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EVのモーター構成を完全解説。シングルから究極の「クワッド」まで、モーターの数で走りはどう変わるのか?そしてモーターのガソリンエンジンに対する優位性とは

EVのモーター構成を完全解説。シングルから究極の「クワッド」まで、モーターの数で走りはどう変わるのか?そしてモーターのガソリンエンジンに対する優位性とは

| EVのモーター数は「パワーを増やす」だけではない |

【この記事の要約】

• EVは0〜18,000rpmという広範な回転域で高トルクを発揮するため、ガソリン車のような多段ギア(変速機)が不要

• モーターの数(シングル、デュアル、トライ、クワッド)によって、走破性やトラクション制御のレベルが劇的に進化する

• 究極の「クワッドモーター(4モーター)」は各車輪を独立制御し、その場での「タンクターン(超信地旋回)」すら可能にする

• 現代の自動車の駆動系は、重い機械式パーツから、1000分の1秒単位で制御する「デジタル(ソフトウェア)制御」へと革命的な進化を遂げている

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EVのモーターの数は何を意味するのか

ここ最近のEVの進化速度には目を見張るものがありますが、それと同時に「デュアルモーター搭載」や「最新のクワッドモーター」といった言葉を目にする機会が増えたかと思います。

しかし「モーターが増えると何がそんなに凄いのか」「出力が増えるだけじゃないのか」「バッテリーの減りが早くなるだけでは」と疑問に思う人も多いかもしれません。

実は、EV(電気自動車)におけるモーターの配置と数は、単なる「パワーアップ」以上の意味を持っており、今回はEVの走りの根幹を支えるモーター構成と、ガソリン車との決定的な違いについて見てみたいと思います。

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EVとガソリン車との違いとは

ぼくらが乗り慣れたガソリン車(内燃機関)は(通常)エンジン回転数が1,000〜7,000RPMの範囲で動作しますが、クルマを発進させるための強い力(トルク)を生み出すには、ギア比(例:3.5対1など)を利用してエンジンの回転速度を調整し、トルクを最大限に活用する「トランスミッション」が不可欠です(これがないと即エンストになる)。

そして速度が上がるにつれてギアを切り替えてゆくことで、「パワーバンド」から必要なパワーを取り出すわけですね。

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しかしEVだと事情は全く異なり、アクセルを踏んだ瞬間から、モーターは0から一気に(理論上ピークまで回転し、最初から強大なトルクを発生させたまま維持することが可能です。

そのため、EVには最適なトルクを引き出すための「ギア比」という考え方や、複雑な多段トランスミッションが不要という特性を持っています。

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その代わり、EVに搭載されているのが「単段減速機(シングルスピード・トランスミッション)」で、例えば9:1のギア比を持つ減速機は、モーターが9回転するごとに車輪を1回転させ、これによって超高速で回転するモーターの動きを「車輪が扱える実用的な速度」へと変換しているわけですね。

なお、多段トランスミッションを持たないことは部品点数の削減に直結し、これは車体の軽量化だけでなく、将来的な故障リスクの低減やメンテナンス費用の節約という、ユーザーにとって非常に大きなメリットをもたらします。※多段トランスミッションが存在しないのでトランスミッションオイルも存在せず、当然この交換コストも発生しない

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EVパワートレーンの制御は「デジタル」である

EVの技術進化における最大のトピックは「駆動系の完全なデジタル化」といっていいかもしれません。

かつて、滑りやすい路面で車輪の空転を防ぐためには、複雑で重い「機械式ディファレンシャルギア」が必要でしたが、最新のEVでは、VCU(車両制御ユニット)と呼ばれる電子デバイスがドライバーの運転状況やタイヤの滑りを検知し、各モーターへ送る電力を「ミリ秒(1000分の1秒)単位」で調整します。

どういうことかというと、雨の日や雪道でタイヤが滑ったとすると、最新のEVはタイヤが滑り始めた瞬間にソフトウェアが介入し、グリップしている車輪にだけ最適なトルクを瞬時に再分配することが可能に。

