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まさに悪夢の連鎖?アウディが中国NIOに工場売却を検討との報道。「中国車進出でEV売れず→収支改善のため工場売却→中国メーカーが購入→さらに中国メーカーが欧州で存在感強化」

まさに悪夢の連鎖?アウディが中国NIOに工場売却を検討との報道。「中国車進出でEV売れず→収支改善のため工場売却→中国メーカーが購入→さらに中国メーカーが欧州で存在感強化」

| 「現金が必要」であることは理解できるが、アウディとしてはこの判断によって自分の首を絞める事になるかもしれない |

それでも「他に道がない」のが現在の状況である

さて、現在自動車業界は激動の時代を迎えていますが、とくに苦境が報じられているのがフォルクスワーゲングループ、そしてステランティス。

両者とも主に中国からの安価なEVの侵攻にさらされ地元欧州でのEVの販売を削られてしまい、そのため戦略に狂いが生じ「投下した資本を回収できない」状態です。

よってフォルクスワーゲンはその歴史上初めて「地元ドイツの工場閉鎖を検討」しているとも報じられていますが、今回は同グループに属するアウディが(Q8 e-tronなどを生産する)ベルギーのフォルスト工場の売却を検討しているとの報道。※この工場の閉鎖はすでに決まっているようで、工場の買い手が見つからなければ、2025年に最後のQ8 e-tronが出荷されたのち、従業員2,910人が解雇されることも伝えられている

フォルクスワーゲン
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そしてその買い手候補は中国の「NIO」である

報道によれば、アウディはこの工場の売却先を「積極的に」探しており、そして驚くべきことに、この工場の買い手の筆頭候補は中国の新興EVメーカー「NIO」。

過去数週間、NIOの代表団が該当工場の敷地を訪問しており、9月23日までに正式に買い取りの申し出を行う予定だとされていますが、そうなると「欧州の自動車メーカーは中国車の進出に苦しみ、結果として工場を手放し、その工場を手に入れるのは中国の自動車メーカーで、そして中国の自動車メーカーが欧州で生産を行うことで(関税を回避でき)「さらに欧州において存在感を強めることに」なることも考えられます。

これはまさに「負のスパイラル」とも言える現象であり、欧州自動車メーカーにとっては「悪夢の連鎖」としかいいようがないのかも。

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NIOとアウディとは「皮肉な関係」にある

今回売却の対象となるフォルスト工場はブリュッセル首都圏を構成する19の自治体の1つに位置し、「フォルスト」とはフラマン語での地名であるフランス語で「森」を意味しています。

そしてこの地方の人口が(2020年ですが)わずか56,581人であることを考えると、この工場はおそらくこの地域で最大ではないにしても、最大の雇用主の1つであり、地元自治体としても「工場を閉鎖」し大量失業を出すわけにはゆかないのかもしれません。

一方のNIOは2021年に第1世代の”ES8”をノルウェーに納入して初めて欧州市場に参入し、それ以来、同社はさまざまな欧州市場に第2世代の車両を多数導入してきたものの、現時点では成功したとはいいがたく、6月のドイツにおける登録台数はわずか44台で、これに対しBYDは425台、(欧州でもっとも成功している中国製EVブランド)MGは5,158台という数字です。

さらにNIOにとって不都合なことに、今年7月以来、NIOは輸入中国製EVに対するEUの関税の対象となっており、EUの協力企業ではあるものの独自の税率を与えられていないNIOは、現在のところ既存の10%の関税に加えて20.8%の関税を課せられており、これによってさらに販売が鈍るのは「必至」。

そしてEUは現在、今後5年間のより恒久的な関税を批准する手続きを進めていて、これらが変更されずに通過した場合、NIOは21.3%の税率を課せられることになるわけですね。

ただ、NIOがこのアウディの工場を買い取ってフォルスト工場での生産を開始すれば、EVに対する21.3%の関税と、中国からの輸入車に対する一般関税10%の両方を回避でき、つまりNIOは欧州市場において中国の(中国で生産し、欧州へと輸入を行う)ほかのライバルに対して大きなアドバンテージを得ることが可能となります(たとえ生産コストが上昇したとしても)。

マクサス
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| こういった報道を見るに、中国の自動車メーカーが不当な保護を受けていると捉えられても仕方がない | 政府の支払った補助金は産業の保護にはならなかったかもしれないが、内需の拡大にはつながったであろう ...

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しかしながら現在「好調とは言えない」NIOにとってこの工場を買収することは容易ではないはずで、中国政府の補助、そしてアウディの譲歩、(失業者を出したくない)地元の援助が必要となり、まだまだこの工場取得については予断を許さない状態なのかもしれませんね。

参考までにですが、アウディとNIOとは因縁浅からぬ関係にあり、NIOが欧州市場に参入するにあたり、アウディはNIOが使用する予定であった「ES6」「ES7」という車名につき「アウディの製品と酷似している」という訴訟を起こし、これを受けてNIOが車名の変更を検討した事例が存在します。

もちろんNIOはこの苦い経験を覚えているはずで、NIOはアウディに対しプラスの感情は持っていないのかもしれません(ただしそこはビジネスとして割り切るであろう)。

中国NIOとの商標問題にて勝訴したはずのアウディ。ただし欧州連合知的財産局(EUIPO)がNIOの主張を認めて逆転敗訴することに
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参照:De Tijd

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