハヤブサとワニ)の「合体」。
ハヤブサはエジプト神話で最も重要な王権の守護神「ホルス(Horus)」の象徴でもあり、その理由は「遥か上空から地上を見下ろすその姿を見て「太陽や天空そのものを司る存在だと考えられたから」「目の良さがすべてを見通す全知全能の象徴とされたから」。
一方でワニは獰猛なナイルの支配者「セベク(Sobek)」として恐れられ、同時に崇められたことでも知られますが、その理由は「ワニが活発に活動し始める時期がちょうどナイル川の氾濫と重なり、ワニが現れるのは川が豊かな恵みを運んできた証拠である」として豊穣と肥沃の象徴だと考えられたから。

そしておなじみ「アヌビス神」。
アヌビス神(Anubis)は、古代エジプト神話に登場する「冥界(死後の世界)の神」であり、エジプトの神々の中でも特に古くから信仰されていた、最も知名度の高い神の一人です(映画「スターゲイト」にも出てくる)。
最大の特徴は、「ジャッカル(または野生の犬)の頭を持つ、黒い肌の人間の姿」、あるいは「黒いジャッカルそのものの姿」で表される点で、古代エジプトにおいて、ジャッカルや野犬は、墓地のある砂漠をうろつき、埋葬された遺体を掘り起こして食べてしまう恐ろしい存在であったといい、 そこで人々は、「その恐ろしいジャッカルを逆に神として崇め、味方にすることで、お墓や死者を守ってもらおう」と考えたのだそう。※排除せずに迎え入れるという姿勢が素晴らしい

エジプトと言えば「猫」である
そしてファラオ猫がキャラクターとして設定されるほどに古代エジプトで神聖視されたのが「猫」。
猫が神聖視された理由は「かわいいから」だけではなく、猫の持つ高い身体能力や習性が当時の人々の死活問題(実利)を解決し、それがやがて宗教的な信仰(神格化)へと結びついたからで、大きく分けると3つの理由があるとされています。
1. 実利的な理由:国を救う「最強の益獣」
古代エジプトの富の源泉はナイル川の恵みによる「莫大な穀物」で、しか、貯蔵した穀物を食い荒らすネズミなどの害獣、そして人命を脅かす毒蛇やサソリの存在が社会的な問題になっていたといい、そこへ現れたのが救世主たる猫(リビアヤマネコを家畜化したもの)。
猫は驚異的なハンティング技術でネズミを駆除し、毒蛇やサソリすらも素早く仕留めてくれたため、エジプト人にとって猫は、「自分たちの食糧(財産)と命を守ってくれる神」のような存在であったわけですね。

2. 宗教的な理由:女神「バステト」の誕生
実利的な感謝はやがて信仰へと昇華し、猫の頭を持つ有名な女神「バステト(Bastet)」が誕生するのですが、バステトはもともと、ライオンの頭を持つ凶暴な破壊の女神(セクメト)と同起源であったものの、時代とともに、猫の持つ「しなやかさ」「子煩悩さ」が強調され、家庭の守護神、多産・安産、そして病気から身を守る優しい女神として絶大な人気を誇るように。
3. 法的な保護:人間以上の特権
エジプト末期王朝時代(紀元前600年頃以降)になると、猫への崇拝はピークに達し、法律や社会習慣としても完全に特別扱いされるようになります。
- 猫を殺すと死刑: たとえ過失(事故)であっても、猫を死なせた者は死刑に処されることがあったらしい
- 家族が喪に服す: 飼い猫が死ぬと、飼い主の家族は全員、深い悲しみを表すために「自分の眉毛を剃る」という儀式を行った
- ミイラにして埋葬: 死んだ猫は人間と同じように丁寧に防腐処理(ミイラ化)され、バステトの聖地であるブバスティスなどの専用の墓地に丁重に埋葬された(何百万体もの猫のミイラが出土しており、上で紹介したものもそれらのうちのいくつかの例である)。

なお、いずれの像も「姿勢正しく」座っており、箱座りや寝そべっている姿がないのが印象的。
つまるところ、古代エジプトの人々にとって、猫とは「癒し」を与えてくれる存在ではなく、神々しい存在であったのでしょうね。
Life in the FAST LANE.
戦争の敗因になったという逸話も
紀元前525年、ペルシャ帝国がエジプトに侵攻した際(ペルシウムの戦い)、ペルシャ軍は「エジプト人は猫を絶対に攻撃しない」という弱点を突き、兵士の盾に猫を描いたり、最前列に本物の猫を配置して進軍したと言われていて、エジプト軍は神聖な猫を傷つけることを恐れて一切反撃できず、そのまま敗北したという驚くべき歴史的記録が残っています。
実用的な害獣駆除から始まり、最終的には国家の命運をも左右するほど神聖視されたのが古代エジプトにおける「猫」という存在であったわけですね。
古代エジプトの真実:エジプト博物館の至宝:そのほかにはこんな展示も
そして今回の展示には実に様々なものが展示され、こちらはかつてエジプトの人々が食べていたという「三角パン」。

ちなみに彫像は「アジア人っぽいもの」「西洋人っぽいもの」も多数あり、多様な文化との交流があったことを伺わせます(会場にはエジプトと他の文明との比較年表もあり、大変勉強になる)。

様々な石板も展示され「文字」のほか「図」が示されているもの、そして「3つの言語」で彫られていることで「異文化との交流があったこと」を伺わせるものも。

そして様々な文明の「文字の起源」、そのほか文化の比較も示されていて、「古代エジプト」のみではなく、他文明との関わりや差異についても学ぶことができるという「なんとも知的好奇心を刺激する」のがこの展示であったと思います。

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