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「そんなことガソリン車にもできるじゃない」と思うかもしれませんが、ガソリンエンジンがトルクを発生させるには「吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気」という4つの工程を踏まねばならず、さらには必要なトルクを取り出すにはエンジン回転数の上昇を待つ必要があるため、いかに電子制御ユニットが素早い反応を示してECU(エンジンコントロールユニット)へと信号を送ったとしても、ガソリンエンジンはすぐにそれに対応できないわけですね。

つまるところ、EVはトルクコントロールに優れており(ガソリンエンジンに対して大きなアドバンテージを持っていると言っていい)、「オフローダーとEVとの相性がいい」とされる理由もここにあります。※もちろんオンロードにおけるトラクション確保の面でも非常に優れている

こういった事実は、もはや電気自動車の駆動系が機械工学の枠を超え、高度なIT・ソフトウェアの世界へと突入したシロモノだということもわかるかと思います。

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モーター数の差異が生み出す「走行性能の差」とは?

モーターの搭載数によって、EVの性能や市場での位置付けは大きく変わりますが、それぞれの特徴を比較してみましょう。

シングルモーター(後輪駆動が主流)

    ◦ 構造: 後車軸にモーターを1基配置。機械式ディファレンシャルギアで左右の車輪に動力を分配する。

    ◦ 特徴: スタンダードな日常使いに最適。片輪が泥などで空転すると、もう片方の車輪に駆動力が伝わりにくくなるという従来のガソリン車と同じ弱点がある。

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デュアルモーター(AWD / 四輪駆動)

    ◦ 構造: 前後車軸に1基ずつ配置。前後に機械的な繋がり(プロペラシャフトなど)は一切ない。

    ◦ 特徴: ソフトウェアが前後のトルク配分を瞬時に最適化。乾いた路面では後輪のみを駆動させてエネルギーを節約し、滑りやすい路面では前輪も駆動させるなど、非常に賢く効率的。

EV (2)

トライモーター(高性能スポーツEVに多い)

    ◦ 構造: 前部に1基、後部に独立した2基のモーターを配置(後部にディファレンシャルギアはない)。

    ◦ 特徴: 後輪の左右を完全に独立して制御可能。左輪が滑っても右輪だけで力強く前進できる。高速走行時は一部のモーターを休ませるため、意外にも航続距離の悪化を防げる。

EV (3)

クワッドモーター(究極のオフロード・ハイエンドEV)

    ◦ 構造: 4つの車輪すべてに1基ずつモーターを配置。ディファレンシャルギアは一切存在しない。

    ◦ 特徴: 究極の「ソフトウェア・ベースのトルクベクタリング」を実現。どれか1輪が滑っても、残り3輪で瞬時にカバー可能。左右の車輪を逆回転させることで、その場で回転する「タンクターン」などの驚異的な動きができる。左右駆動輪の機械的なつながりがないため、「より短い時間で(機械的な損失なく)の」トルクベクタリングが可能である。

EV (5)

結論

EVの進化は、「バッテリーで動くエコな車」という枠をとうに越えており、シングルモーターによるシンプルで効率的な走りから始まり、デュアル、トライ、そして各車輪を独立して支配するクワッドモーターへと至る進化は、自動車の駆動系が「機械的な制約」から解放されたことを意味しています(ある意味では物理の法則からの開放をも意味する)。

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「モーターが増えると電費が悪くなるのでは?」という心配も無用であり、というのも高度なソフトウェアが走行状況に応じて使用するモーターを切り替えたり出力を絞ったりすることでハイパワーと長い航続距離を両立させることができるから。

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クラッチも、プロペラシャフトも、ディファレンシャルギアも、場合によってはドライブシャフトすらも持たない最新のEV。

次にクルマを買い替える際は、ぜひ「いくつのモーターを積んでいるか」、そして「どんなソフトウェア制御を行っているか」に注目してみるといいのかも。

そこには、これまでの自動車の常識を覆す、全く新しい運転体験が待っている可能性が潜んでいるかもしれません。

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EVにおけるエレクトリックモーターの数による「違い」を解説する動画はこちら

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