
| メルセデス・ベンツにここまでの体力が残っていたとは |
高価格・高収益のハイパフォーマンスカーセグメントにおいて覇権を取らねば「収益源」を失うことに
メルセデス・ベンツが昨年、「2027年末までに30の新型モデルを投入する」という極めてアグレッシブなリリース計画を発表したことは記憶に新しく、しかし今回、ハイパフォーマンス部門である「メルセデスAMG」が本家に匹敵するスピードと規模をもって独自のニューモデル攻勢を仕掛けることが明らかに。
自動車業界の電動化シフトのペースが鈍化し、多くのメーカーが戦略の修正を迫られる2026年現在ではありますが、メルセデスAMGはガソリンエンジン(ICE)の火を消さないばかりか、最新の電動技術(EV)をも最高峰のレベルで融合させる「パワートレイン・ニュートラル(中立)」という賢明かつ極めてエキサイティングな狂気のロードマップを突き進むことになると報じられ、ここでその内容を見てみたいと思います。
この記事の要点
- 異次元の新型車ラッシュ: メルセデスAMGは今後36ヶ月(3年)の間に、27車種以上のニューモデルを市場に投入する極めて野心的な計画を明かすことに
- 平均「2ヶ月に1台以上」のペース: 直近で発表された新型「GLE 63 S」および「GLS 63」に続き、今後残り25モデル以上のデビューが控えている計算
- 販売目標20万台への布石: 昨年の世界販売台数14万台から、2020年代末までに年間20万台への拡大を目指すための核心的な製品攻勢
- パワートレインは「中立」を維持: 市場の動向を見極め、EVに全振りするのではなく、新開発のV8および直列6気筒ガソリンエンジンを同時並行で開発・継続する
- 限定「Mythos」から超高性能EV・SUVまで: 世界限定30台のハイエンドモデル(CLEブラックシリーズと目される)や、独自プラットフォームを用いたGT4ドア並みの超高性能電動SUVなどを画策

Image:Mercedes-Benz
-
-
これぞ本命。メルセデスAMG新型「GLE 63 S クーペ」「GLS 63」がV8エンジンの圧倒的パワーで復活、ファン感涙の“脱・4気筒PHEV”V8マッスルの真価とは
Image:Mercedes-Benz | ただしオフィシャルフォトの雰囲気とアクセントカラーがBMW風に | メルセデスAMGの「迷走」が見えなくもない 「メルセデスAMGから大排気量V8エンジンが ...
続きを見る
「36ヶ月で27車種以上」トップが明かした驚異のハイペース
この驚くべき計画を明かしたのは、メルセデス・ベンツの取締役会メンバーであり、生産・品質・サプライチェーン管理を統括するミハエル・シーベ(Michael Schiebe)氏。
同氏はかつてメルセデスAMGのCEO(最高経営責任者)を務めていた人物であり、今回の発言はAMGの未来を誰よりも熟知する人物からの公式なメッセージであるとも考えられ、シーベ氏は米ブルームバーグのビジネス番組「Open Position!」に出演した際、以下のように明言することに。
「私たちはこれからの36ヶ月間で、メルセデスAMGブランドだけで27車種以上のニューモデルを市場に投入する予定です」
これは計算すると、平均して2ヶ月に1台以上のペースでAMGの新型車が誕生し続けるという前代未聞の過密スケジュールであり、直近数週間で発表された新型「GLE 63 S」や「GLS 63」といった大型SUVの刷新は、この巨大な波のほんの序章に過ぎず、ぼくらの前にはまだ25車種以上もの興奮が待ち受けているというわけですね。

