
| エンジン搭載位置に「正解」はなく、その配置は「目的」によって決まる |
ぼくは「フロントエンジン」「ミドシップ」「リアエンジン」「MT」「シングルクラッチ」「デュアルクラッチ」「トルコンAT」「右ハンドル」「左ハンドル」「ガソリンオンリー」「マイルドハイブリッド」「PHEV」「EV」など、およそ考えうる限りのパッケージングやパワートレーン、駆動方式のクルマを(幸いなことに)所有してきましたが、今回焦点を当てるのは「エンジンの搭載位置」。
この搭載位置によってどういった違いが生じるのかを見てみましょう。
記事の要約(ポイント3選)
- フロントエンジン: 圧倒的な実用性と予測しやすいハンドリング。街乗りからGTカーまでこなす「万能の王」
- ミッドシップ: 究極の運動性能と流麗なデザイン。エンジンを中央に配した「走りのプロフェッショナル」
- リアエンジン: ポルシェの象徴。圧倒的なトラクションが生む「独自のドライビング体験」と伝統
なぜ140年経っても「正解」が決まらないのか?
自転車であれば動力発生の中心、つまりクランクとペダルは「サドルの下」と(リカンベント以外は)決まっているものの、しかし自動車の世界では140年以上の歴史がありながら、いまだにメーカーによって動力源(エンジン)の置き場所がバラバラです。
「フロントにエンジンを置いて室内空間荷室を広げるべきか?」「車体ミッドに置いてコーナーを攻めるべきか?」「あるいはトラクション重視のリアか?」
実は、エンジンの位置ひとつで、そのクルマが「扱いやすい相棒」になるか「手強い野生馬」になるかが決まります。
3つのレイアウトがもたらす「個性」の正体
エンジンという「重り」をどこに置くか。
それはクルマの運動性能だけでなく、メンテナンス性やデザインにも直結し、まずはそれぞれの特徴を見てみましょう。
1. フロントエンジン(FF / FR)
現代のクルマの大多数が採用するスタイルで、「基本中の基本」といっていいかもしれません。
- メリット: パッケージングが容易で車内空間や荷室を広く取れる。ボンネットを開ければすぐに整備ができるため、維持費も抑えやすい傾向にある。スポーツ走行においては挙動を把握しやすく、急激な、そして立て直しが効かないような制御不能には陥りにくい
- デメリット: フロントが重くなるため、カーブで外側に膨らむ「アンダーステア」が出やすいのが弱点。特に急ブレーキ時は前輪に負荷が集中する
「クルマの基本」ともいうべきレイアウトであり、「スローインファストアウト」「荷重移動」をしっかり行わないとうまく走れず、よって運転技術を磨くにはもっとも適したレイアウトなんじゃないかと思います。
もちろんFRを4WD化してアンダーステアを解消することもでき、このパッケージングであれば「安全に速く走ることができる」という高次元のパフォーマンス的バランスを実現することも可能です(メルセデスAMG、一部のM3やM4、そしてM5)。
参考までに、レクサスLFAが「ミドシップ」ではなくFRを選んだのは、急激な挙動変化を嫌い「扱いやすさ」を目指したためだと言われていますね。
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2. ミッドシップ(MR)
「走るためだけ」に生まれたスポーツカーの理想形。
- メリット: 重いエンジンを車体の中央に置くことで重量バランスが最適化される。クイックなハンドリングと、低く鋭いフロントデザインが可能になり前面投影面積も小さくなる(空力的に有利)
- デメリット: 後部座席は犠牲になり、エンジンへのアクセスも困難。整備内容によっては「エンジンを降ろさねばならない」場合も。スポーツ走行時には「一瞬で」バランスを崩すことがあるなど限界の把握が難しい
こちらもやはり「4WD化」することで安定性を向上させることができ、現時点で「ミドシップ4駆」は最強とも言えるパッケージングかもしれません。
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3. リアエンジン(RR)
現在ではほぼポルシェ911の独壇場となっている、希少なレイアウトです。
