| 何本も腕時計を購入するよりリシャールミルを一本買ったほうがいいかも |
リシャールミルの腕時計はなぜそんなに高いのか?その価格に見合うのか?という動画が公開に。
この動画では、その理由について3つに分けて解説しており、その理由とは「テクノロジー」「生産数」「マーケティング」。
リシャールミルは2001年創業という新しい腕時計メーカーですが、創業者のリシャール・ミルは腕時計職人ではなく、本人曰く「コンセプター」と名乗っています。
コンセプトに合致した腕時計を製造することを目指していて、単にその結果として高価になってしまったという類の製品であり、目指すところはズバリ「腕時計のF1」。
妥協のない素材選定や加工で知られ、その価格は安価なものでも1000万円くらい、高価なものだと「数億」。
おまけに年々その価格帯は上昇しており、今後もさらに(新品の)価格、中古価格ともに上がってゆくものと思われます。
ちなみにリシャールミルは独立を貫いている腕時計メーカーで、もちろん大手グループから買収の話が多数あるようですが、しかし「どこかの傘下に入ると、やりたいことができなくなるから」という理由で断り続けているようですね。
リシャール・ミルはなぜ高いのか(1)〜テクノロジー
そしてリシャールミルが効果になる理由、その1。
リシャールミルの腕時計には「チタン」が多用されますが、これは軽量性と強度との両立が大きな理由。
そしてよく言われるのが「チタンなんおに、なんでこんなに高いんよ・・・」ということ。
チタンの価格はステンレススティールの1.2〜1.5倍位が「通常」であり、ゴールドやプラチナのほうが高価になるのが通常です。
ただしリシャールミルの場合は、チタン製ケースであっても貴金属並かそれ以上の値付けを行っていて、これが「ボッタクリ」と言われているわけですね。
ただ、リシャールミルに使用されるチタンは、同じチタンでも航空機グレードだとされており、つまり「質が違う」ということに。
このあたり、ひとくちに「ダイヤモンド」「牛肉」といってもグレードによって価格が違うのと同じと考えればわかりやすいかもしれません。
ちなみにケースを固定するボルトもチタンが多用されますが、この”直径1ミリ以下の”ボルトの価格は1本2万円程度だそう。
参考までに、フェラーリやランボルギーニに使用される、ホイールを固定するボルトの価格は1本1万円くらいなので、いかにリシャールミルのボルト1本にコストがかかっているかがわかります。
その結果としてリシャールミルの腕時計は、チタン製のもの(モデルによっても差はあるが)、かつトゥールビヨン搭載でも37グラムくらい。
ロレックス・デイトナの重量が200グラムくらいなので、その軽さは「驚きのレベル」だと言えます。
ただ、軽いからといって強度を犠牲にしているわけではなく、ラファエル・ナダルやフェルナンド・アロンソが身につけて試合やレースに臨み、その強烈なサーブやF1マシンの振動に耐えうることも立証していますね。
そのほか、積層カーボンやサファイアクリスタルをケースに採用することも多く、しかしこれらのグレードも当然ながら「考えうる最高レベルの素材」となっています。
ちなみにリシャールミルの「精度」ですが、これはなんと「月差プラスマイナス20秒」。
つまり一日あたり0.7秒以下ということでになりますが、ロレックス・デイトナだと”日差で”プラスマイナス2秒。※スイス クロノメーター検定協会(COSC)の規定だと日差でプラスマイナス4〜6秒
なお、マスタークロノメーター認定を持つオメガ・シーマスター・ダイバー300Mマスタークロノメーターだと日差プラスマイナス0〜5秒。
けっこう許容誤差に幅があるようにも思いますが、オメガの”マスタークロノメーター”認定モデルはかなり正確だと考えて良さそうです(しかもケタ外れの耐磁性能を持つなど、改めてオメガの性能には驚かされる)。
リシャールミルはなぜ高いのか(2)〜生産数量
リシャールミルの腕時計は生産数量が非常に少ないことで知られ、その数は年間でおおよそ4,000〜5,000本。