Image:Mercedes-Benz
目標は年間20万台。市場の需要へ柔軟に応える「全方位」の強み
これほどの猛攻を仕掛ける背景にはメルセデスAMGの明確なグローバル成長戦略があり、AMGの昨年の販売実績はプレミアムカーの聖地であるアメリカで約5万台、世界全体では約14万台を記録しているのですが、同社は2030年までにこの数字を年間20万台規模へと引き上げる計画を持っている、とも伝えられます。
そしてその鍵を握るのがパワートレインをどれか一つに絞らない「中立(ニュートラル)姿勢」であり、シーベ氏はインタビュー内で「私たちは電気自動車(EV)と内燃機関(ガソリン車)の両方を開発していく。どちらを選ぶかは、お客様自身が決めることだ」ともコメントしています。
AMG次世代モデルのパワートレイン&主要ラインナップ予測
近年の自動車市場、特にエンスージアスト(熱狂的なクルマ好き)の領域では、ピュアEVへの急速な移行に対しての懐疑的な声が根強く残っていて、例えばポルシェは早期にEVへ大きく舵を切ったものの、開発コストの高騰と市場の反応の鈍さから直近では苦戦を強いられているという現状も。
一方、メルセデスAMGは市場の声を冷静に分析し、ユーザーが本当に望むものを提供するというスタンスを構築するという構えを見せており、これはメルセデス・ベンツがEV販売で苦戦し、メルセデスAMG自信も4気筒ターボの販売不振によって痛手を被ったからなのかもしれません(高い授業料ではあったが、学びはあった)。
-
-
【公式発表】4気筒版メルセデスAMG C63がついに廃止、短命に終わる。後継モデルは「直6」へと回帰、ファンの声が動かした「苦渋の決断」とは
Image:Mercedes-Benz | C63に搭載される4気筒エンジンは巨額の開発費を投じた「超ハイテクエンジン」ではあったが | メルセデスAMGの象徴でありながら現行モデルでの「4気筒ハイブ ...
続きを見る
そこで今後登場する27車種以上のラインナップは大きく「内燃機関(ガソリン・ハイブリッド)」と「ピュアEV」の2つの柱に分かれるといい、現在判明している情報と市場でのポジショニングをまとめてみると以下の通り。
| パワートレイン / カテゴリ | 搭載エンジン・技術 | 主な該当・登場予測モデル | 市場での位置付け・特徴 |
| 次世代 V8エンジン | 新開発ハイパワーV8 (クロスプレーン) | 「Mythos(ミトス)」限定車 (CLEベースのブラックシリーズか?) | 世界限定わずか30台。 現在展開中のフラットプレーンV8とは異なる、伝統の重厚なビートと超高出力を誇るコレクターズモデル。 |
| 新開発 直列6気筒 | 最新世代マイルドマイルドハイブリッド直6 | 次世代セダン、ミドルサイズSUV各車 | BMW「M」やポルシェの水平対向6気筒に対抗。日常の洗練性と、AMGらしい圧倒的な吹け上がりを両立。 |
| 超高性能ピュアEV (SUV) | AMG専用EVプラットフォーム | ハイエンド電動SUV(2セグメント展開) | 「AMG GT 4ドアクーペ」のEV版に匹敵するパフォーマンスを持つ超弩級SUV。ポルシェ・タイカンやロータス・エレトレへの刺客。 |
| コンパクト・パフォーマンス | 電動4気筒 / 疑似V8サウンドシステム | 新型「CLAワゴン」およびセダンEV | 若年層や都市部向けの次世代AMG。EVでありながら、レーストラック対応の足回りと、かつてのV8を彷彿とさせる官能的な擬似サウンドを搭載。 |
-
-
メルセデスAMGが1,000馬力超の「クーペSUV」も開発中?「セダン、SUV、クーペSUV」というハイパーEV軍団の結成へ
| メルセデスAMGは電動化を「継続」?この分野でのリーダーを目指す | メルセデスAMGが、そのブランドの歴史を塗り替える「1,000馬力超」の完全自社開発電動SUVの計画を加速させていることが明ら ...
続きを見る

メルセデス・ベンツ、そしてAMGが「疑似V8サウンド」や「エンジン多様性」にこだわる理由
現代の自動車産業(とくにプレミアムセグメント)において、そのトレンドやユーザーの関心は「単なるスペックの優劣」から「エモーショナルな体験(エモーション・ラグジュアリー)」へと移行して、それはメルセデス・ベンツが新型CLAのEVモデルに「フェイク(擬似)V8サウンド」のギミックを搭載したり、わざわざ多額の投資を行って新型のガソリンV12エンジンに関する特許(昨年12月に発覚)を出願したりしているのは、彼らが「AMGというブランドが買われている理由」を正確に理解しているからにほかなりません。
-
-
メルセデス・ベンツが新型CLAをついに発表、前後ランプ内には立体の「スリーポインテッドスター」、グリル内にも142個の”光る”星が内装される
Mercedes-Benz | 全体的なデザインは「EQっぽく」、目新しさが感じられないのが残念である | ティーザーキャンペーン期間が長かったためか、斬新さが失われた可能性も さて、メルセデス・ベン ...
続きを見る
1. 機械としての「不完全さ」がもたらす価値
EVは静かで、速く、効率的で、しかし同時に効率の良さは時として「退屈さ」と表裏一体になることも。
AMGの歴史は、大排気量エンジンがもたらす地鳴りのようなエキゾーストノート、そしてドライバーの五感を刺激する荒々しいパワーデリバリーによって築かれてきたことも間違いなく、たとえデジタルネイティブな次世代の顧客であっても、彼らがメルセデスAMGに求めるのは「移動の道具」ではなく「アドレナリン」なのだとも考えられます。※EVモデルに高度なサウンドトラックや、Gフォースを擬似的に演出するシステムを盛り込むこと自体、メルセデスAMGがその必要性を理解しているということになる
2. リスクヘッジとしての「マルチ・パスウェイ」
現在、プレミアムカー市場では「EVの成長スピードの鈍化」が世界的なニュースとなっています。
メルセデスAMGのように14万台から20万台へとビジネスを拡大するフェーズにおいて、一つの技術(例えばEVのみ)に全てを賭けることは企業として巨大なリスクを伴うということを意味しており、さらにはポルシェのように「中国製EVにシェアを食われてしまう」可能性を考えるならば、なおのことEVではなく「得意分野」であるガソリンエンジンに注力するほうが得策であるとも考えられます。
そして「ガソリン、ハイブリッド、EV」というこの3つの選択肢を同時に、しかもすべて最高峰のクオリティで提供できる開発力とサプライチェーンを持つこと自体が、他社に対するメルセデスAMGの圧倒的な競争優位性となると判断しての「今回の新製品ラッシュ」なのかもしれません。

