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現代においてなぜレストモッド/コーチビルドは富裕層の支持を集め、クラシックカーに代わる人気を得ているのか?その理由を考える

現代においてなぜレストモッド/コーチビルドは富裕層の支持を集め、クラシックカーに代わる人気を得ているのか?その理由を考える

| 少し前まではオリジナルに自分らしさを加えることは「悪」だと捉えられていたが |

様々な価値判断基準が登場し、また移り変わり、クルマの楽しみ方が「自分基準」になってきたのだと思われる

さて、現代においては「レストモッド」「コーチビルド」が非常に盛んになっており、それらに対する需要、そして費用ともに”うなぎのぼり”です。

自動車メーカーによるコーチビルドであれば数億円、ショップによるレストモッドでも数千万円から「億」超えといった状況ですが、これはつい最近、具体的にここ数年になって顕著になったトレンドです。

もちろん、レストモッドにおいてその可能性の扉を開いたのは(ポルシェ911のレストモッドで知られる)シンガー・ヴィークル・デザインではあるものの、現在ではチューニングショップのみならずレーシングファクトリー、はたまた自動車メーカー本体までこのセグメントに参入していて、ここで「レストモッド/コーチビルドが活性化している理由」について考察してみましょう。

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クラシックカーには常に「不安」がつきまとう

クラシックカーを所有することは、ほとんどではないにしても、多くの自動車愛好家にとって”一度はやりたい”こととしてリストに載っているかもしれません。

ヴィンテージの美学にふれること、自動車の歴史の一部に触れ、それを共有することなどクラシックカーに惹かれる要素は様々だと思いますが、クラシックカーの所有には(実のところ)それほど魅力的ではない側面がいくつかあります。

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その代表例は”車両価格が非常に高い”ということで、そもそも本物のクラシックカーには「手を出せない」ということも。

そして幸運にもお望みのクラシックカーを手に入れたとしても、それに乗ることで「価値が下がる」ことを気にしてしまい、結局のところ乗らず終いになってしまうのかもしれません。

だからこそ、本物のクラシックカーを所有するにも関わらず、それとそっくりのレプリカを制作してそれを(実際に運転して)楽しむといった人々が少なくはないのだと思われますが、レストモッドあるいはコーチビルドはこういった事例を”発展”させたビジネスだとも考えられます。

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さらにクラシックカーは「高額なメンテナンス費用が必要」「信頼性に不安が残る」「運転が困難である」といった問題もあり、たとえばすでにパーツが存在しなかったり、その場合は自分でパーツを作る必要があったり、さらにはクラシックカーを安心して預けることができるショップが存在しなかったりするわけですね。

さらにクラシックカーを所有すると、実際に愛車の運転を楽しめる時期や頻度が限られてしまうことがままあって、ブレーキの効きが悪く、ステアリングの反応が鈍く、機械的な信頼性が低い場合、天候が完璧で、何か問題が発生したときに即席の修理に取り組む準備ができている場合を除き、誇りと喜びを持ってドライブに出かけることが障害になる可能性があります。

もし出先で雨に振られたら、もし渋滞に巻き込まれたら、もし路上で故障に見舞われたら。

あるいは、ちょっと体調にすぐれない日はクラシックカーをガレージから出すことが億劫になってしまうかもしれません。

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ただしレストモッドやコーチビルドはこういった問題を「ほぼ全て」解決してくれ、現代のクルマをベースとし、そこへクラシックカーの持つ要素をブレンドすることでこのジレンマに対する有効な解決策を提供してくれます。

レストモッド自体は「修復(レストア)」と「改造(モディファイ)」とを組み合わせた造語であり、単に修復されただけではなく、現代化されたクラシックカーを表しますが、これには、新しいメカニカルコンポーネント、新しいパワートレインといったパフォーマンス面に関わるもの、デジタルインフォテインメントシステムのように利便性や快適性に関わるものなど様々な側面を含んでおり、もちろん、修復と修正の両方の面で大量の専門的な労働力が必要となるため、その費用はは決して安くはありません。

ほとんどのレストモッドは定型化された業務ではなくカスタムジョブであり、個々のオーナーの好み、車両の状態に合わせて変更され、そのためレストモッドは非常に(その費用が)高価になってしまい、ポルシェはもちろん、フェラーリやランボルギーニのエントリーモデルの価格を超えることも多々あります。

加えて、(クラシックカーオーナーの要望を満たせるだけの技術力を持つ)レストモッドを手掛ける職人、そういった職人を抱えるショップを探すことは非常に困難で、レストモッドやコーチビルドには価格以外の障壁が多数存在するわけですね。

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なぜ、それでもレストモッドやコーチビルドは人気なのか?