機械式腕時計を作る場合、多くは「工具から」製作することになりますが、そのコストは「生産本数」で按分し、原価に乗せることになります。
そのほか作業スペースや説明書の製作費用、職人の報酬、諸々の費用も原価として生産本数で割った上でコストとして算入され、しかし生産本数が少なければ少ないほどこの金額が高くなるのは明白。
クルマで言えばブガッティのようなイメージですね。
なお、リシャールミルの場合は上述のように「高い精度」を掲げており、ケーシング後のテストにて精度含む様々なテストに「不合格」となれば容赦なく廃棄され、その前の「パーツ単体の段階」でも精度検査に相当数が落ちると言われ、その分のコストも出荷される製品に乗せられることに。
ただ、これはリシャールミルのサプライヤーや組み立て品質が高くないというわけではなく、単にテストが厳しすぎる(合格点が高すぎる)から。
ほかのウォッチメゾンだと「じゅうぶん合格」となるレベルであっても、リシャールミルでは「不合格」とされるほど基準の差があるのでしょうね。
リシャールミルはなぜ高いのか(3)〜プロモーション
リシャールミルは「新しい」腕時計メーカーであり、最高の素材や最高のテクノロジー、最高の品質を掲げてはいるものの、いかにいいものを作ってもそれが知られなければ売れようがないのもまた事実。
そしてリシャールミルの場合は発売当初から「平均価格帯1000万円以上」を掲げていたので、当然ながらそのプロモーション対象はそのお金を払える人ということになり、よって起用する”パートナー”も超一流ばかり。
バッバ・ワトソン、ラファエル・ナダル、フェリペ・マッサやセバスチャン・オジェといったゴルフやテニス、モータースポーツ関連のトップ選手が多く、その他にはファレル・ウィリアムスやマーゴット・ロビーといった音楽・映画関係、さらにはモナコの王室関係者も名を連ね、要は「セレブが憧れるセレブ」を起用している、ということに。
この手法はウブロともよく似ていて、ウブロもまた「セレブをターゲットに」パートナーを起用し、セレブ向けの媒体にて広告を行ったことで、「セレブが身につける腕時計」というイメージが浸透したわけですね。
そのほかリシャールミルは、そのオーナーを「ファミリー」と呼び、様々なイベントを展開することでも有名。
これら費用が腕時計にプラスされることになり、これもまた「高価になる」理由となっています。
リシャールミルは「その価格に見合う」のか
そして今回の動画では、様々な要件を考慮すると、リシャールミルの腕時計は「いかに高価であっても、十分に価格に見合う」という結論。
これについてはぼくも異論はなく、リシャールミルは現代の「腕時計のあり方の変化」「価値観の変化」を示す端的なケースだとも考えています。
つまり、以前だと「腕時計はムーブメントが命」であって、そのデザインやブレスレットは二の次、もしくはムーブ意外ににこだわるメーカーは「ムーブメント軽視」もしくは「高性能なムーブメントを作る技術がないならほかでアピールしている」と受け取られる傾向があったものの、最近ではデザインの重要性が高く叫ばれ、かつ本体はもちろん、ブレスレットのデザインや素材までも含めた「全体」が評価されるように。
こういった価値観の変化をもたらしたのはベル&ロス、そしてウブロだろうと考えていますが、それらブランドの成功が「新規参入の障壁を下げた」とも考えられ、そこでジェイコブやリシャールミルといった、”新しい価値観を持つ”ブランドの登場そして成功につながったのだとも考えられます。
これは現代のスーパーカー/ハイパーカー事情も同じで、性能が高いからといってそのクルマが”いい製品”たりうるわけではなく、性能に加えてそのデザイン、バックグラウンドやスートーリーを総合した「ブランド価値」にて評価されるわけですね。
実際のところ現代における腕時計は「不要なもの」に分類され、単なる嗜好品となっていて、これもまたクルマと同じ。
時代の変化によって、腕時計もクルマも、そのあり方や購買層が変わってきていて、よって腕時計の評価方法もそれにあわせて変わってゆくべきなのでしょうね。
VIA:Jenni Elle