| さすがにこのジャガーXJ220Sの存在は今回はじめて知った |
ベースとなるジャガーXJ220そのものも現在は非常に人気のあるコレクターズアイテムとなっている
さて、1988年の英国国際モーターショーにて発表され、その後1時間で1,500人もの予約を集めたというジャガーXJ220。
発表当初のスペックは6.2リッター、12気筒、4WDというもので、目標値としての最高速は220マイル(時速354キロ。これが車名の由来となっている)。
デポジットは5万ポンドだったそうですが、上述の1,500人がこの保証金を払って納車待ちの列に並び、そのリストの中にはエルトン・ジョンやロッド・スチュワートの名もあったといいます。
ただしその後、景気失速でキャンセルの嵐に
しかしながら当時発生した世界的なリセッション(景気後退)を受けて受注が失速するどころか多くの顧客がキャンセルを行うことになり、ジャガーはなんとかこのXJ220を発売したものの、エンジンは12気筒から6気筒へ、そして駆動輪は4輪から2輪へと「半減」することになってしまいます。
ただ、最高速は220マイルに及ばなかったものの213マイルを記録し、0-60マイル加速は4秒以下という素晴らしい性能を持っていたこともまた事実で、この最高速は、マクラーレンF1が登場するまで世界最速でもあったわけですね。
そしてジャガーと協力関係にあった英国のレーシングファクトリー、TWRはそのポテンシャルの高さを見込んで1993年5月にXJ220の競技用モデル(XJ220C)を発表することになり、このレーシングカーはノーズ、テール、ボディパネルが完全に取り外し可能なカーボンコンポジット製で製造され、ケブラー製のレーシングシートを装着したむき出しのインテリア、さらにV6エンジンのアップグレードが施されるという内容を持っています。
製作された車両のうち3台がル・マン24時間レースに投入され、2台はリタイアしたものの、残りの1台はデビッド・ブラバム、デビッド・クルサード、ジョン・ニールソンのドライブによって2位に2周の差をつけてクラス優勝を果たし、しかし1ヵ月後に技術的な問題で失格となったことも。
5台のみ、XJ220Cのホモロゲーションモデルが作られる
TWRは、この3台の耐久レース用車両に加え、5台のロードゴーイングカーをホモロゲーション用に製作し、これをXJ220Sと名付けて1993年のオートスポーツ・レーシング・カーショーにて一般公開していますが、今回オークションに出品されるシャシーナンバー220779はそのうちの1台であり、ボディカラーは鮮やかな「アウトレイジアス・オレンジ」にペイントされています。
この個体はレーシングカー版と同様に、ドアスキンを除くアルミ製ボディをカーボンファイバー製コンポジットパネルに置き換えており、シャシーも同様に(強度向上の観点から)ワイドシルへと変更され、フロントスプリッターとアジャスタブルリアスポイラーで構成されるエアロダイナミクスパッケージが採用されることに。
これらの改良により、XJ220Sはダウンフォースを向上させるだけでなく、車両重量を1,080kg以下にまで低減させることに成功しており、3,498ccのV型6気筒エンジンは680馬力という驚異的な出力を発生するまでにチューンされ、ベースモデルとなる通常モデル比で138馬力以上ものパワーアップを果たしています。
このシャシーナンバー220779は1993年4月21日に完成しており、1998年2月にベルギーのコレクターに売却されるまでTWRに保管されていたとされますが、1999年11月にはベルギーからアメリカに輸出され、ヨーロッパ・オート・セールスを経由して、アメリカのキューリアン・モーターズに渡ったという記録が残ります。
さらに同月には再び別のオーナーに売却されることになるものの、次のオーナーは2007年までこのクルマを所有することに。
その後2007年から2012年まではカリフォルニ在住のオーナーによって保管され、その後は著名なコレクターであるジャスビール・ディロンが購入し、ジャガーXJR-15と一緒に保管され、その期間中にはモンタレー・カーウィーク中に展示されたこともあるのだそう。
ジャスビール・ディロンはこのジャガーXJ220Sを2018年まで保管し、その後現在の所有者が買い取って今回の出品となったそうですが、走行距離がわずか4,822kmに留まること、そして5台しか生産されなかった希少モデルということで(たしかに初めてこのクルマを見た)予想落札価格は最高で110万ポンド(日本円で1億8800万円くらい)という高額なエスティメイトが出ています。
ジャガーは現行モデルこそいまひとつ振るわないものの、かつては非常に豊かなモータースポーツの歴史を誇っており、過去のモデルはいずれも非常に高い相場にて取引されています。
そしてかなり早い段階で電動化に移行することも明かされており、「ガソリン時代の」名車は今後すべからくコレクターズアイテムとなることは間違いなく、このXJ220Sも非常に高い注目を集めることになりそうですね。
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