| ブレーキの種類や作動原理は? |
曙ブレーキ工業株式会社が自社ウエブサイトにて、非常にためになるコンテンツを公開しており、ここでも紹介。
曙ブレーキは文字どおりブレーキ専業メーカーで、トヨタ・プリウスや日産リーフといったハイブリッドカー/PHEVから、マクラーレンP1のようなハイパーカー、さらにはF1マシンにも採用実績があり、ほかには日本の誇る新幹線のブレーキも担当しています。
ブレーキの種類には様々なものがありますが、ここでは代表的かつ一般的な「フローティングタイプ・ディスクブレーキ」「オポーズドタイプ・ディスクブレーキ」について見てみましょう。
ディスクブレーキって何?
一般に自動車のブレーキには「ドラムブレーキ」「ディスクブレーキ」といった種類がありますが、ここではディスクブレーキに集中して述べてみたいと思います。
ディスク=円盤という意味ですが、文字通りホイールの内側に見える円盤が「ディスク」で、これを挟んで回転を止める力を働かせることでクルマを停止させるのが「ブレーキ」の役割。
このディスクの素材は一般には「スチール(鉄)」が多く、高性能車では「カーボンセラミック」、そして「カーボンカーボン(純粋にカーボンでできている)」といったものも。
曙ブレーキでは下記のように解説していますね。
フローティングタイプ・ディスクブレーキって?
これは現代のクルマにおいて極めて一般的な形式で、「スポーティーカー」であってもこ多くはの形式を採用。
たとえばアウディTTでもフローティングタイプのディスクブレーキを採用していますね(TT S、TT RSになると後述の”オポーズド・タイプ”にグレードアップする)。
曙ブレーキによると「フローティングタイプは、片側だけにピストンを持つディスクブレーキで、浮動型や片押し式とも呼ばれています」。
ブレーキを踏むと片側のみに設けられたピストンがブレーキパッドを押し出してブレーキローターを圧迫し減速力を発生させると同時に、ブレーキキャリパーそのものが動いてブレーキキャリパー「反対側に」取り付けられたブレーキパッドもディスクへと接触して制動力を発揮する仕組み。
作動原理はこうなっています。
ブレーキキャリパーは鋳鉄製の場合がほとんどで、このブレーキのメリットは「コストが安い」。
ただ、それでも効きが悪いかというとそうでもなく、通常の走行だとこれで十分だと思います。
しかしながらメーカーによっても考え方の違いがあって、とくに国産自動車メーカーは摩耗を嫌って「硬い」ブレーキディスクを採用し、欧州自動車メーカーは効きを優先して「柔らかい素材の」ブレーキディスクを採用する傾向があるようですね。
もちろん「柔らかい」素材のローターのほうがブレーキパッドとの摩擦力が大きく、「良く止まる」ことにはなりますが、そのぶんローターの摩耗が早い(交換時期が早くやってくる)、ブレーキダスト(とくに鉄粉)が盛大に発生する、というデメリットも。
経験上ですが、日産フェアレディZ(Z32)の4ポット対向ピストンブレーキよりも、BMW Z3に装着されていたフローティングブレーキのほうがよく効いて驚いたということがあり、一概に「対向ピストンだからいい、フローティングだからダメ」とは言い切れないようです。
オポーズドタイプ・ディスクブレーキはこう作動する
オポーズドタイプ・ディスクブレーキは「対向ピストン型ディスクブレーキ」と置き換えることができると思いますが、文字通りブレーキキャリパー内部にあるピストンが左右両方から(ブレーキペダルを踏むと)出てきて、これがブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることになり、強力な制動力を発揮。
現代ではその素材にアルミニウムが用いられることがほとんどで、このブレーキを採用するクルマは誇らしげに「アルミ製対向4ポットブレーキキャリパー採用」等の文字がカタログ上へと踊ることに。
見た目も大きくて格好良く、高い制動力を持つとともに訴求力も高く、しかしコストも高いブレーキでもありますね。
「対向4ピストン」だと左右2個づつ、合計4つのピストンが作動し、現在では「6ピストン(”ピストン”のかわりに”ポット”とも言う)」「8ピストン」、さらには「10ピストン」も。
↓こちらはランボルギーニ・ウルスに採用される10ポット
もちろんピストンがたくさんあったほうがブレーキパッドをディスクに押し付ける力が強いので「よく効く」ことになりますが、そのぶんブレーキキャリパーの重量も重くなるため、ピストンの数は「多ければ多いほうがいい」わけではなく、車体重量や速度に見合ったものを選ぶ必要があります。
現在のところスーパーカーだと8ポット、重量級ハイパフォーマンスSUV(ランボルギーニ・ウルスやベントレー・ベンテイガなど)には10ポットが採用されています。
作動原理はこんな感じ。
なお、ここで気をつけたいのは「キャリパーの形状」。
「モノブロック」と「2ピース」とが(主に)ありますが、モノブロックは「一つの塊」を意味し、ブレーキキャリパーそのものが継ぎ目のない「塊」となっているもの。
対向ピストンの作動原理状、キャリパー内側両方からピストンが出てきて、それがブレーキパッド経由でブレーキディスクを押すことになりますが、その「押す力」が非常に強いため、ブレーキキャリパーに継ぎ目があったりすると「ブレーキキャリパーが開いて」くるわけですね。しかし「モノブロック」だと剛性が高く、「開かない」ということに。
↓もちろんフェラーリやランボルギーニ、ポルシェはブレンボ製のモノブロック
そして「2ピース」ですが、これはブレーキキャリパーを左右でモナカのように「合わせた」もの。
こちらはカラーサンプル(模型)であって実際のブレーキキャリパーではないのですが、こういった形状のものを「右と左」でパカっと合わせているものが「2ピース」。※ランボルギーニのブレーキキャリパーは”モノブロック”。繰り返しになりますがこれは単なるカラーサンプル用の模型なので半分にカットしてあるだけ
これによる問題としては、上で触れたように「ハードなブレーキングを行うと、キャリパー左右が開いてくる」。
そんなことあるわけないだろ、と思うかもしれませんが日産R32 GT-RやZ32フェアレディZではこの問題が顕著で、特に重量がGT-Rよりも重いZ32では初期モデルで採用されていた「アルミ製4ポットブレーキキャリパー」が、後により頑丈な「鋳鉄製」に変更されたほど。
じゃあなんで「2ピース」のキャリパーを使うのかということですが、これは「コストが安いから」。
コストが比較的安く採用でき、カタログに「アルミ製4ポットブレーキキャリパー採用」と書けるならそれで行こうということになるのだと思わ、そういった背景を考えると、カタログやサイトに「アルミ製4ポットブレーキキャリパー採用」と書かれていても、それが「モノブロック」なのか「2ピース」なのかはちゃんと確認しておく必要がありそうです(真ん中に継ぎ目=線があり、目視、もしくは触ればわかる)。※アルミ製の2ピース対向ピストンブレーキよりは、フローティングブレーキのほうがまだいいと考えている
なお日産の名誉のために言うと、1989年当時はモノブロックブレーキキャリパーは一般的ではなく、かつはじめての「大パワー、重量級」のクルマだったのでブレーキにかかる負荷を完全に把握できなかったのだと思われ、「スペックを誇示するため」に2ピースブレーキキャリパーを採用したのではない、と考えています。