| 昨今のクラシックカー取引状況を見るに、おおよそ価値を決定する要因は集約できる |
ただし中には「予想外」の価値を誇る例も
さて、ここ最近立て続けに報じられるのが「とんでもない価格で取引されるクラシックカー」。
実際のところ、クラシックカーは絵画や金融商品よりも「リターンがいい」投資先だと目されることもあり、(純粋にクルマが好きな)コレクターのみではなく、現在では多くの投資家が注目する存在になったと認識されています。
クラシックカーの価値はどうやって決まるのか?
古今東西様々なクルマが製造されていますが、多くのクルマは耐用年数を超えると廃棄処理がなされるかと思いますが、ごく一部のクルマはそういった「スクラップ」を免れてコレクターズアイテム、あるいは芸術品としての価値を持つようになるわけですね。
そして現代では「未来のコレクターズアイテムや芸術品」となるべく生み出されたクルマ、たとえばブガッティ・トゥールビヨンのようなハイパーカーも存在しますが、現在高額にて取引される多くのクラシックカーは「当時はそう意図されていないものばかり」です。
おそらく当時は「将来的にクラシックカーが値上がりする」とは誰も考えていなかったはずで、実際のところ、「比較的安価なスポーツカー」として提供された空冷911、「ミドシップレイアウトへの過渡期に少しだけ作られたレーシングカー」であったフェラーリ250GTOが現在のような価値を持つとは「誰一人として」想像すらできなかったんじゃないかと思います。
クラシックカーの価値はどうやって決まるのか
そして、そこで気になるのが「いったい、どういったクルマが将来の(価値ある)クラシックカーになりうるのか」。
すべての新車は年月が経てば古くなり、一般に20年が経過すると「クラシックカー」と認定されるようになりますが、もちろんそれらクラシックカーのすべてが価値を持つわけではありません(むしろそのほとんどが価値を失い、売却や廃車の際には逆にお金を取られることも)。
ただ、そんな中の「ごく一部」のみに価値が見出されて非常に高額にて取引される車となるのですが、その価値を決める要素は多岐にわたり、(上述のブガッティ・トゥールビヨンや限定フェラーリのように)クルマが生産ラインを出た瞬間から明らかなものもあれば、何十年も経ってから初めて分かるものも。
そして「統計上」クルマの価値を決定する主な要因はおおよそ以下の通り。
- 歴史的な重要性
- コンディション(オリジナルか修復車か)
- 走行距離
- 希少性
ここでそれぞれの要素について見て行きたいと思いますが、まずは「歴史的重要性」。
たとえばフォルクスワーゲン・ビートルは、大衆向けの安価な移動手段として誕生し、何百万台も生産されていて、安価でありふれたクルマではあるものの(実際のところ、もっとも多く生産された4輪車である)、しかし自動車の歴史に大きな影響を与えたため、一部のモデルは高い価値を持っています。
その他の例だと、1955年に登場したシトロエンDSは、当時としては画期的な技術を搭載しており、四輪ディスクブレーキ、パワーステアリング、さらには車高調整機能まで備えていて、のちにマセラティやロールスロイスがこの技術を採用したという事実もあるほどです。
その意味では、トヨタ・ランドクルーザーも「これまでに100万台以上が累計で生産されているものの」オフローダーの歴史を変え、さらに新たな歴史を作り続けているという点、過去のモデルが最新のランクルにも影響を及ぼし続けているという点において、「価値のあるクルマ(シリーズ)」だと考えていいのかも。
このように、一般向けの量産車であっても、歴史的な意義があると価値が上がることがあり、つまり「限定車や少量生産車のみが後世に高い価値を残すというわけではない」のだという理解ができますね。
そのほか、モータースポーツにて特段の活躍をした車両、その自動車メーカーにとっての後のデザイン的資産やアイコンとなった車両(メルセデス・ベンツ300SLRなど)、そのメーカーのポジションを大きく変えることになった車両(アウディ”クワトロ”やホンダNSX、S2000など)、映画に登場し活躍したことでその価値を高め、多くの影響を与えた車両(デロリアンDMC-12や80世代のトヨタ・スープラ、いくつかのボンドカーなど)、著名人が所有・ドライブした車両(ミハエル・シューマッハやファン・マヌエル・ファンジオ、あるいはスティーブ・マックイーンなど)もこれに該当するかと思います。
そのクルマの「状態」は非常に重要である
そして次の「コンディション」についてですが、クラシックカーは一般に「新車に近い状態を維持しているほど」高く評価され、さらには「カスタムされていない」オリジナル状態を維持しているほうが理想的。
もちろん走行距離も重要な要素で、同じクルマであれば「より走行距離が短いほうが」好まれる傾向にあるのは言うまでもありません。
ただ、いかに「朽ち果てていても」レストアがなされていないほうが価値が高いと判断される場合や、レストアされていても詳細記録がなければかえって価値を下げてしまう場合もあり、この「状態」はかなり難しい判断であるとも認識されています(たとえば、映画「ウルス・オブ・ウォールストリート」の撮影にて破壊され、走行ができないランボルギーニ・カウンタックは大変な高値で取引されているが、これは上の「歴史的価値」がコンディションの悪さを上回った例である)。
そして最後は「希少性」。
もともと生産台数が少ないクルマは基本的に価値が上がりますが、量産車でも時間が経つにつれて希少になることがあり、例えば、フォード・モデルTは1,500万台以上生産されているものの、1927年に生産が終了して以来、オリジナルの状態で残っている車はごくわずかです。
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そのため、2022年に開催されたオークションでは、1908年式モデルTが約24万6,400ドル(現在の為替レートだと3800万円くらい)で落札されたことも。
もちろん誰も「量産車の代名詞であるフォード・モデルTの価値がそこまで上がる」とは考えておらず、よって「修理費がかさむ場合は修理よりも廃車を選んだ」オーナーが多かったからという背景が推測できます。※その意味で、初代トヨタ・プリウスは後に「世界を変えたクルマ」としてコレクターズアイテム化するかもしれない
そして、「不人気だったので新車販売時はあまり売れず、しかしのちになってその希少性が評価された」例もいくつかあり、ホンダ・エレメントやいすゞ・ビークロスはそういった例だとも考えられます(セミオートマチック・トランスミッション導入初期時代におけるフェラーリのMT車も同様である)。
今後価値が上昇するクルマは?
そこで「では、今後どういったクルマの価値が上がるのか」を考えてみると、上の考察から自ずと答えが導き出されようというもので、ざっと以下の通りだとも考えています。
- 希少性があること
- オリジナルの状態を維持していること
- 良好なコンディションであること
- 低走行距離であること
- 歴史的な意義があること
参考までに、1980年代〜2000年代のスポーツカーは近年、コレクターズアイテムとして人気が高まっていて、特に日本のスポーツカーは、(まだ)比較的手頃な価格で購入できるものも多く、投資価値があるとも考えられます(リバイバルブームもこれに拍車をかけているといっていい。新型セリカやMR2が登場すれば、過去のモデルの価値が一気に上るであろう)。
ただ、クルマを選ぶ際に最も重要なのは「そのクルマが値上がりするかどうか」ではなく「自分が本当に好きな車を買うこと」だと考えられ、クルマはもともと投機商品ではなく、走るために作られたものなので、「価値が上がればラッキー」くらいの気持ちで楽しむのが健全なのでしょうね。
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