そういった「価格、それ以外の諸々の障壁」にもかかわらずレストモッド/コーチビルド市場は非常に活況であり、多くの富裕層が自分の満足できるクルマを作るために高額の資金を投入しています。

その規模はますます拡大していると考えてよく、ポルシェ911はじめトランスアクスル採用のポルシェたち(966や968、928など)、そしてランボルギーニ、ルノーやランチア、アルファロメオなどその対象が多岐にわたっているのもまた事実。

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そして一部の人々は「最新のスーパーカーにキャッチアップすることに疲れ」レストモッドやコーチビルドの世界へと移り住むことで「流行に左右されないタイムレスな」クルマを安心して楽しむことになるわけですね。

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こういった風潮が発生した理由についてもいくつかの事象を思い浮かべることが可能であり、もっとも大きなものとしては「独占性」「排他性」が挙げられ、つまりは唯一無二のクルマを手に入れることができる、ということ。

レストモッド/コーチビルド車両に数千万円~数億円を支払うことができる人々はおおよそ(他の人が望みうる)限定スーパーカーなどをほとんど所有していて、いかに限定フェラーリを所有していたとしても、それは「数百台」という規模で(内外装の仕様は異なれど)同じクルマが存在します。

しかしながら、レストモッドやコーチビルドであればもっと生産数が少なく、場合によっては「その1台のみ」となり、たとえばシンガー・ヴィークル・デザインが「同じ仕様は絶対に作らない」のはここに理由があるわけですね。

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さらに同社の創業者、ロブ・ディッキンソン氏は「私たちは、レトロラインのポルシェ911のレストモッドの受注を停止しましたが、これはクルマの品質以上に、シンガーが『ブランド』として認識されることと関係があります。我々は希少性を維持し、納車後にクルマの所有者が変わっても、そのクルマの価値を維持するのに必要なことなのです」とも。

つまりシンガー・ヴィークル・デザインは自社をブランド化し、その仕事を差別化された「ハイエンド」なカスタムジョブへと引き上げることでクルマ以上の付加価値(同じものを誰も持っていないという満足感)を提供していると考えることができるかもしれません。

さらにレストモッド、コーチビルドの利点としては「自分の好きな仕様をオーダーできる」という事実があり、これは近年ロールス・ロイス、ベントレー、フェラーリ、ランボルギーニといったハイエンドブランドがその利益を「カスタム(パーソナリゼーション)対応の拡大によって」大きく伸ばしていることからもその(富裕層が自分だけの仕様を持つクルマに乗りたいという)需要の大きさがわかるかと思います。

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そしてもうひとつ重要なのは「スペックに対する関心」がハイエンドスポーツカーオーナーの間で薄れてきたこと。

ちょっと前までは「何馬力」「0-100km/h加速がどれくらい」「最高速が何キロオーバー」といった数字が重要ではあったものの、ピュアエレクトリックカーの登場によってそれらの数字の重要性が薄れたんじゃないかと考えています。

たとえば、テスラ・モデル3パフォーマンスは「セダン」でありながらも路上を走るクルマの95%よりも速い加速を誇りますが、だからといって95%のクルマよりもファン・トゥ・ドライブであるかといえばそうではなく、そしてこれに続く多数のEVが「加速」を売り物にするにつけ、多くの人は「実際のところ数字は重要な要素ではなかったんじゃないか」「EVであればどのクルマでも実現できるような数字よりも、もっと重要なものがある」と気づいたのかもしれません。

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そして数値以外の楽しみ、さらに言えば今後世界が「エレクトリック」へ進もうとも色褪せることがない価値を求め、”他人に誇れる数字よりも、自分自身が楽しいと思える内外装”を実現できるレストモッド/コーチビルドの人気が高まっているのでは、と思われます。

これらを総合すると、レストモッド/コーチビルドは、ドライバーのエンゲージメントと感情的な魅力という利点を維持しながら、クラシックカーにおける”あまり理想的ではない”側面が排除され、かつ自身の満足度を様々な側面から最大化できるという新しい選択肢であり、今後ますます市場が拡大することになるであろう、と推測しています。

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