| まさかこんなクルマが存在していたとはまったく知らなかった |
メルセデス・ベンツはファンが多く、もしかすると意外と人気化する可能性も
さて、大御所の開催するオークションにはときどき「とんでもない」レアカーが登場することがありますが、今回紹介する「メルセデス・ベンツ・ボシャートB300 ガルウイング」もそのひとつ。
このボシャート(Boschert)はゲンバラやケーニッヒのような「チューナー的コーチビルダー」で、1989年にたった一台だけ300CEをベースにしたガルウイング仕様を製作しており、今回その個体が競売に登場しているわけですね。
なお、その予想落札価格は希少価値を反映してか「安くはなく」、最高で30万ユーロ(現在の為替レートにて約4800万円)というエスティメイトが出されています。
メルセデス・ベンツ・ボシャートB300はCE300のハイパワーバージョン
メルセデス・ベンツとガルウイングとの歴史は古く、1952年に登場した300SL(レーシングカー)にまで遡ることができますが、このドア形状を採用した理由は「ボディ剛性を強化するためにサイドシルを太く高くしたら、普通の横開きドアを取り付けることができなくなり、もし取り付けてもドアの上下が”細くなって”ドライバーが乗降できないためにこの形状を考案した」というもの。
つまりはデザイン上の理由ではなく、競技上の必然性であったわけですが、そのインパクトの強さから「デザイン上のアイコン」としてこれが捉えられ、メルセデス・ベンツのその後の市販車やコンセプトカーに広く取り入れられることとなっています。
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メルセデス・ベンツが市販車に「ガルウイング」を投入したのは1955年のSL300ガルウイング、そしてそこから時間が空いて2010年のSLS AMGとなり、その空白期間について、もしメルセデス・ベンツユーザーが「ガルウイング」を望むならばコーチビルダーに製作を依頼するよりもほかになく、実際に1980-1990年代にはスタイリング・ガレージやスバーロといった「ガルウイング化を行う」会社も存在したもよう(ベースには500SECを使用する例が多かったようだ)。
そしてこのボシャートもそういった会社のひとつであり、しかしボシャートは(500CEよりも)ひとつ小さな300CEをベースとし、(300SEに搭載される)V6エンジンをツインターボで加給したことが大きな特徴。
なお、この「ガルウイング」はオプションであったといい、つまりボシャートB300は「300CEのハイパワー、そして豪華バージョン」という位置づけであったものと思われます。
ちなみにノーズはR129型SLからの移植で・・・。
シートもまたSLからの流用という仕様を持っており、「コンパクトなSL」といった印象も。
顧客が注文したボシャートB300 ガルウイングは「ゼロ」
ボシャートはオプションのガルウイングを装着した個体(今回出品されている車両そのもの)を1989年のフランクフルト・モーターショーへと出展しますが、あまりに高価であったため(新車のSL500よりも高価だったという)、そしてSLの326馬力に対して283馬力しか発生できず、さらにはSLの「V8」に対しエンジンがV6であったことなども影響して「予定販売台数300台であったところ10台しか」売れず、しかも最大の目玉であったガルウイングをオプションでオーダーした顧客はなんと「ゼロ」。
ガルウイング化に際してはCEピラー位置の変更を行った上でルーフとサイドシルを強化しており、つまりは「大改装」が行われることに。
これに起因してコストが異常に高くなってしまったのだと思われます(当時の提示価格は不明)。
かくして、このボシャートB300 ガルウイングは「展示用に製作されたこの1台のみ」が存在するのみとなってしまったわけですね。
ただ、細部を見てみると「高くなる」それなりの理由もあるように思われ、フロントグリルやトランクフード、ホイールセンターキャップなどに使用されるエンブレムはボシャート専用(スリーポインテッドスターにちょっと似てる)という芸の細かさ。
トランクリッド上には専用エンブレム。
けっこう細々としたパーツも専用品へと変更済み。
ステアリングホイール上のエンブレムも変更されていますね。
コクピット内は「総張り替え」そしてメーターもカスタム品が装着されています。
さらにはドアミラーの位置とサイズまでぴったり合った専用ボディカバーに・・・。
各種カタログに・・・。
スケッチまで。
こういった付属品を見るに、当時いかにこのクルマが期待されていたかがわかりますが、今回のオークションは「悲運に終わったコーチビルドの一例」を手に入れることができる数少ないチャンスかもしれません。
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参照:RM Soherby's