
Image:Astonmartin
| 高額なクルマは得てして様々な問題に直面しやすい |
「走るF1マシン」に夢見た男の悪夢
アストンマーティン・ヴァルキリー(Valkyrie)は、V12自然吸気エンジン+ハイブリッドシステムを搭載し1,160馬力を誇る究極のハイパーカー。
価格は日本円で約5億円(3百万ユーロ)というドリームカーではありますが、今回報じられる、ドイツ人オーナー“クンツェ”氏にとって、その体験は「走る夢」ではなく「動かない悪夢」となったもよう。
ここで「いったい彼と彼のアストンマーティン・ヴァルキリーに何が起きたのか」を見てみましょう。
エンジンサウンドが大きすぎて周囲の音を拾えず…救急車と衝突寸前
まずは2024年8月、彼のヴァルキリーの外部音取り込み用ヘッドホンシステムが故障。
これはV12エンジンの爆音で周囲の音が聞こえないため、外部マイクから拾った音をドライバーに伝える仕組みなのですが、このシステムが作動しなかった結果、走行中に接近する救急車のサイレンが聞こえず衝突寸前に(そんなにヴァルキリーのエンジンサウンドは大きいのか・・・)。
幸運にも事故は回避されましたが、「もし救急車の運転手が反応していなければ命に関わった」とクンツェ氏は語ります。
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しかしそれだけでは終わらない。ハイブリッド・高電圧システムも次々に故障
初期トラブルはこれだけではありません。
- 納車後わずか441kmの走行で高電圧システムがダウン
- 警告灯が次々に点灯し、修理のため搬送
- 「ロケットロッカー(Rocket Locker)」というサスペンション保持システムが勝手に取り外されていたと主張
さらに輸送中の損傷や不明瞭な修理対応も訴訟に含まれており、オーナーの怒りは頂点に。
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アストンマーティン「異常なし。走った分は請求します」
クンツェ氏は契約解除と返金を求めていますが、アストンマーティン側はこれを拒否。
「完璧な車両を納品した」と主張し、返却を認めたとしても走行距離分(441km)として55,000ユーロ(約840万円)を請求すると回答しています。
また、サスペンション関連の損傷については「車輪交換をオーナー自身が行った際に発生した摩耗だ」と反論するなど真っ向から対立していますが、実際のところクンツェ氏はジャッキセットもアストンマーティンから購入し、確かに自分で交換したと認めています。
「走ることを想定していない」? 驚愕のブランド姿勢
最初にこの案件を報じたドイツのハンドルスブラット誌によれば、アストンマーティン側は「このクルマを日常的に運転することは想定していない」というスタンスを取っており、「年間300〜1,000km以下が通常の走行距離」と主張。
さらに、「5万km走行後にはトランスミッション全交換が必要になる」とも述べており、“走る宝石”というより“飾る宝石”として扱われているのが実情のようですね。
ちなみにですが、アストンマーティンとしては「ヴァルキリーをどんどん運転してほしい」ともコメントしていますが・・・。
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ドイツvsイギリスの裁判地争いも
現在この対決は泥沼化しており、アストンマーティンは「訴訟はイギリスで行うべき」と主張したものの、EUの消費者保護規定により居住国での提訴が可能だそうで、現在、ドイツ・アーヘン地方裁判所で審理が進行中であるとも報じられています。
裁判所は和解を提案しましたが、クンツェ氏は一蹴。
「私はクルマについて議論したいのではなく、楽しみたいだけだ。」
6週間以内に双方が追加の意見を提出し、裁判所の管轄判断を待つ段階となっています。
まとめ:「5億円のクルマにおいても、信頼を買えなかった」
- 納車後すぐの高電圧システム不具合
- 外部音マイクシステムの故障で重大事故寸前
- アストンマーティン側の“走らない想定”という姿勢
この訴訟は、単なる“お金持ちの贅沢なクレーム”ではなく、超高価格車における製品責任や使用実態とのギャップを問う重要なケースと言えそうですね。
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参照:CARSCOOPS