
| アストンマーティンDB12は欠点を探すのが難しいほどの「オールマイティなスポーツカー」 |
まさに新世代アストンの象徴とも言える存在である
さて、アストンマーティンDB12 ヴォランテに試乗。
DB12は先代「DB11」の後継モデルとして2023年に登場していますが、アストンマーティンはこのクルマを単なるグランドツアラー(GT)ではなく、世界初の「スーパーツアラー」と定義しています。
これは、「ラグジュアリーな快適性とスーパーカー並みの走行性能を両立させた」ことを意味しますが、それまでのアストンマーティンが「フェラーリをターゲットにしていた」のに対し、新しくアストンマーティンのオーナーとなったローレンス・ストロール氏は「他社に対抗するのではなく、自社にしかない強みを活かす」ことに主眼を置き、アストンマーテンならではの「超高級」さを前面に押し出し、”新しいカテゴリ”を創出することに注力したわけですね。
つまり、「他社と同じ土俵で勝負するのではなく」「自分が勝てるセグメントを作り出し、そこで王になる」という戦略を採用しているのが現在のアストンマーティンですが、このDB12は「優雅にホテルに乗りつけたいが、峠道ではスポーツカーのように走りたい」という欲張りなニーズに完璧に応えるスポーツカー。
外観は伝統的な「DB」シリーズの美しさを保ちつつフロントグリルが巨大化して「よりアグレッシブに」変更されていますが、内装だとデジタル化が進んで実用性が現代水準(あるいはそれ以上)に引き上げられることで”日常使いのストレスがほぼ解消された”という評価を受けています。
アストンマーティン DB12の主な特徴
DB12の進化点は大きく分けて「圧倒的なパワーアップ」「インテリアの刷新」「ハンドリングの劇的進化」の3点です。
1. エンジンの大幅なパワーアップ(V12の廃止)
DB11に搭載されたV12エンジンモデルは廃止され、メルセデスAMG製の4.0L V8ツインターボエンジン一本に絞られていますが、アストンマーティン独自の徹底的なチューニングにより680PSという驚異的な出力を実現しています。
これは先代のV8モデルより30%以上もパワフルで、先代V12モデル(639PS)すら凌駕する数字。
2. インテリアとインフォテインメントの刷新(最大の進化点)
上述の通り、DB11時代のアキレス腱だった「旧世代のメルセデス製ナビ/操作系」が一新。
- 自社製インフォテインメント: 完全に新しい10.25インチのタッチスクリーンを採用。レスポンスが良く、Apple CarPlay / Android Autoにもワイヤレスで対応しています。
- 物理スイッチの維持: 全てをタッチパネルにするのではなく、頻繁に使う走行モードやエアコン操作には、手触りの良いローレット加工された物理スイッチやダイヤルを残しており、高級感と操作性を両立することに。
3. シャシーと足回りの強化
ボディ剛性が高められ(特にねじり剛性は7%向上)、新型のビルシュタイン製DTXダンパー(サスペンション)を採用。
これにより「長距離移動の快適さ」と「サーキット走行もこなせる鋭いハンドリング」の幅が劇的に広がっており、また、アストンマーティンのGTモデルとして初めて電子制御リアデファレンシャル(E-Diff)を搭載しコーナリング性能が向上しています。
DB12 基本スペック表
| 項目 | データ |
| エンジン | 4.0L V8 ツインターボ |
| トランスミッション | ZF製 8速オートマチック |
| 最高出力 | 680 PS / 6,000 rpm |
| 最大トルク | 800 Nm / 2,750 - 6,000 rpm |
| 0-100km/h加速 | 3.6 秒 |
| 最高速度 | 325 km/h |
| 駆動方式 | FR(フロントエンジン・リアドライブ) |
| ボディサイズ | 全長 4,725 × 全幅 1,980 × 全高 1,295 mm |
| ホイールベース | 2,805 mm |
| 乾燥重量 | 1,685 kg |
| 乗車定員 | 4名(2+2レイアウト) |
| 新車価格(日本) | 2,990万円〜 (税込・オプション別)※DB12 ヴォランテは3,290万円 |
実際にアストンマーティン DB12に試乗してみよう
そこで早速アストンマーティンDB12へと試乗することとなりますが、まずは外観をざっとチェック。
ボディカラーは「ホワイト」、しかし近くに寄ってボディラインを見てみると画像ではわからなかったプレスラインが隠れており、それらがまるで「筋肉の筋」のようにも。
