| 合成燃料そのものはカーボンフリーだとされているが、生産や流通課程において多大なエネルギーを要するもよう |
加えて生産量が(今のところ)限られており、列車や航空機に優先的に回すべきという声も
さて、EUの「2035年以降の内燃搭載車の新車販売禁止」が一部修正され、合成燃料しか使用できない車であれば2035年以降も新車での販売を継続できることとなっています。
これに関する自動車メーカー各社の反応は様々で、フェラーリは「チャンスが拡大した」と述べ、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンは「今後の戦略に変更はない」、そしてまたある環境団体は「ほぼ意味がない」。
-
ポルシェがついに合成燃料(Eフューエル)の製造を実用化!「最初の一滴をポルシェ911に注入した」と発表し、これでガソリン車存続の可能性がちょっと開くことに
| ただし合成燃料には現時点で重大な問題があり、その価格がガソリンの5~10倍となるようだ | さらに、合成燃料を「カーボンフリー」のための手段としてすべての国や地域が認めるわけではない さて、ポルシ ...
続きを見る
ただしポルシェは合成燃料の生産を加速
ただ、ポルシェは合成燃料に先鞭をつけたということもあり、この合成燃料の生産を加速させる意向を見せていて、今回はチリのプラントに続いてテキサスにもその製造工場を建設するという報道がなされています。
これによると、米国テキサス州において、ポルシェが支援する合成燃料製造会社HIFグローバル社が合成燃料の生産施設としては世界最大規模となる工場の建設に関する承認を得たとされ、実際の建設は2024年から開始される、とのこと(ポルシェがどの程度の出資割合となるのかは不明)。
-
今話題の「合成燃料」!そのままガソリンエンジンに使用できカーボンフリーを実現できるものの「何が問題でなぜ普及しない」のか?
| そもそも合成燃料に対する国際社会の理解が進まず、その有用性が理解されていない | やはり普及させるには国際的な共通認識確立、各国政府の理解が必要 さて、昨今話題となっている合成燃料。これは石油由来 ...
続きを見る
なお、すでにチリでの合成燃料の生産も開始されており、つい先ごろ、ポルシェはここで生産した最初の合成燃料をポルシェ911に注入したと発表したところ。
これによりポルシェは合成燃料が既存のガソリンエンジン搭載車においてもうまく機能することを証明したわけですが、その次のステップとして、先日報じられたようにグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにて「合成燃料を使用した車両のみのレース」を行い、さらには今回の「テキサス州における追加での工場建設」に進むのだと思われます。
-
環境団体「ポルシェの進める合成燃料は、ポルシェ乗りのためのニッチな解決策にしかすぎません。リッター390円、しかも汚染性が高く、脱炭素化を遅らせる」
| 正直なところ、ボクは様々なハードルによって合成燃料は普及しないだろうと考えている | 合成燃料はどうやってもコストが下がらず、さらにガソリン並みの課税がなされると「とうてい通常の使用ができない」価 ...
続きを見る
現時点では合成燃料はガソリン価格の100倍
今回の工場建設承認につき、HFグローバル社の取締役会執行役員、メグ・ジェントル氏は「今回テキサス州では、合成燃料(Eフューエル)を商業規模レベルに引き上げ、年間約2億ガロンの合成燃料を生産する許可がおりました。これにより一層合成燃料が身近なものとなるはずです」とコメント。
なお、この合成燃料の生産にあたり、HIFグローバルは年間30万トンの水素と200万トンのリサイクル二酸化炭素を必要とするといい、水素と二酸化炭素をどこから供給し、どのように発電するのかが重要な課題だと見られています(これはポルシェに限らず、どの合成燃料工場でも同じことである)。
ポルシェそしてHIFグローバルがテキサスを選んだのは「テキサス州が、クリーンエナジーである太陽光発電を利用するのにもっとも適した天候を持っている」からだと思われ、しかし実際には「より少ない資源で、より多くの合成燃料を作る(環境負荷の低減)」ことを考えたほか、環境活動家への配慮だとも見られているもよう。
というのも合成燃料の生成には多大なエネルギーを要し、かつ原料となる水素の輸送、完成した合成燃料の輸送にもCO2を大量に排出する可能性が非常に高く、よって「実質的なCO2排出量が(プラスマイナス)ゼロ」となるものの、合成燃料は実は環境に優しくない、という意見も少なくはないためだと思われます。※よって合成燃料は自動車のためではなく、どうしても電化できない鉄道や航空機のために使用すべきであって、電化が可能な自動車はまず電動化すべきという風潮もある
なお、環境団体(ハイドロジェン・インサイト)の試算によると「合成燃料は、バッテリーに比較すると(その製造に際して)6倍の再生可能エネルギーを使用する」とされ、ポツダム気候影響研究所の報告書では、(ポルシェの)チリにある合成燃料施設での製造コストは1リットルあたりおよそ50ユーロ(およそ7,000円くらい)で、これはガソリンの卸価格(販売価格ではない)の100倍に相当するという試算も見られます。
ただ、さらに合成燃料の生産が効率化し、商業ベースでの製造が可能になれば、その製造コストは1リットルあたり2ユーロにまで下がる可能性があるといい(この場合だと末端価格はリッターあたり500-600円)、ここまで下がると「一般的ではないものの、富裕層がガソリン車を動かすための許容範囲に収まる」とも見られているようですね。
なお、HIFグローバルは、オーストラリアのタスマニアでも合成燃料を製造する予定を持っているそうで、将来的には「1リットル1ユーロ」まで生産コストを下げることを計画しているといい、ここまで下がればかなり実用的な価格となりそうですね。
合わせて読みたい、合成燃料関連投稿
-
フォルクスワーゲンCEOが同グループ内のポルシェが注力する合成燃料を批判?「内燃機関はとにかく滅ぶ。なのにEUが内燃機関存続を決定したのは耳障りで不快な雑音だ」
| フォルクスワーゲンは内燃機関を一掃したいと考えており、それを邪魔する要素を好まない | ただしポルシェの合成燃料に対しては一定の配慮を行っているようだ 現在ポルシェはフォルクスワーゲングループに属 ...
続きを見る
-
EUがついに「合成燃料(Eフューエル)の使用を前提に内燃機関搭載車の継続販売を認める」ことに合意!代替燃料専用の車両カテゴリーを新設し、2035年もエンジンが存続可能に
| ただし使用できるのは代替燃料のみ、ガソリンを使用する新車は2035年以降の販売はできない | 年間1,000台以下の規模にとどまる自動車メーカーはガソリン車を継続販売可能、そして販売済みのクルマは ...
続きを見る
-
メルセデス・ベンツ「合成燃料の未来は我々には全く見えない。ピュアエレクトリックカーそのものが我々の未来であり、他の選択肢はない」
| そのブランドの得意分野やポジションによって「内燃機関継続」かどうかの判断は完全に分かれるだろう | いまだかつて、これほどまでに判断が難しい局面は自動車業界に存在しなかった さて、少し前に、EUが ...
続きを見る