- メリット: 駆動輪である後輪に荷重がかかるため、発進時のトラクション(路面を蹴る力)が凄まじい。独特の「尻を振る」ような挙動は中毒性がある
- デメリット: 後部に荷室が作れず、フロントの小さな「フランク(トランク)」しか使えないため、積載性は極めて限定的。なお、リヤが重いため、下りながらのカーブでは「リヤが振り出される」ことも。スポーツ走行時にバランスを崩すと「スピン」どころか後ろを向いて飛んでゆくなど制御が難しい。その難しさは「ポルシェ使い」なる言葉があることからも理解できる
参考までに、前世代の「スマート」、つい最近まで販売されていた3代目ルノー「トゥインゴ」はRRレイアウトを採用していますが、これらは「限られた全長の中で室内空間を最大化するため」の選択であり、ある意味で「RR」は非常に空間効率がいいパッケージングだとも言えそうですね。
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各エンジンレイアウト特徴比較まとめ
各レイアウトの性格を一覧表にまとめると以下の通り。
| 特徴 | フロントエンジン | ミッドシップ | リアエンジン |
| 主な車種例 | トヨタ プリウス、フェラーリ 12チリンドリなど | ランボルギーニのスポーツカー、ロータスやフェラーリの一部モデル | ポルシェ 911、VW ビートル(空冷)、スマートやトゥインゴの一部世代 |
| 運動性能 | 安定・予測しやすい | 鋭い・高限界 | 独特・高トラクション |
| 車内空間 | 広い(5人乗り可) | 狭い(ほぼ2座) | 狭い(2+2が限界) |
| 整備性 | 非常に良い | 難しい | 普通〜難しい |
| デザイン | バランス重視 | 低く攻撃的 | 特徴的なリア造形 |
結論:最適なレイアウトは?
結局のところ、どのレイアウトが「最高」なのか?
この問いに答えることは非常に難しく、その答えは用途によって変わってきます。
- 「毎日の通勤や家族とのドライブを楽しみたい」なら、迷わずフロントエンジン。コスト、空間、安心感のバランスは最強
- 「週末のサーキットや峠道で、クルマとの一体感を味わいたい」なら、ミッドシップが正解
- 「伝統を感じながら、唯一無二のダイナミズムを操りたい」のであれば、リアエンジン(ポルシェ)以外に選択肢はない
自分のライフスタイルと「走りに何を求めるか」を考えれば自ずと答えは見えてくるものと思いますが、ぼく個人的に一番好きなのは「ミドシップ」。※あくまでも挙動の話であり、スタイリングはまた別の話である
参考までに、各エンジンレイアウトについては以下のような印象を持っています。
- フロントエンジン:安定感があり安心だがキレに欠ける
- ミドシップ:抜群の切れ味を持ち走っていて気持ちいい
- リヤエンジン:怖くて乗れない
電気自動車(EV)が変える「レイアウトの常識」
これまで「エンジンの位置」で語られてきた自動車工学ですが、EVの普及によりこの概念が根底から覆されようとしています。
EVは重いバッテリーを(ホイールベース間の)床下に敷き詰め、モーターを後部車軸の近い位置に配置する傾向にありますが、これによって「ほとんどEVは、究極の低重心ミッドシップ」に近い特性を持つように。
一部例外として、(パッケージング最適化を目的として)BMW i3のように「RR」的レイアウトを持つものもありますが、全体的に見て「重心」「重量バランス」が最適化されており、ガソリン車に対しては「比較にならないほど」の安定性、そして(多くのEVはトルクベクタリングを備えるので)高い旋回性能を誇っており、EVは文字通りのゲームチェンジャーだと考えています。
そしてEVはまだまだ発展途上の乗り物でもあり、つまり日々進化を遂げていて、今後は「インホイールモーター」など内燃機関では到底実現できないパッケージングを持つクルマが登場することとなり、「エンジン搭載位置」論争などは遠い昔の話となってしまう時代が目の前に迫っているというのが”自動車エンジニアリングの現在地”というわけですね。
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参照:Jalopnik
























