| ただしそれは苦肉の策から生まれた戦略だったのだと考える |
スバルはけっこう(というか”かなり”)ファンが多いメーカーとして知られます。
そして「なぜファンが多いのか」ということはあちこちで語られるものの、ぼくとしては、身も蓋もない言い方ですが、「安いから」だと考えています。
正確にいうならば「パワーやスペックに比較して割安だから」ということになり、ここが人気の理由だとぼくは捉えているわけですね。
いったいどういうことなのか?
これについて簡単に説明すると、スペックにこだわる人が「安価なのにパワーが出ている」からスバルを選ぶのだと考えていて、けしてデザインやユーティリティという側面から選ばれているのではない、と認識しています。
この「安価なのにパワーが出ている」クルマを支持する心理は、たとえば日産GT-Rを神聖視する人の中のさらに一部が「GT-Rはポルシェやフェラーリ、ランボルギーニの何分の1の価格なのに、同じくらいのパワーが出ていて、それらを打ち負かすだけの性能を持っている」というアンチメジャー的な考え方を持っているのと同じで、高額なクルマを敵対視し、それらよりも優れるという心の拠り所として「コストパフォーマンス」を持ち出しているのかもしれません。
実際にスバルは馬力あたり単価が最も低い
ここで実際に例を見てみましょう。
たとえば、レヴォーグは「パワーのある」国産車として知られますが、レヴォーグ2.0GTSは300PSを発生しますが、その価格は3,685,000円に設定されており、これはぼくの知る限り、かなり割安な設定です。
そしてざっと300PS前後のクルマと価格をピックアップしてみるとこんな感じ。
レヴォーグと同じ300万円台は見つからず、一番近いクルマがホンダ・シビック・タイプRの4,584,000円という設定です。
フォルクスワーゲン・ゴルフR(310PS)・・・5,849,000円 BMW M135i xDrive(396PS)・・・6,300,000円 アウディS3スポーツバック(290PS)・・・6,330,000円 ポルシェ718ケイマン(300PS)・・・6,926,000円 トヨタGRスープラ(340PS)・・・7,028,000円 日産フーガ370GT(333PS)・・・5,346,000円 ホンダ・シビック・タイプR(320PS)・・・4,584,000円 |
これは今に始まったことではない
そしてぼくの記憶しているところだと、スバルのこういった傾向は今に始まったことではなく、「かなり」前から。
日本車は2004年まで「280PS」が自主規制として馬力の上限として定められていましたが、この280馬力へと最初に達したのは1989年の日産フェアレディZ(Z32)、そしてR32 GT-R。
その後はユーノス・コスモやホンダNSXなど280PSを誇るクルマが続々登場しています。
そんな中でスバルも「レガシィ」の出力を280馬力にまで高めていて、「レガシィ 2.0 GT-B(1993年)」の価格は2,898,000円。
なお、同時期の280PS車としてはトヨタ・マークII ツアラーV(1995年/3,335,000円)、マツダRX-7タイプR(1991年/3,548,000円)といったものがありますが、やはりレガシィの価格が相当に安いことがわかります。
同じ280PSのユーノス・コスモや日産GT-R、ホンダNSXの価格は(レガシィとは)比較にならないほど高いのは周知の通りですね。
スバルは基本的に投資ができなかった
そしてスバルがクルマを「安く」作れるのは研究開発にお金をかけていないからで、だしこれはケチというわけではなく、スバルの代々社長が銀行から出向して人ばかりということもあり、歴代社長が「自分の任期中に赤字は出せない(赤字を出すと銀行に戻れない?)」ために投資を禁じていた模様。
そのためにEJ型エンジンについては30年、トランスミッションについても30年くらい同じものを(改良しながら)使い続けていて、よって車両製造に関わるコストを償却しきっていたためにクルマを「安く作ることができた」ということになります。
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新しいユニットを開発できなければ「小技で勝負」
ただ、新規技術に注力できないからといって何もしなければクルマは売れず、そこでスバルが考えたのが(おそらく)「客観的に判断できるスペックや、目に見える機能で勝負する」。
とにかくスバルは興味深い自動車メーカーとしかいいようがなく、多くの制約の中でいかに優位性を保つかを考えた結果がシンメトリーAWDだったりパワーという数字だったりアイサイトだったりしたのだと思いますが、そんな中で記憶に残るのが「ビルシュタイン製ショックの採用」。
当時は憧れのパーツだったビルシュタイン製ショックを最初から装着したグレードを設定し、そのバッジを誇らしげにリアに装着することでアピールを欠かさず、さらにはこれも高嶺の花であった「マッキントッシュ製オーディオ」をオプション装備するなど、とにかくクルマ好きのツボを抑えた展開が素晴らしかったと思います。
上述の通り、これらは「新しいエンジンや車体、トランスミッションを開発できないので、見てわかる数字や機能、誰でも知っているブランドのパーツを装着して他社と競争するよりない」という苦肉の策から出てきた戦略だと思われるものの、安さに加え、こういった”客観的に判別できる”特徴を押し出してきたことが結果として「スバルにスペック重視の人たちを呼び込むことに」なったんじゃないかと考えているのですね。
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