| 330Pのほか、250LMなどフェラーリの同時期のレーシングカーの面影が強く感じられる |
このディーノ206S”シャシーナンバー032”が売りに出されるのは10年ぶり
さて、ロードカーとしての「ディーノ(206 / 246)」は非常に有名ですが、あまり知られていないのがレーシングカーとしての「ディーノ206S」。
フェラーリはこのディーノ206Sを、FIAの2リッター・グループ4クラス用に開発された新しいスポーツ・レーシングカーとして1966年2月にデビューさせています。
これはフェラーリ330Pの縮小版とも言えるもので、1965年に登場したディーノ206SPの発展型という位置づけとなっていますが、ディーノ206SPに比較して重量が50kgも軽くなっており、大幅に戦闘力を増すことで数々の勝利を納めたマシンです。
ディーノ206Sはこんなクルマ
もちろんこのディーノ206Sに積まれるV6エンジンは、エンツォ・フェラーリの愛息である”ディーノ”が病床にて出したアイデアがベースとなっていますが、ヴィットリオ・ヤーノとの共同設計にて世に送り出されており、ディーノ206SPやディーノ206Sのほか、F2マシンに搭載されたほかF1マシンにも搭載され、1968年にはワークスドライバーのマイク・ホーソーンがドライバーズ・ワールド・チャンピオンを獲得したことも。
1960年代前半のフェラーリF1マシンは、テクニカルディレクターであるカルロ・キティが設計した120度V型6気筒エンジンを搭載していたものの、しかしその後の196スポーツ、246スポーツ、ディーノSP、166Pなどのスポーツプロトタイプでは、ヴィットリオ・ヤーノ設計の65度 V6”ディーノ”エンジンが使用されることが多くなっており、さらにこのエンジンはF1から直接のフィードバックを受けた燃焼室を持つなど、非常に先進的な作りを持っていたと言われます。
1966年のレースシーズンに発表されたディーノ206Sは、モデナのピエロ・ドロゴ率いるカロッツェリア・スポーツカーズの手によって仕上げられていますが、ピエロ・ドロゴは、溶接されたチューブ状のセミモノコック・シャシーに応力合金パネルとファイバーグラスを組み合わせた空力的なボディシェルを作ってディーノ206Sをより機敏なクルマに仕上げることに成功しています。
1966年のレースシーズン終了時には、この206Sはタルガ・フローリオで2位、ニュルブルクリンクで2位と3位、スパ・フランコルシャンで6位を獲得するなど、その高い実力を証明していますが、当初50台の(ホモロゲーション獲得のため)製造が予定されていたものの、労使問題から18台で生産が打ち切られたという背景を持っており、つまりは「非常に」希少なクルマ。※最近だと2020年に1台が売りに出されたことは記憶しているが、それ以外の記憶はない
そのため、オークションでもめったにお目にかかることができないのも事実であり、しかしこのディーノ206Sはは、「ディーノ」「フェラーリ」両方のブランドにおけるレースカーの発展過程における重要なマイルストーン、またその後のフェラーリ製(ミドシップ)ロードカーの礎となったという認識がなされています。
この個体はピエロ・ドロゴが手掛けた206Sの最終モデルとして18台のディーノ206Sの中でも特別な存在であり、18台のうち2台がピニンファリーナ製、3台がクーペ、そして13台がこのピエロ・ドロゴ・スパイダー。
このディーノ206Sはこんな歴史を持っている
ルーカス製フューエル・インジェクションを搭載したこのシャシーナンバー032は、ナポリ在住のコラード・フェルライノに(当時)新車で売却されており、コラード・フェルライノはイタリアのエンジニアであり不動産開発業者でもあったほか、後にイタリアのサッカーチーム、SSCナポリのオーナーとなったこと、そしてディエゴ・マラドーナを招聘して数々の優勝をもたらし、マラドーナをサッカー史に残る偉大な選手に育て上げたことでも知られます。
フェラーリの歴史家、マルセル・マッシーニの研究によると、このディーノ206S”シャシー032”は、1966年から67年にかけてイタリアのヒルクライムに参戦していたことがわかっており、その後1968年11月にフェラーリ・ファクトリーで整備が行われ、1970年代には別のイタリア人オーナーに売却されたという記録が残ります。
1979年にはフランスのフェラーリ・コレクター、(フェラーリ・スポーツ・レースカーの最大かつ最も重要なコレクションを持つという)ピエール・バルディノン氏がこのディーノ206Sを購入し、自身のコレクションに加えることに。
1980年代になると、このディーノ206S シャシー032は、パリの著名なフェラーリ・コレクター、ジャック・セトン氏に売却され、彼は自らも偉大なF1コレクションを持ち、特にディーノ・エンジンのファンであったのだそう(色々なコレクターがいるものだ・・・)。
その後、250テスタロッサと250LMを所有していたイギリスの愛好家、ロブス・ランプロウ氏に売却され、このディーノ206Sは約10年間、彼のガレージにて過ごしますが、2001年になると同じイギリスのコレクターであるカルロス・モンテベルデ氏に売却され、フェラーリ・ヒストリック・チャレンジに何度か参戦したことも判明しています。
ただ、このチャレンジレースでは不幸にもクラッシュを喫してしまい、これを機に(2003年に)英国でレストアされることになり、その10年後にはアメリカの極めて著名なコレクションに収められ、2014年にはフェラーリのファクトリーでフルレストアされたうえで正しいスペックを持つディーノ206エンジン、マッチングナンバーのギアボックス、オリジナルのボディとシャシーを備えていることが記された(フェラーリ・クラシケによる)レッドブック認定を取得することに。
そして今回、このディーノ206Sは10年以上ぶりに売りに出されることになるのですが、この出品は、1960年代の最も美しいレーシングカーのひとつとして広く知られているこの固体を手に入れることができる、極めて稀なチャンスと言えるかもしれません。
ディーノ206Sは、フェラーリの伝説的な330 P3/P4に直接由来するデザインを持っており、その希少性から見てもコレクション価値はほかのフェラーリのレーシングカーに劣るものではないと思われます。
加えて、車体、エンジン、トランスミッションがマッチングナンバーを持つこと、様々なモータースポーツに参戦した実績があること、フェラーリにてレストアされた実績があること、レッドブックを取得していることなど、あらゆる観点から見ても魅力あふれる一台であり、「目をみはるような」価格で落札されるかもしれませんね。
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参照/Photo:Ferrari, RM Sotherby's