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カタログ馬力は「実際の馬力」とは大きく異なる?「駆動ロス15%説」の真偽、そして馬力を食い潰す“真の犯人”とは

フェラーリ849テスタロッサのホイール

| スペックシートの馬力が路面に届かない「空白の15%」 |

ただし必ずしも「実測値がカタログ値よりも低い」とは限らない

「850馬力のモンスターマシンのはずが、シャシダイ(計測器)に載せたら600馬力しか出ていなかった……」

クルマ好き、特にチューニングファンなら一度は聞いたことがあるこの絶望。

巷では「駆動ロスは約15%(あるいは20%)」と言われるものの、なぜこれほど大きなパワーが失われるのか?

結論から言えば、その犯人は「部品の重さ」と「摩擦」であり、ここでは具体例を挙げつつも、エンジンが発生した馬力がタイヤに届くまでに、どこで、どれだけ「奪われて」いるのかを見てみましょう。

ポルシェ・マカンのエンジンルーム
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【この記事の要約】

  • 駆動ロスの正体: ギア、ドライブシャフト、タイヤなどの「回転部品」を回すためのエネルギー
  • 15%説の真偽: 目安としては正しいが、本質は「割合」ではなく「固定の損失」
  • 最大の敵は「重さ」: 頑丈で重い(耐久性が高い)パーツほど、回すために多くの馬力を必要とする
  • 具体例: 500馬力のマスタングは、駆動系を回すだけで約120馬力も消費している
  • 新常識: パワーを上げても駆動ロス(馬力分)自体はそれほど増えない

消えた馬力はどこへ行く?「回転の慣性」という壁

エンジンが発生させたパワーは、クランクシャフトから始まり、多くの部品を経てようやく路面に伝わります。

  1. トランスミッション: 内部の重いギアとシャフト
  2. プロペラシャフト:駆動力を前後に分配するための「長い棒」※FR、あるいはリアエンジンやミドシップでも(ノンハイブリッドの)AWDの場合
  3. ディファレンシャル(デフ): 左右の車輪に力を分けるギア
  4. ハーフシャフト: デフからタイヤへ駆動力を伝えるための棒
  5. ホイール・タイヤ・ブレーキローター: 最終的に回すべき「重い塊」

これら全ての部品には「慣性(動きにくさ)」と「摩擦」があり、つまり、馬力の一部は「これらの部品を回すこと自体」に使い果たされてしまうというわけですね。

ポルシェ・パナメーラのシャシー(スケルトン画像)

Image:Porsche


車種別比較:マスタング vs S2000「重さ」が分ける運命

頑丈な大パワー車ほど、駆動系のパーツも(耐久性を確保するために)巨大で重くなる傾向にあり、これが「駆動ロス」を大きくする原因となるのですが、同時に駆動系を強化することで「価格も上がってしまい」、よって馬力を上げるということには様々なリスクが付随するということがわかります。

駆動ロス構造の比較表

以下は「マスタング」と「ホンダS2000」というFR同士の比較となり、マスタングの場合は発生する馬力に合わせて強靭で重い駆動系(あるいはさらにパワーの大きな上位モデルと共通の駆動系)を持っていて、そのためこの駆動系を「動かす」ことによる馬力の損失が大きくなっているわけですね。

項目フォード マスタング(大排気量)ホンダ S2000(軽量高回転)
公称出力(エンジン)500 hp240 hp
実測出力(タイヤ)約380~420 hp約200 hp
失われた馬力約120 hp約40 hp
駆動ロス率約20%約17%
主な要因頑丈なギアボックス、巨大なデフギア軽量なギアボックス、小型デフ、軽量ホイール

こんな要素でも「駆動ロス」は大きく変わる

このほか駆動ロスを増減させる要因としては、もちろん「精度」が挙げられ、より高い精度を持つ駆動系のほうが「より少ない」ロスで各部を回転させることが可能です。

そして「エンジンからタイヤまで」の駆動力伝達距離が短いクルマも駆動ロスが少なく、FFやMR、RRは一般に駆動ロスが少ないとされ、FRや4WDは駆動ロスが大きいとされるレイアウトです。

ポルシェ911ターボSの駆動系説明用スケルトン画像

Image:Porsche

なお、最近では「4WDであっても」前輪をエレクトリックモーターのみで駆動する方式も一般化しつつあり、ランボルギーニ・レヴエルトやテメラリオ、フェラーリだと849テスタロッサがこの方式を採用していて、これらは「駆動ロスを最小限に抑えた」4WDということに。

さらにEVだと多くの場合「トランスミッション」を持たないために駆動ロスが小さく、こういった構造的特徴が(エレクトリックモーターの出力特性と相まって)爆発的加速力を生み出しているわけですね。

そして「インホイールモーター」「クワッドモーター」となればもう駆動ロスは限りなくゼロに近く、となると「500馬力のクワッドモーターEV」は「500馬力のマスタング」に比較して”実際には20%も高い”計測値を出す可能性も考えられます。

ただ、EVはその車重に起因してタイヤやホイールが非常に重くなる傾向にあるため、今後EVが主流になってゆくに際し、「タイヤの回転慣性」が駆動ロス議論の主役になるのかもしれません。

メルセデス・ベンツのEVシャシー構造(4WD)

Image:Mercedes-Benz


結論:15%は「目安」であって「法則」ではない

よく言われる「15%の損失」という表現は、計算の目安としては便利です。

しかし、理論上は「馬力を上げても駆動ロス(数値としての馬力)は比例して増えない」というのが正しい考え方で、たとえば500馬力のマスタングにスーパーチャージャーを取り付けて「800馬力に改造したとしても、駆動系パーツ(ギアやタイヤ)の重さが変わらなければ、失われるのは「相変わらず約120馬力」で、この場合だとロス率は15%以下に下がることになります。

結局のところ、駆動ロスを最小限にして「速さ」を手に入れたいならば、エンジンのパワーアップと同じくらい「回転物の軽量化(軽いホイールやカーボンブレーキなど)」が重要であるということになり、次にクルマを選ぶ際にはここに注目してみてもいいかもしれませんね。

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