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BMWが「DCTを廃止し、トルコンATとMTに絞る」とコメント。そもそもDCTとトルコンATはどういった違いがあり、メリットやデメリットは何なのか

BMW

| 近年のトルコン式ATの進化を鑑みるに、BMWの判断は非常に理にかなっている |

自動車に関する技術は日進月歩、トルコンATも以前とは比較にならないほどの効率化がもたらされている

さて、BMWは「最後のマニュアル・トランスミッションを搭載するMモデル」としてM2を発表していますが、今回、BMW M社の開発責任者、ダーク・ハッカー氏(名前がカッコいい)が「今後、BMWはデュアルクラッチを積むことはない」とカーメディアに対して明確に語ることに。

つまり、今後のMモデルは「MTとトルコン式AT」との2本立て(もちろんモデルによる)ということになりますが、わかっていたといえどもこれは(MTがなくなること以上に)ショッキングな事実です。

デュアルクラッチとトルコン式ATとはどう違うのか

なお、ぼくはあまりトルコン式ATが好きではなく、同じ「2ペダル式オートマティック式トランスミッション」でありながらも、デュアルクラッチ(DCT)とトルコン式ATとを明確に区別しています。

なぜかというと、両者の間にはそのパワー伝達方式に明確な差異があり、まずDCTはマニュアル・トランスミッション同様のクラッチを用いておりダイレクトにパワーを伝達することができ、これはいわばMTの自動化(ただし出力は2軸ある)であって、よりハイパワー化するクルマを正確に扱うために人間の能力を増幅する補助装置というか、パワードスーツのようなものだと考えています(増幅するのはパワーではなくスピードだけど)。※DCTはMTと比較してロスがない(ただしMTよりロスを少なくできるわけではなく、MT同等のパワー損失に押さえられるといったほうが正確である)

そういった意味で、ぼくはMTとDCTとをほぼ同列に捉えていて、(ずっとMT車に乗ってきたものの)けしてMT信奉者ではなく、MTを好んできたのは「ロスが最小限で、ダイレクトにパワーを伝達できるから」MTに乗ってきたのであって、操作を効率化でき、ステアリング操作やブレーキ操作、そしてなにより状況判断により多くの集中力を割けるのであれば、クラッチを踏み、手動で変速する理由はない、とも考えているわけですね。

一方のトルコン式ATはというと、これはMTをAT化したものではなく、「マニュアル操作を排除して”安楽に”運転することを目的で」誕生しており、いわゆる流体継手=フルードカップリングを介してエンジンパワーをアクスルに伝達する方法で、これは構造上(液体の動きに)タイムラグが生じ、そして同時にロスが生じるわけですね(たとえば、コップに入った液体の中心に棒を入れ、それを高速で回転させて、その回転によって液体も回転させ、回転した液体で駆動力を伝達するイメージ。実際にはこれほど単純ではなく様々な機構によって補完されるが、伝達に関する雰囲気はそんな感じだと捉えている)。

つまり、これがトルコン式ATの「ヌルっとした」「ダイレクトではない」変速の原因となるわけですが、エンジンが発生したパワーを駆動力に変換するに際し、ロスとタイムラグが生じることが課題となっています。

よって、この課題を解決するためにCVTが登場したりDCTが登場したわけですが、近年ではロックアップ機構の採用や高度化によって「ロスとタイムラグの無い(少ない)トルコン式AT」も誕生しており、ひとくちにトルコン式ATといっても多様化・高度化・高性能化しているというのが現在の状況です。

トルコン式ATにはメリットもある

ただ、一概に「同じ自動運転であっても、DCTとトルコン式ATではどちらがいい、悪い」ということを断じることはできず、というのも「車種や使用される状況によって判断が変わるから」。

たとえばDCTはダイレクトなフィールを実現できる反面、MT同様にクラッチを介して動力伝達のON/OFFを行うので、どうしても「連続的かつ流動的に」パワー伝達のON/OFFを行うことが難しく、たとえば赤信号のために停車しようと速度を緩め、停止直前まで行ったときに「青信号に変わり」、そこからアクセルを踏んだとしてもクラッチの接続がうまくゆかないことも。

