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フォルクスワーゲンがはじめて「アメリカ市場向けにデザインの自由度を持たせる」。同市場専任デザイナーとしてホセ・カルロス(JC)・パヴォーンが就任

2023/05/10

フォルクスワーゲンがはじめて「アメリカ市場向けにデザインの自由度を持たせる」。同市場専任デザイナーとしてホセ・カルロス(JC)・パヴォーンが就任

| アメリカ市場は独特の嗜好をもち、専売車種も多いため、「小型車が好まれる」欧州市場とは分けて考えられることに |

これだけ市場別の好みが分かれるようになると、そもそも本社一括でのデザイン管理が難しい

さて、フォルクスワーゲンが「フォルクスワーゲンの北米と南米におけるデザインのリーダーとして、ホセ・カルロス(JC)・パヴォーンを任命する」と発表。

フォルクスワーゲンはこれまで本社にてデザインの最終決定を行っていたものの、今後北米と南米(アメリカ大陸)では独自のデザイン採択権が与えられるということを意味し、これは同ブランドでは「初」、そして自動車業界でも極めて稀な例だと認識しています。

現代の自動車は、多くの場合ワールドワイドにて販売することになり、よって「世界中で幅広く人気を獲得できるような」デザインがなされることが通例となっており、よって多くの自動車メーカーは、本社所在地の他、欧州、アメリカ(カリフォルニアが多い)、中国にもデザインスタジオを設け、新型車開発の際には各地のデザインスタジオから案を提出させ、それらをミックスしてひとつのクルマに仕上げる例が多くなっているといいます。

現代の自動車におけるデザインプロセスは非常に複雑

よって、現代の自動車は「誰がデザインしたもの」といい切ることが難しくなっていて、たとえば初代マツダ・ロードスター(NA)は「カリフォルニア案と横浜案を混ぜてブラッシュアップしたもの」だとされており、よってデザイナーとしては「このクルマの、この部分をデザインしたのは自分なんだよね」くらいにしか作品を語れなくなっているのかもしれません。

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こういった傾向は規模の大きな自動車メーカーに顕著であり、その場合は「チーフデザイナー」が世界中のデザインスタジオから出てきたデザインを調整し、最終的にそのブランドの方向性やデザイン言語にマッチしたものへと仕上げることになるわけですが、そうなると最大公約数的な、差し障りのないデザインに落ち着くことも少なくはないものと思われます。

となるとデザイナーとしては「デザインという仕事」にダイナミズムを感じられず、結果的に「より小さな自動車メーカー」「デザイナーの権限が大きな、韓国や中国の自動車メーカー」へと移ることになるのですが、フォルクスワーゲンはとくにデザイナーの辞職が多く、デザイナーの空洞化が起きている自動車メーカーだという印象も。

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フォルクスワーゲンは多様性を重視

そんなフォルクスワーゲンですが、ラインアップするモデルも非常に多く、そして販売の対象が「ニッチ」ではなく「不特定多数」という特徴を持っており(つまりは大衆車メーカーである)、さらには市場によって販売するモデルも異なります。

たとえば北米だとコンパクトクラスのいくつかのモデルは販売されず、かわりにアトラスのような大きなSUVが投入されているわけですが、よくよく考えると「クルマごとに販売する地域が異なるのに、それぞれのクルマを本社で一括してデザインする」というのはちょっと無理があるのかも(フォルクスワーゲンの場合、フェラーリやランボルギーニのように、個性が強く、その個性を持ってファンや市場を牽引するブランドとは根本的に異なる)。

そしてアメリカはアメリカならではのデザイン的嗜好を持っていて(一般的に尻下がりであったり、流線型であったり、車種によってはワイルドなデザインが好まれる。室内においても独特の嗜好がある)、であればアメリカで販売するクルマはアメリカでデザインしたほうがいい、と考えるのは至極当然なのかもしれません。

そこで今回の人事となったわけですが、フォルクスワーゲン・グループ・オブ・アメリカのCEOであるパブロ・ディ・シ氏によれば、「今後デザインは、市場特有のニーズに合わせてクルマを設計する上で、さらに大きな役割を果たすことになるでしょう。ホセ・カルロス(JC)・パヴォーンは、ドイツ、米国、ブラジルでの経験から豊富な経験を持ち、我々の消費者の心に響く製品をデザインしてきた素晴らしい実績を持っています。そして、アメリカ独自のデザインを採用することは、アメリカでの成功のために必要なことなのです」。

これまでのフォルクスワーゲンでは市場別の自由裁量が大きくはない

加えて同氏は、アメリカ市場における意思決定を行うために「ドイツの誰かと戦う必要がなくなる」とも述べており、これまでは「アメリカ市場ではこのデザインのほうが売れる」とドイツ本社に上申したとしても、「それは理解できないな」「本国の考え方に合わせろ」といった感じで却下され続けてきたのかもしれません。

パブロ・ディ・シCEOは、昨年夏にスコット・キョウ氏からフォルクスワーゲン・グループ・オブ・アメリカを引き継ぎ、2030年までに北米市場の10%のシェアを取るという目標を課せられているそうですが、今回の「アメリカ市場での決定権の獲得」はそのための重要なステップということになりそうですね。

フォルクスワーゲンによると、ホセ・カルロス(JC)・パヴォーンはVWグループに21年間在籍し、その間は同社のブラジル、ドイツ、米国のデザインスタジオでの勤務経験を積み、2013年から2016年にかけては、米国でのエクステリアデザインの責任者を務め、第6世代のジェッタと米国市場のパサートセダンに関わったと紹介されています。

一方、南米市場向けとしては、VWニバス/タイゴの設計を陣頭指揮したと報じられ、これは南米で設計され、ヨーロッパで生産された史上初のフォルクスワーゲン車だそうで、今回の任命についてはこういった経験が高く評価されたことも想像に難くありません。

ホセ・カルロス(JC)・パヴォーン氏自身は、「サンパウロで生まれ、ヴォルフスブルクのVW本社で7年、デザインセンター・カリフォルニアで5年、VW南米のデザインディレクターとして7年働いた経験から、それぞれの地域のトレンドや要求について正しく理解しています。ヴォルフスブルクのデザイン本部とのコミュニケーションは、地域の好みとフォルクスワーゲンのDNAを完璧にバランスさせるための鍵でなのです」とコメントし、新しい役割に対して意欲を見せています。

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参照:Autonews, etc.

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