
| なぜ今、クルマの配線が変わるのか?急激な電動化とコスト高騰への対抗策 |
「素材の高騰」がクルマの設計を根本から変えてしまう
現代の自動車業界において、メーカーが最も頭を悩ませている2大課題が「コスト」と「車両重量」。
特にバッテリーや数多くの電子機器を搭載する電気自動車(EV)やハイブリッド車(PHEV/HEV)において、この問題は日々深刻さを増しています。
多くのメーカーがこの課題を同時に解決する手段として、目に見えない「クルマの血管」とも言える電気配線の素材を従来の銅からアルミニウムへ変更するという大胆な決断を下し始めているとも報じられ、100年以上続いていた自動車エンジニアリングの常識が今まさに覆ろうとしているわけですね。
この記事の要点サマリー
- 素材の歴史的転換:自動車メーカーが、従来の「銅製」から「アルミ製」のワイヤーハーネス(配線)へ急速にシフトしている。
- フェラーリの決断:フェラーリは初の100%電気自動車(EV)「Luce(ルーチェ)」やハイブリッドの「296 GTB」にアルミ配線を採用し、最大20%の配線軽量化を達成。
- 背景にある危機感:銅の価格が1トンあたり13,000ドル以上に爆騰。EV化による車両重量の増加と安価な中国製EVとの価格競争がこの変革を加速させている。

銅の価格が急激に高騰。背景にある世界的な原材料高のリアル
自動車メーカーがアルミ配線へとシフトする最大の理由は世界的な「銅」の価格高騰。
AIデータセンターの急増やクリーンエネルギーへの投資拡大によって銅の需要が爆発的に増える一方、その供給が追いついていないといい、2023年には1トン(1,000kg)あたり約8,000ドルだった銅の市場価格は現在13,000ドルを突破していて、しかしこれに対しアルミニウムの価格は1トンあたり約3,100ドル前後なので「アルミは銅の約4分の1の価格で手に入る」というわけですね。
新型車の平均価格がどんどん上昇し、ユーザーのローン長期化や支払滞納が社会問題化する中、自動車メーカーにとって配線の素材変更によるコストカットは死活問題とも言える重要な戦略となっており、あの手この手でコストを引き下げる方法を考えねばならないのが現代ということに。
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フェラーリ初のEV「Luce」も採用!「コスト」ではなく「パフォーマンス」のための20%軽量化
そしてこの「原価高騰」に苦しむのは大衆車メーカーのみではなく、価格競争とは無縁に思える超高級スーパーカーブランドの「フェラーリ」もやはりこのアルミ配線へと高い関心を示し、すでに実車へと投入していることが知られています。
フェラーリはプラグインハイブリッド(PHEV)モデルの「296 GTB」に続き、満を持して発表したブランド初の100%電気自動車(EV)である「Luce(ルーチェ)」にもアルミ製配線を採用しているのですが、フェラーリほどのブランドであれば、銅の価格高騰分を車両価格に上乗せすることは容易なはずで、しかし彼らがアルミを選んだ理由はコストよりも徹底した「パフォーマンス(軽量化)へのこだわり」から。
フェラーリの広報担当者によると、電力ケーブルなどの導体をアルミに変更したことで従来の銅製配線と比較して最大20%もの軽量化を達成したといい、1グラム単位の軽量化に大金を投じるスーパーカーの世界において、配線だけで20%もの軽量化を実現できるメリットは極めて大きいのというわけですね。

アルミ配線のメリットと各社の動向
自動車の配線素材としての「銅」と「アルミ」の特性を比較すると一長一短のトレードオフが存在し、しかし、近年の技術革新がその障壁を乗り越えつつあるというのが現在の状況で・・・。
銅 vs アルミニウム スペック・特性比較
- 重量(密度)
- 銅:約 8.9 g/cm³(重い)
- アルミニウム:約 2.7 g/cm³(銅の約1/3の軽さ)
- 電気伝導率(電気の通しやすさ)
- 銅:100%(基準)
- アルミニウム:約 61%(銅より劣るため、同じ電流を流すには配線を太くする必要がある)
- 市場価格(1トンあたり)
- 銅:13,000ドル超(高価・高騰中)
- アルミニウム:約 3,100ドル(銅の約1/4)
- 配線総重量の削減効果
- アルミニウム採用時:約 15% 〜 20% の軽量化(配線全体として)
アルミは電気の伝導率が銅の約6割に留まるため、同じ電圧・電流を確保するには配線を太く(断面積を大きく)しなければならないというデメリットが存在します。
しかし、アルミ自体が銅の3.3倍も軽いため、配線を太く設計し直したとしても、トータルでは20%近い軽量化のメリットが勝ることになり、さらにはアルミ特有の表面の酸化皮膜による通電不良リスクも最新の端子結合技術によって克服されているとされ、徐々にアルミの「メリット」がデメリットを超えるようになってきたというのが現在地。

自動車業界における各社の採用状況
実はこの動きは最近始まったことではなく、先見の明があったメーカーは早くから着手しており・・・。
- BMW:早くも2011年の「1シリーズ」からアルミ導体の研究・採用を始め、最新の第6世代「eDrive」EVテクノロジー(Neue Klasseなど)では高電圧・低電圧システムにアルミケーブルを広く導入
- テスラ:2019年の「モデルY」からアルミ配線を本格的に採用。製造コストの削減と効率化の武器としている※モデルY投入時、テスラは「ワイヤーハーネスの重量は従来のクルマの1/3とコメントしていた
- 中国のEVメーカー(シャオミ、Xpeng、Avatrなど):価格競争が激しい中国市場のメーカーは、マージン(利益率)を確保し、かつ航続距離を伸ばすための強力な手段として、アルミ配線を極めて広範囲に活用している
- ステランティス(Stellantis):近年、ひそかに一部のワイヤーハーネスを銅からアルミへ置き換え始めていると報じられる

配線の軽量化がもたらす「ドミノ効果」
車両全体の設計において、配線の軽量化は単に「数百グラム、数キログラム軽くなった」という点に留まらず、クルマが軽くなればそれを支えるシャシー(車台)やサスペンション、ブレーキといった足回り部品にかかる負荷が減るという現実も。
その結果、それらの足回り部品も「もっと細く、軽く、安価な設計」に置き換えることが可能になり、これを自動車工学では「軽量化の二次的効果(ドミノ効果)」と呼び、初期の軽量化以上のコストダウンと性能向上が数倍になって返ってくることがよく知られています。
当然、軽くなればEVの航続距離は伸び、走りの軽快さ(ドライビングダイナミクス)や乗り心地も格段に向上し、とにかく「軽さは正義」は今の時代であっても有効であり続けていると考えていいのかもしれません。

結論:目に見えない「配線」の変革が、次世代の自動車を形作る
かつて自動車の配線(ワイヤーハーネス)は純粋な通電性能だけを求めて「銅」一択の時代が長く続いてきましたが、しかし車両の電動化・肥大化が進み、さらにデータセンター需要による銅価格の暴騰という世界情勢が重なったことで業界はアルミへの移行という歴史的な転換点を迎えています。
大衆車メーカーにとっては「生き残りをかけたコスト削減の武器」として、そしてフェラーリのようなハイエンドブランドにとっては「EV時代でも妥協しない走りのための軽量化手段」として、アルミ配線はもはや不可欠なテクノロジーになったというのが「自動車業界の今」。
ボンネットを開けても決して見えない地味な部分ではありすが、こうしたエンジニアたちの執念とも言える素材の見直しこそが、次世代の自動車の未来を支えているということは覚えておく必要がありそうです。
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参照:CARBUZZ, Reuters











