| ただでさえ希少なマスタング・シェルビーGT350、そしてワンオーナーで低走行という貴重な個体 |
予想落札価格は最高で4500万円だが、もっと高い値がついてもおかしくはない
さて、非常に希少なフォード・マスタング・シェルビーGT350(シャシーナンバーNo.6S2045)がメカム・オークション主催の競売に登場予定。
この個体は1966年に新車にて購入されてからずっとワンオーナーのまま過ごし、走行距離ははわずか29,431マイル(47,364km)、そして「ほぼ」オリジナルの状態を保っているという理由からコレクターが黙っているはずはなく、おそらくは入札が殺到し、そのため予想落札価格は4500万円を超えるのでは、と見られています。
このマスタング・シェルビーGT350のオーナーはジョン・P・ゼガート氏なる人物で、同氏は1966年にこのクルマを、ニューヨークのシラキュースにあるレイノルズモータース経由にて新車として購入しています。
その後もマスタング・シェルビーGT350を大切に扱う
そしてジョン・P・ゼガート氏はその出力を500馬力以上に引き上げるためにパクストン製のスーパーチャージャーをインストールすることになりますが(これはシェルビーの純正オプションであったようだ)、その際にパクストンの広報によってドライブされ、シェルビー289コブラよりも速く走ったという記録も残っているのだそう。
ただ、そこからちょっとした問題が発生し、というのも1970年代に入ってすぐ、ニューヨーク州政府がプレミアムガソリンの使用を禁止したためで、これによってオクタン価87以下のガソリンしか使用できなくなり、そのためパクストン製スーパーチャージャーを搭載したスモールブロックV8エンジンは(高圧縮に起因して)デトネーションによるダメージを受けやすいことが判明します。
そしてこのダメージを防ぐため、ジョン・P・ザガート氏は圧縮比を下げるために燃焼室を研磨して容積を拡大し、ステンレス製の1.9インチ吸気バルブと1.6インチ排気バルブを取り付けて圧縮比を10.3:1から9.25:1にまで下げ、さらにはB&Mスーパーストリートカムシャフトとレーシングハイドロリックリフターを装着することで出力低下を防ぎ、491HPという高出力を保ったと紹介されています(さすがはエンジニア)。
しかし同氏はこのマスタング・シェルビーGT350を可能な限りオリジナルの状態に保ちたいとも考えており、スモールブロックV8本体、4速マニュアル・トランスミッション、ドライブシャフト、デトロイトロッカー付きディファレンシャル、ホーリー750CFM4バレルキャブレター、インテークマニホールド、スターター、イグニッションコイル、オルタネーター、ボルテージレギュレーターなどはオリジナルの純正部品のままなのだそう。
そして加工を行ったエンジンヘッドについてもオリジナルのパーツは別途残されているそうで、このほかエキゾーストマニホールドやラジエターシュラウドなど、交換を行ったパーツもやはり「純正パーツはしっかり残されている」ようですね。※あくまでのオリジナルの設計を尊重し、安全な範囲でアップグレードを行いたいと考える人のようだ
こういった人なのでシャーシもオリジナル状態を保っており、ケルシー・ヘイズ製フロント・ディスクブレーキ、フォード・ギャラクシー製リア・ドラムブレーキ、シャーシ・ブッシュ類、ウィンドシールドワイパーモーターとリザーバー、シートとカーペット、すべてのガラス、インテリアとエクステリアの照明、ラジオ、すべての計器類(スーパーチャージャーと一緒に取り付けられたパクストン真空圧計と燃圧計を含む)もオリジナルのまま。
さらにはレイノルズモータースの販売請求書と621ドル値引き後の4,264ドルの領収書や取扱説明書、納車前サービスシートのコピーやパクストン製スーパーチャージャー搭載に関するシェルビーの構想、仕様、生産、走行性能について詳述した1966年7月のCar Life誌の記事も保管されていると言うので、ジョン・P・ゼガート氏のマスタング・シェルビーGT350に対する愛情は「推して知るべし」というところでもありますね。
さらにはメンテナンス等の記録もしっかり残り、ダイナモメーターテストシートには、エンジンのセットアップと計測結果が詳細に記されていて、たとえばそれは「(チューニングの結果)1,000回転で不快なアイドリングが発生する」といった具合です。
いったいなぜマスタング・シェルビーGT350を売ることにしたのか?
同氏はマスタングに対して非常に高い情熱を持っており、このマスタング・シェルビーGT350のほかにも「サーキット走行専用」の別のマスタングを所有していたといい、その理由はこのマスタング・シェルビーGT350のパフォーマンスが高すぎてサーキット走行が危険だと感じたから。
参考までに、走行距離がさほど伸びていないのは、他にもいくつかのマスタングを所有しているということのほか、GE(ゼネラル・エレクトリック)社にてミサイル誘導装置開発のために海外勤務をしていた時期があるからだと紹介されています。
そしてどんなに苦しい時期であってもこのマスタング・シェルビーGT350を手放そうとは考えなかったとも語っており、しかし今回それを売ることになったのは、屋根の上で作業をしている最中に転落してしまい、腰の骨など数か所を折る大けがを負った後遺症によってマニュアル車を運転できなくなったため。
それでも一時は売ることをためらい、しかし「死ぬまでこのクルマを乗らずに眺めているつもりなのか」と自問自答し、その結果、このクルマの運転を楽しむことができる他のエンスージアストに譲ることが最適な道だという結論に達したのだといいます。
なかなかに難しい決断ではあったと思いますが、クルマの事を考えたからこその判断だとも考えられ、ジョン・P・ゼガート氏の想いを引き継ぐことができる人にこそ落札して欲しいものですね。