| このケーニグセグ「エンゲージ・シフト・システム」はMT信奉者への光明となるかも |
その構造はとんでもなく複雑であったようだ
さて、ケーニグセグはつい先日、最初の市販車である「CC8」へのオマージュである「CC850」を発表し、そしてあまりの人気っぷりに増産を決定したほどですが、このクルマがもっとも注目されている理由は「オートマチック・トランスミッション内にマニュアル・トランスミッション」を持つということ。
ベースとなるのはジェスコに積まれるライトスピード9速ATですが、これにMT操作機能(エンゲージ・シフト・システム)を加え、しかしMTだと「6速」として機能するというロジックです(ただし、ドライブモードによって使用するギアが異なり、すべてのドライブモードを使用すれば、9速全てを使用することになるらしい)。
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一時は「フェイク」だとも言われたが
このCC850に搭載されるマニュアル・トランスミッションはクラッチを備え、ケーニグセグによれば「通常のMTと同じ理論で作動する」とされていたものの、一部では「フェイク」だとも言われていて、つまりクラッチは飾りであって、よくある「ATにMTのロジックを持たせた」トランスミッションのように、スイッチによる変速であるとも報じられていたわけですね。
そこで我らがエンジニアリング・エクスプレインドの出番と相成るわけですが、かんたんに結論から言うと、ケーニグセグCC850が有するトランスミッションは「完全なる本物のマニュアル・トランスミッション」。
ケーニグセグ・ライトスピード・トランスミッションは非常に複雑な構造を持っている
なお、通常のマニュアル・トランスミッションは2本のシャフトと1つのクラッチを持ちますが、ケーニグセグのライトスピード・トランスミッションは3本のメインシャフトと各ギアごとのクラッチパックを持っていて、まずはクラッチを踏むと1本めのシャフトに連続されたクラチパックがすべて開き、そしてギアを入れるとエンジンからのダイレクトドライブシャフトとギアシャフトが接続され、ドライバーがクラッチペダルを離すと、2本目のギアシャフト上のどのクラッチパックを作動させるべきかを知らせる信号をコンピューターへと送ることに。
つまりクラッチを踏むと「クラッチが切り離されてパワー伝達が切断され」「シフトレバーによって自分でギアを選び(ただし、マニュアルシフト上の1速であったとしてもドライブモードによっては、それが9速のうちの1速なのかもしれないし、2速かもしれない)」、そしてクラッチペダルを離せばクラッチが繋がるというわけですね。
よって、クラッチを踏まずにシフトレバーを動かしても変速はできず、変速してもクラッチペダルを離さないと動力は伝達されないということになり、つまり「ロジックだけではなく、物理的に」本物のマニュアル・トランスミッションである理由がここにあります(さらに、シフトチェンジの際にエンジン回転数が不十分であればエンストも起こりうる)。
つまりはとてつもなく複雑な構造を持っているということになりますが、こういったトランスミッションを作ってしまうこと、実際に市販車に投入してしまうところはさすがケーニグセグ。
そしておそらくは(複雑ながらも)軽量に収まっているはずで、相変わらずケーニグセグはぼくらを驚かせてくれる、ということになりそうです。
コスト次第では今後のひとつの「ソリューション」に
なお、ケーニグセグがCCC850にてこのトランスミッションを投入してきた意味は大きく、というのもこれまでにも様々な「フェイク」トランスミッションが製作されてきたものの、それらは文字通りフェイクであって「本物ではない」ため。
そしてマニュアル・トランスミッションを欲している人々が(ぼくも含め)こういったフェイクMTに満足できるはずはなく、むしろ「偽物」認定するんじゃないかと考えています。
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さらに「偽物MT」にオプション価格を支払うとは考えられず、よってどうやってもフェイクは本物を超えるどころか、代わりにもならなんじゃないかと考えているわけですね。
ただ、このケーニグセグCC850のトランスミッションは紛れもない「本物」であり、多くの人にとってその価値を認めさせるだろうとも考えています。
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よって他の自動車メーカーもフェイクではなく、このエンゲージ・シフト・システムのように「本物」MT機能を持つATを開発し実装する可能性も考えられ、しかし問題はその「コスト」。
ケーニグセグのようなハイパーカーでは許されるコストが「一般の」クルマでは許されない可能性も高く、このシステムが普及するかどうかはそのコストにかかっているのかもしれません。
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参照:engineeringexplained