1972年、フェラーリはスポーツカー選手権で「10戦10勝」を挙げながらもル・マンを欠場。もし出場していれば勝利が確実視されていたのに「なぜ欠場したのか」がいま明かされる

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｜　フェラーリの歴史においては、ときに多くの「謎」が存在する　｜

1972年、フェラーリが世界を圧倒した年でもあった

さて、フェラーリはそのモータースポーツの歴史においていくつかの「浮き沈み」を経験していますが、スポーツカー選手権において「もっとも圧倒的な成績を残した」のが1972年かと思います。

このシーズンに使用されたマシンは「312 P」で、これは1969年の312 Pからの（マウロ・フォルギエリを中心としたチームによる）大幅改良版。

スポーツカー選手権のレギュレーションが変更されたため、F1マシンに使用されていたエンジンの設計を見直した「450馬力、2,991cc」というスペックを持つ12気筒ボクサーエンジンを作り上げ、これを搭載することで「スポーツカー世界選手権（WSC）で全10戦全勝」という前人未到の快挙を成し遂げた伝説的なシーズンとなったわけですね。

• 全レースでフェラーリが表彰台にダブルフィニッシュ
• 8戦で1位・2位フィニッシュ、モンツァでは1位・3位
• ゼルトヴェグでは、トップ4全てがフェラーリ

ただ、この312 Pについてはいくつかのナゾがあり、ここでそれらを見てみましょう。

これだけ速かったのに、なぜ312 Pはル・マンに出場しなかったのか

まず、この312 Pはこれほどまでの圧倒的支配力を見せながらも「その年のル・マン24時間レースに出場せず」。

もしも出場していたならば圧倒的な勝利をもたらすことが確実視されていたにもかかわらず欠場しており、フェラーリは今回、新たに発見されたというエンツォ・フェラーリ自身が手書きで記したメモ、そしてプレスリリースから当時を振り返ります。

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これによると、この年フェラーリが312 Pをル・マンに出場させなかったのは「技術的な問題」からだとされ、「新しい水平対向12気筒エンジンが24時間耐久走行の検証を完了していなかったから」。

フェラーリは1972年、次のように公式発表を行っています。

「ル・マン24時間レースは、フェラーリ312 Pの技術的およびスポーツ的プログラムに統合することができません。したがって、やむを得ず欠場する決断をしました。」

さらに、NART（ノースアメリカン・レーシングチーム）が312 Pで出場するのでは？ という噂も流れましたが、フェラーリは6月5日に改めて否定。

「312 P ボクサーユニットは7台のみ製造されており、販売も貸与もしていません。」

つまりワークスしか312 Pを所有しておらず、ワークスとして出場しない以上、1972年のル・マン24時間レースを312 Pが走ることはない、と示しています。

フェラーリ312 Pは「312PBではない」

なお、このフェラーリ312 Pは「312PB」と表記されることもあるのですが、これは当時、プレス関係者の間でこの新型レーシングカーを「312 PB（ボクサー）」と呼ぶ誤解が広まったから。

ただ、フェラーリの広報責任者フランコ・ゴッツィが（1972年1月25日付の）公式文書で明確に否定したという記録も見つかっています。

「正式名称はあくまで『312/P』であり、『B』はF1カーの識別に使用するもの。」

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フェラーリ・アーカイブに眠る驚きの物語

フェラーリの歴史には、時を超えて語り継がれる伝説が数多く存在し、マラネロに保管されているフェラーリ・アーカイブでは、時折、「知られざる当時の事実」が発見されることも。

今回の「312 Pにまつわる物語」もそのひとつだと考えられますが、この「312 P関連フォルダ」には、エンツォ・フェラーリ自身が紫色のインクで記した手紙やドキュメントが多数残されており、黄ばんだ紙の一枚一枚がその歴史を物語るかのようですね（エンツォ・フェラーリは紫のインクを愛用したことでも知られている）。

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参考までに、エンツォ・フェラーリは若かりし日「スポーツライターになりたかった」と述べており、そしてスポーツライターを目指したこともあっただけに（実際にスポーツ紙に寄稿したこともある）文才に長けていたとされ、その文才を活用して巧みにメディアを操ったという記述が（いくつかの伝記で）見られます。

そのためには記者（ライター）すべての記事を読み、記者ごとに「フェラーリに対してどのような印象を持っており、フェラーリに関してどのような記事を書いているか」を分類していたそうで、それら記者の特性をうまく活用して「自社に有利な記事を書かせたり」「記者を利用して世論を操作しようと試みたり」したとされますが、フェラーリ365GTB/4「デイトナ」についても、実は事前に特定に記者に対して「デイトナ」という名称をリークし、結果としてその名を広めさせたというウワサもあるもよう（デイトナはフェラーリが公式に発表した名称ではないが、通称名として認知している）。

加えて、「312PB」という名称に関し、誤解を正す声明を出していることからも、フェラーリが当時すでにプレスリリースを重要視するとともにメディアの重要性を理解していたのだと解釈することができ、「フェラーリという存在のブランディング」含め、エンツォ・フェラーリは非常に先進的な（30年以上時代を先取りした）思想を持つ人物であったこともわかりますね。※いま存命であれば、イーロン・マスクに負けないくらいSNSを使いこなしていたであろう

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参照：Ferrari