これらは公式画像などの「写真」ではわかりにくく、アストンマーティンの魅力が画面越しには伝わらないため「アストンマーティンが損をしている」ところかもしれません。
こちらは同じDB12、そしてメタリックカラーではありますが、こういった深みのあるボディカラーを見るとより「抑揚」がわかるかと思います。
こちらはサイドとリア。
やはりプレスラインが明確な表情を作り出しており、「細マッチョ」といった感じですね。
サイドシルは分厚く高く、そしてヘアライン仕上げの金属パネル、そして別途「BD12」と刻印されたプレートが装着されており「いかにも品質の高い工業製品」という感じ(これはフェラーリやマクラーレン、ポルシェなどのライバルでは見られない特徴である)。
そしてシート表面にはブローグ加工がなされ・・・。
実際に試乗した車両だとこう。
なお、このブローグの「内側」はもちろんステッチのカラーも選ぶことができ、こういった「英国調のダンディズム」が感じられるのもアストンマーティンならでは。
そしてサイドウインドウは「二重ガラス」。
これは比較対象となりやすいフェラーリ・ローマとは全く異なるところであり、ベントレー・コンチネンタルGTに近い部分でもありますね。
なお、ドアは少し斜め上に開く「スワンスイング」、そしてラッチではなく「任意の場所で」ドアがストップ(保持)するというアストンマーティンならではの美点も引き継いでいます。
そしてインフォテイメントシステムやコントロール系は「一気に近代化」。
ドアミラーは「ベゼルレス」で、より小さなハウジング、よろ大きなミラー面積を持つというスグレモノ(鏡面調整の際はドアミラーハウジング丸ごと動く構造を採用しており、一般的なドアミラーとは根本的に異なる)。
実際にアストンマーティンDB12で走ってみよう
そして乗り込んだ後はシートやミラー類を合わせていざスタート。
エンジン始動音は思いのほか小さく、そして振動も「極小(というか皆無)」。
「Dレンジ」に入れるにはセンターコンソール上の小さなレバーを動かし、そしてブレーキペダルを離すとちょっと強めのクリープとともに車両が動き出します。
ちょっと走ってわかるのはボディ剛性の高さ、そして静粛性の高さ。
アクセルペダルに対する反応もよくブレーキの応答性に優れ、ステアリングホイール操作に対しても機敏かつ忠実な動きを示すという「スポーツカーの模範」のような挙動を持っていますが、比較的大きく重いクルマであるにもかかわらず「かなり軽く」感じるのは最近のクルマにおけるひとつの特徴と言えるかもしれません。
デフォルトのドライブモードは「GT」、そして「Sport(スポーツ)」に「Sport+(スポーツプラス」。※厳密にはまだ「Wet」、個別設定が可能な「Individual」がある
GT(ジーティー)
- 特徴: デフォルトモード。
- 目的: 快適な長距離クルージングと必要な時のパワーを両立させた「スーパーツアラー」としての理想的なバランスを提供。サスペンションはしなやかで日常使い向き。
Sport(スポーツ)
- 特徴: ダイナミックな走りを強調するモード。
- 変化: スロットルレスポンスが鋭くなり、エキゾーストノート(排気音)がより力強くなるほか、サスペンションも引き締まり、ワインディングロードなどでスポーティな走りを楽しめる。
Sport+(スポーツプラス)
- 特徴: DB12のパフォーマンスを最大限に引き出すモード。
- 変化: パワートレイン、トランスミッション、シャシーが最もアグレッシブな設定になり、サーキット走行などを想定した「安全装置の介入が最小限になり、純粋なドライビングフィールが強調される」設定。
試乗ではそれぞれのモードを試していますが、「GT→Sport」よりも「Sport→Sport+」での変化が大きく、Sport+ではライトウエイトスポーツカーのような俊敏さが演出されるうえ、V8エンジンのエキゾーストサウンドも「最大」に。
なお、エキゾーストサウンドは一世代前のAMG(V8エンジン搭載)のような暴力的ともいえるもの、あるいはアメリカンV8のようなドロドロしたサウンドではなく「かなり紳士的」で粒の揃ったサウンドであるように感じます。
ロールやピッチが極度に抑えられているのも「最新のスポーツカー」らしい特徴でもあり、「極めて安定した」姿勢を保ったままどのようなシーンでもこなしてしまうという印象があり、さらには渋滞やちょっと細い道であっても「神経質なところがなく」非常に扱いやすいクルマです。
正直なところ「欠点を探すことが難しい」ほど優秀なスポーツカーでもあり、このDB12こそが「新しい時代のアストンマーティンを表す象徴」なのかもしれません。
アストンマーティンDB12のライバルは?