結論
メルセデスAMGが打ち出した「3年で27車種」というニューモデル計画は、単なる数字の誇示ではなく、激動の自動車界を生き抜くための緻密に計算された「王者の戦略」です。
世界限定30台の神話的なV8モンスターから、最先端のテクノロジーを詰め込んだ次世代の電動CLAのAMGバージョン、そしてポルシェを追撃する超高性能EV・SUVまで、その守備範囲の広さは他の追随を許さないもの。
ガソリンエンジンの官能性を愛するオールドファンに対しても、エレクトリックパワーの暴力的な加速に未来を見出すガジェット好きに対しても、すべてのスピードフリークに対して「最適な答え」が用意されている。それこそがメルセデスAMGがこれから見せる未来の姿ということに。
これから2020年代の終わりに向け、ぼくらは数ヶ月おきにアファルターバッハ(AMGの本拠地)から届けられる驚きと興奮のパフォーマンスに立ち会うことになりますが、次は一体どんな怪物がベールを脱ぐのか。メルセデスAMGが仕掛けるこの「美しき狂気」のラッシュから、一瞬たりとも目が離せそうにない、というのが現在の状況でもありますね。

なお、ちょっと気になるのはメルセデスAMGの「デザインの方向性」。
これまでのメルセデス・ベンツ、そしてAMGはデザインに関する評判が芳しいとはいえず、そのためか長年デザインを牽引してきたゴードン・ワグナー氏が「電撃辞任」とするというショッキングな事件も発生していますが、一方のBMW「ノイエクラッセ」シリーズの評判はすこぶる良く、まず販売を伸ばすのであれば「デザイン」の改革から始めたほうがいいのかもしれません(すでに後任デザイナーによって着手されているかとは思うが)。
-
-
メルセデス・ベンツの「顔」が消える?28年間同社のデザインを牽引したデザイナー、ゴードン・ワグナー氏が電撃退任、一つの時代が終わる
| ゴードン・ワグナー氏の「28年の功績」と次世代への影響とは | この記事を5秒で理解できる要約 ニュース: メルセデス・ベンツの最高デザイン責任者(CDO)ゴードン・ワグナー氏が2026年1月31 ...
続きを見る
合わせて読みたい、メルセデス・ベンツ関連投稿
-
-
メルセデスAMGがついに「ええ、C63の4気筒化によっていくばくかの顧客を失いました」と認める。優れたパワートレーンが顧客に認められないのはフェラーリ同様か
| メルセデスAMG C63に積まれる4気筒+プラグインハイブリッドはF1直系の素晴らしいユニットである | フェラーリF80同様、ダウンサイジングがなかなか顧客に受け入れられないのが難点である さて ...
続きを見る
-
-
メルセデスAMGは「今まで誰も成功しなかった」ハイパフォーマンスEVをどうやって売るつもりなのか?V8に依存しない、1153馬力の怪物EV販売の「攻略法」とは
Image:Mercedes-Benz | メルセデスAMGのCEOが「どうやって顧客を納得させるのか」について語る | 正直、かなり苦しい戦いになるのは間違いないが、成功すれば「唯一の勝者」である ...
続きを見る
-
-
「10年出すのが早すぎました・・・」メルセデス・ベンツのデザイナーが語るEQシリーズの頂点「EQS」が不人気だった理由とは?未来感とマーケティングの誤算
| 美しさは見る者次第?メルセデスEQSの“風変わりな”デザインとは | メルセデス・ベンツがEQシリーズで得た教訓と今後の戦略 メルセデス・ベンツのEVラインアップにおけるフラッグシップ「EQS」は ...
続きを見る
参照:Bloomberg,