そういった場合は車両がガクガクすることになり、これは著しく乗り心地を損ない、高級車には「まったくもって不向き」となります。

加えて、雪上や砂上、斜面などで微妙なアクセルワークが要求されるオフローダーについても同様で、「際どい状況を、ソロリソロリと走っていたのに」意図せぬクラッチの断続によってガクンと車体が動いてしまうと非常に危険な状況となってしまいます。

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ただ、トルコン式ATは(幸いにして)滑りとタイムラグが存在するので急激な変速やパワーのON/OFF、それによる車体の姿勢変化がなく、快適で運転しやすく、よって不特定多数の人が乗るクルマ、そのほかだと高級車やオフローダーに向いていると考えることが可能です(予期せぬ動きをしにくいといった点で、自動車メーカーにとっても、ドライバーにとっても制御しやすい)。

反面、DCTは「ダイレクトさやレスポンス、効率が重視される」スポーツカーに向いていますが、このDCTは「自動車を足として乗る人」には理解し難い挙動を示すことになり、よってディーラーには様々な問い合わせやクレームがあるとされ(こういった事情を鑑み、乗り心地が重視される日本市場ではDCTが普及しないとされている)、たとえばBMWはそういった問題を解決するために「DCTはこう運転する」という動画を公開したこともあるほどです。※、つまり、そこまでしなくてはならない、ということである

さらには「ダイレクトではない」ということが逆にメリットになる場合もあり、たとえばマニュアル・トランスミッション(のクラッチ)が吸収できないような大パワー・大トルクのエンジンを積んだ場合であっても、トルコン式ATであれば「ヌルリと」そのトルクを飲み込み、制御が可能となる場合もあるわけですね。

なぜBMWはDCTをやめるのか

すっかり前置きが長くなってしまったのですが、BMWは今後DCTを採用せず、トランスミッションについては「マニュアルとトルコン式オートマチック」のみとし、電動化車両についても「電動オートマチック」を採用するとコメント。

もちろんこれについては社内でも大きな議論があったといい、「DCTを残すべきである」という意見も多数あったものの、「コストのみではなく、操縦性や駐車の際など低速時の挙動、クリープ現象の制御、快適性など」の観点からトルコン式ATの選択、そしてDCTの廃止に踏み切ったと述べています。

つまり、DCTは「クイックでダイレクトではあるが」普通に乗るにはギクシャクした動きを示し、”不器用で厄介なトランスミッションに成り下がってしまう”と判断されてしまったわけですね。

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そして上で述べた通り、トルコン式ATについてはその技術が飛躍的に進歩しており、BMWは2019年にZF製の「8HP51」を採用していますが、これについては「現時点でこれ以上のトランスミッションはない」とも。

その理由としては、セットアップの範囲が広く、ドライブモードによる差を出しやすい(変速スピードや”滑り”を制御できる範囲が広い)こと、ロックアップ制御の進化によって「CVTやDCTの領域もカバーできるようになった」こと(効率性が向上している)を挙げており、「スポーティで加速感を感じ、ガツンとくるダイレクトな制御」を行える反面、「高級車のような、変速ショックを一切感じない制御」も可能となっていて、さらにはDCTでは難しい「段飛びシフト」が可能であること、重量が軽い(従来の6速ATに比較すると20kg軽い)ことも強調しています。※実際のところ、M4 CSLだけではなく、レーシングカーであるM4 GTRにもこのトランスミッションが搭載されている

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さらにダーク・ハッカー氏はこういった「オートマチック・トランスミッション(ギアボックス)の進歩が、ひいては車両そのものの進化をもたらす」ことにも言及していて、将来的には電動化されたMモデルには「電動化されたオートマチック・トランスミッションが搭載される」可能性についても言及しており、まさにトランスミッションの進歩によって「今までできなかったことが可能となる」可能性が出てきそう。

このあたりは「MTを(機械的に)自動化する」という自動車業界的な発想ではなく、「自動車をもっと楽に乗りたい」というライフスタイル的発想から生まれたトルコン式ATだけあって、むしろクルマのスマホ化が進む現代にはある意味で非常にマッチしており、ここ最近復権の兆しがあることにも納得ですね。

ちなみにですが、ぼくがミニJCW(F56)を購入した理由の一つには、BMWがそれだけ絶賛する8HP51を実際に体験してみたかったというものがあり、このクルマを自分のものとして、様々な環境にて乗ってみた実体験からするに、やはりBMWの主張は正しい」と認めざるをえないだろうというのが偽らざる心境です。

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参照:Top Gear

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