| 合成燃料(Eフューエル)に対する期待度は自動車メーカーによって大きく異なる |
ポルシェが合成燃料に期待を寄せる反面、メルセデス・ベンツはこれに全く興味を示さない
さて、現在ポルシェはじめランボルギーニなどが推進しているのが「合成燃料(Eフューエル)」。
これは水素ベースにてガソリンに変わる燃料を精製したもので、既存のガソリンエンジンに使用することが可能であり、燃焼時にCO2を発生させることになるものの、精製時にCO2を吸着しているため「製造から燃焼まで」を考慮すると結果的にCO2排出量がゼロになるという考え方を持っています。
実際のところ、ステランティスと石油大手アラムコが実施した研究によると、合成燃料を使用することで、既存の内燃機関から排出される二酸化炭素を70%も削減できることが分かっており、こうやって聞くと非常に理想的な次世代燃料であるように思うのですが、今回欧州では「各国の理解を得られず」その普及が暗礁に乗り上げたとの報道がなされています。
いったい合成燃料(Eフューエル)に何が起きたのか
報じられた内容によると、先日開催されたIAAモビリティ/ミュンヘンモーターショーの場において、ドイツのフォルカー・ヴィッシング運輸相は合成燃料に関するキャンペーンを行っており、ここでは合成燃料を(電動化以外での)CO2排出量削減を達成するもうひとつの手段としてアピールすることに。
ただ、この考え方に賛同したのはチェコ、日本、モロッコのわずか3カ国のみであったと言われます。
しかしながら「賛同国が少なかった」のは合成燃料そのものが問題というよりも、どうやらこれは、使用された表現に同意が得られなかったことが原因である、とも理解されているもよう。
どういうことかというと、フォルカー・ヴィッシング運輸相が提出した文書に署名した国には、「新しい合成燃料への投資、知識の共有を行うこと、そして "技術的中立性 "を守ること」を求めており、雰囲気的には「CO2排出量削減のため」というよりは「内燃機関の保護のため」、ひいては「抜け駆けしないように」という印象を与えてしまい、”バッテリー式電気自動車だけが長期的な解決策ではないことに同意する” ”足並みを揃えることに同意する”ことを望んでいると受け取られた可能性が大きいとされています。
同文書はまた、グローバル・サウス(南半球の後進国や低開発国を指す言葉)における前向きな進展についても指摘しており、「合成燃料の大量生産は、風力発電や太陽光発電のコストが低い場所で行ってこそ、特に有利な条件を享受できるだろう」という記述も見られるそうで(実際にポルシェは南米で合成燃料の生産を開始している)、こちらも環境ほどというよりはグローバル・サウスの支援を行うといった雰囲気が感じられます。
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とにもかくにも、フォルカー・ヴィッシング運輸相が行った活動の結果は芳しく無く、そのため同相は途中でキャンペーンを中止することとなり、チェコ共和国の担当者とともに「合成燃料の市場参入を成功させるには、包括的な政治的支援が必要です」という声明を出して中途半端に終ってしまったようですね。
合成燃料の未来はまだまだ不透明
なお、EUは当初「合成燃料のようにカーボンフリーであっても燃焼式エンジンは認めない」というスタンスを貫いていたものの、その後ドイツとイタリア、その他いくつかの国の働きかけもあって合成燃料を認める方向へと姿勢を変えています。
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そして上述の通りポルシェは南米に合成燃料の精製工場を建設してその普及に向けて大きな一歩を踏み出していますが、さらにはアメリカにも工場を建設する予定を持ち、こちらは2027年に稼働を開始する予定。
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そのほか、サウジアラムコも2つの実証プラントを建設し「合成燃料が実行可能なソリューションかどうか」を調査することを発表し、世界は少しづつ合成燃料の普及に向けて動いている、といったところです。
ただ、そのコストが非常に高いこと、政府の協力が(現時点で)得られないこと、今回わかったように賛同する国が少ないこと、そして大きな影響力をマーケットシェアを持つフォルクスワーゲンとメルセデス・ベンツが合成燃料に何の興味も示さないことなど、”越えねばならないハードル”も低くはなく、合成燃料の未来はまさに前途多難といったところですね。
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参照:Politico