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ポルシェ「中期的には、充電時間15分、走行1,300kmのEVを実現できる」。ただしそうなれば充電器も新しくする必要があり、現在のEVやインフラは一気に旧世代へ

2023/05/18

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| ガソリン車では起こり得なかった「完全世代交代」がEVでは容易に起こりうる |

PCで言えばハードディスクからシリコンメモリーになるくらいの劇的な変化だと推測される

さて、ポルシェのエンジニアが「中期的にはバッテリー技術が向上し、1,300キロ走行分のチャージを行うのに15分もかからなくなる可能性がある」とコメント。

これはポルシェ・エンジニアリング・マガジンにて紹介されたもので、ポルシェのバッテリースペシャリストたちが、現在および次世代のバッテリー技術、そして未来のタイカンやマカンEVなど、同社のEVが将来に向かうべき方向について示した中での発言です。

ここでポルシェのエンジニアたちは、現在の技術ではリチウムがバッテリー技術においてある意味の到達点であることを示しつつ、しかし中長期的な改善点が存在することについての説明を行っています。

やはり解決策は「シリコン」

ポルシェのエンジニアによると、中長期的なバッテリー性能向上の秘策は「シリコン」。

これは負極の最適化のため、現在のグラファイトの代わりにシリコンを使用することを指しており、ミュンスター大学MEETバッテリー研究センターの商業・技術ディレクターであるファルコ・シャッパー博士によると、シリコンアノードはバッテリー容量を10倍にし、15分以下の充電時間を可能にする、とのこと。

一方、シリコンはリチウムを吸収すると300%も膨張するため、電極が損傷してバッテリー寿命が短くなる可能性があることについても触れています。

しかしながらこれを解決するための方法があり、それがソリッドステートバッテリー(全固体電池)。

セパレーターに収容された液体電解質の代わりに固体電解質マトリックスを使用することになりますが、これによって電池は軽量化されるだけでなく、よりコンパクトになるわけですね。

さらには液体を使用しないため安定性が高く、火災の危険性も低くなるそうですが、ポルシェエンジニアリングのバッテリーセル専門エンジニア、シュテファニー・エデルベルク博士によれば「ソリッドセルの計画では、従来のセパレーターは完全に固体電解質の薄層に置き換えられます。固体電解質は、電解質とセパレーターの両方を兼ね備えているのです」。

この技術により、エネルギー密度が最大50%向上し、充電時間が大幅に短縮されると報告されており、この技術によって実現されたリチウムベースの全固体電池(ソリッドステートバッテリー)は、「リチウムイオン電池の本格的な代替品」になると見られています。

参考までに、現在のリチウムイオンバッテリーとシリコンアノードを組み合わせたとされる「過渡期の」バッテリーについてはすでに製品化がなされ、ポルシェはマカンEVにこれを搭載する、と報じられていますね。

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ただし全固体電池の実用化はまだまだ「遠い」

しかしながら、理論上では「実現できる見込み」であったとしても、実際に実用化に結びつかないのがソリッドステートバッテリー。

トヨタ、日産、BMWはこの実用化にかなり近いポジションにあると言われているものの、一方で「安全性に難があり」使用しないと宣言したのがマセラティ。

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加えて、バッテリーメーカーも「まだまだ実用化の目処は立たず、よってこれに移行するまでの代替手段を模索すべき」というコメントを出したほど実用化には困難が待ち受けているようですが、ソリッドステートバッテリーの実用化にはいくつかのブレークスルーが必要であるとされています。

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(ポルシェが共同にて研究を行っていると思われる)ヘルムホルツ研究所(HIU)の所長、そしてカールスルーエ工科大学(KIT)のエネルギー貯蔵システム研究ユニットの責任者であるマクシミリアン・フィクトナー教授によると「中期的には、新しい負極化学とセルの高密度実装の組み合わせにより、車両の航続距離が1300kmになると予想されます」と述べ、前出のファルコ・シャッパー博士は「航続距離が30~50%伸びる」ともコメントしているので、このソリッドステートバッテリーが非常に有用であることは間違いなさそうですが、この大容量バッテリーに充電するには専用の急速充電器が必要だとされ、こちらの開発もまた「一つの課題」。

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バッテリーメーカーであるセルフォース・グループのマルクス・グラフCOOは、「現在のタイカンでは、5%から80%までの充電で22.5分という充電時間を達成することができていますが、シリコン使用したバッテリーでは、中期的だと15分以下、長期的にはさらに大幅に短縮することが可能です。ただし新しい充電器が必要ですが」と述べていて、新しいレベルの急速充電を達成するには「確実に電力を伝導できるよう、アクティブ冷却を備えた充電器が必要」だとも。

そして、こういった識者の発言を見るにつけ、改めてバッテリーそして充電器が発展途上にあることがわかりますが、これらの発展によってどんどん既存のEVや充電器の能力が相対的に劣化してゆき、やがては「既存インフラと互換性がない」EVや、「既存EVを充電できない」充電器が登場するのかもしれません。

そうなれば既存EVから乗り換えたり、既存インフラを「作り直す」必要も出てくる可能性があり、色々とムダや不便が生じることになるのかもしれず、しかしこれも進歩の過程で必要となる「やむをえない犠牲」のでしょうね。

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参照:Porsche Engneering Magazine

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