アストンマーティンDB12の競合となるモデルとしては、ぼくが実際に運転した中では「フェラーリ ローマ」、「ベントレー コンチネンタルGT」、そして「マセラティ グラントゥーリズモ」の3台。
ただしDB12はこれらに対し、「最もパワーがあり(680PS)」、さらには「スポーツとラグジュアリーのバランスが最も現代的」という立ち位置にいるという印象です。
1. 対 フェラーリ ローマ (Ferrari Roma)
【最大のライバル:優雅なイタリアン vs 力強いブリティッシュ】
- キャラクター: ローマは「La Nuova Dolce Vita(新しい甘い生活)」をテーマにした、優雅で少しリラックスしたフェラーリです。一方、DB12は「スーパーツアラー」としてローマよりも「筋肉質でパワフル、かつハンドリングの鋭さ」を強調しているようにも。
- エンジン性能: DB12(680PS)はローマ(620PS)をパワーで上回り、しかしフィーリング的にはDB12のほうがマイルド(紳士的)という感じ。
- インテリア: ローマはステアリングホイールのスイッチ類までタッチ式にするなどデジタル化を推し進めたものの、その操作感には賛否が噴出しており、しかしDB12では物理スイッチとタッチパネルを最適に使い分けているために操作性と高級感で勝ります。
- 価格帯: ローマの中古価格(もう新車では購入できない)はまちまちですが、実質的な購入価格はDB12以下となるケースが多く、「お手頃感」がありそうです。
2. 対 ベントレー コンチネンタルGT V8 (Bentley Continental GT)
【快適性の王者 vs 走りの楽しさ】
- キャラクター: ベントレーは「圧倒的な快適性と静粛性」が武器の重量級GT。DB12に比べると車重が重くコーナリングを楽しむクルマではないという一方、DB12はベントレーより遥かに軽量で「ドライバーが自らステアリングを握って楽しむ」ことに重きを置いています。
- 後席の広さ: ベントレーは大人でも短距離なら座れる後席スペースがありますが、DB12の後席はあくまで荷物置きや緊急用(小柄な方や子供向け)の「2+2」レイアウト。
- デザイン: ベントレーは重厚感、DB12はスポーティな躍動感が特徴で、同じ「英国出身」ながらもけっこうな差異があります。インテリアは両者ともに譲らぬ高級感を持ち、しかしコンチネンタルGTは「クラシック」、DB12は「モダン」。
3. 対 マセラティ グラントゥーリズモ (Maserati GranTurismo)
【実用性 vs エンジンの官能性】
- 実用性: マセラティ グラントゥーリズモ最大の武器は「大人がしっかり座れる後席」で、4人で移動する機会があるならマセラティ一択。
- エンジン: グラントゥーリズモ(トロフェオ)はV8ではなくV6エンジン(550PS)、しかしDB12はV8エンジン(680PS)なので、サウンドの迫力や絶対的な加速感、ステータス性において、DB12のV8に軍配が上がります(ただ、グラントゥーリズモもなかなかのサウンドである)。
- インテリア: グラントゥーリズモも高級ではありますが、DB12の方がより「ビスポーク(特注品)」のような、そして工芸品的な質感が感じられ、上質なイメージを持っているように思います。
スペック・特徴比較まとめ
| 車種 | アストンマーティン DB12 | フェラーリ ローマ | ベントレー コンチネンタルGT V8 |
| コンセプト | スーパーツアラー (超高性能+快適) | 2+クーペ (優雅+軽快) | ラグジュアリーGT (重厚+快適) |
| エンジン | 4.0L V8 (680PS) | 3.9L V8 (620PS) | 4.0L V8 (550PS) |
| 0-100km/h | 3.6秒 | 3.4秒 | 4.0秒 |
| ハンドリング | 非常に鋭い | 軽快でシャープ | 穏やかで安定志向 |
| インテリア | 最新鋭&物理ボタン (操作性◎) | 全面的にタッチパネル (先進的だが癖あり) | クラシック&豪華 (質感◎) |
| 後席 | 狭い (荷物・子供用) | 非常に狭い | 比較的広い (大人も可) |
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